20話:敗北の余韻と冷たいシャワー
本日1話目
試合後のロッカールームは、重苦しい静寂に包まれていた。
1-2の敗戦。そして、終盤に巡ってきた絶好の決定機を活かせなかった惨敗感。
榊 迅は、自分の足元に転がった使い古されたスパイクを凝視したまま、ベンチから動けずにいた。
「おい、ジン」
静寂を破ったのは、主将のシュミットだった。
彼は汗と泥にまみれたユニフォームを脱ぎ捨てながら、迅の頭上から低く重い声を投げかけた。
「あれがプロの試合だ。ユースならコンマ数秒待ってくれた相手も、ここでは一歩の踏み込みで命取りになる。お前の頭がどれだけ冴えていようが、身体がそのプレッシャーに負ければ『ただの空振り』で終わるんだよ」
慰めの言葉など、一切なかった。
しかし、その厳しさの中に嘘はない。迅自身、痛いほど理解していた。相手DFのあの一瞬のボディコンタクト、胸を押された瞬間の重心のズレ――すべては自分がプロの「本気の強度」を肌で知らなかったがゆえの失敗だった。
シャワールームに入り、冷たい水を頭からかぶる。
水滴が頬を伝い落ちるのを感じながら、迅は目を閉じた。
(……悔しいな)
今までサッカーをしていて、「悔しい」という感情をここまで明確に抱いたことはなかった。
ただゲームを攻略するように、相手の裏をかいてゴールを奪う。それが迅にとってのサッカーだったはずだ。だが今、脳裏に焼き付いて離れないのは、右足が空を切ったあの瞬間の感覚と、ボールを抱え上げて嘲笑った相手キーパーの顔だった。
「ジン、帰るぞ」
ボランチのクリスが、心配そうな顔でシャワールームの入口から声をかけてきた。
「……ああ、すぐ行く」
迅は水栓を締め、タオルで髪を拭った。
バスでの帰り道、迅は一度もスマホを開かなかった。SNSでの批判や、メディアでの自分の評価などどうでもよかった。ただひたすらに、あの「空振りした瞬間」の自分の身体の動き、相手の圧力の角度を脳内で何千回と再生し、修正を繰り返していた。
フランクシュタットのクラブハウスに到着した時には、すでに夜の11時を回っていた。
解散の挨拶を終え、暗くなったグラウンドを一人で見つめる迅の背中に、マルクス監督が歩み寄ってきた。
「ジン。明日のオフ、どう過ごす?」
「……グラウンドを借ります。トラップの瞬間の重心の置き方を、やり直したいので」
迅が淡々と、しかし静かな熱を込めて答えると、マルクス監督は一瞬驚いたように目を見開き、やがて満足そうに口元を緩めた。
「いい度胸だ。だが焦るなよ。失敗を糧にできない奴に、次のチャンスは来ない」
暗闇の中、17歳のストライカーの目は力強く輝いていた。
プロの洗礼によって付けられた傷は、迅を折るどころか、より一層鋭利で冷徹なストライカーへと進化させようとしていた。
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