第11話:盤上のチェックメイト
1-2。反撃の1点を奪われたバイエルン・レヴァークーゼンのディフェンス陣に、明確な揺らぎが生じていた。
榊 迅が中盤まで下りてパスを捌く「ポゼッションの起点」となったことで、相手のボランチとセンターバックは、誰が迅のマークに付くべきかで意思疎通が乱れ始めていた。
(相手のボランチは僕を警戒して引き気味になった。センターバックも下手に前へ出られない。なら、次は――)
迅は相手の思考を読み切り、次の手を打った。
あえて再び前線の「CFの位置」へポジションを戻したのだ。
後半38分。相手のプレッシャーが弱まった中盤で、ボランチのクリスが完全に前を向いてボールを保持する。
「ジン! エティエン!」
クリスの叫びと同時に、前線の2人が同時に動き出した。
右サイドのエティエンが爆発的なスピードで外側へ開く(おとりラン)。相手の左センターバックが思わずその動きにつられ、中央のスペースがほんのわずかに広がった。
迅はその一瞬の隙を見逃さなかった。相手の右センターバックの視界から消えるように背後へ回り込み、そこから爆発的な加速で中央の「穴」へと飛び出す。
「通せ!」
クリスの右足から放たれたグラウンダーのパスが、相手DFの足元をすり抜けて迅の足元へ通る。
相手の右センターバックが慌てて反転し、迅を潰しにかかる。激しいコンタクト。だが、迅はスピードに乗ったまま右足のアウトサイドでボールを前方に流し、DFのタックルを紙一重でかわした。
ペナルティエリア中央。完璧な抜け出し。
飛び出してくる相手ゴールキーパー。迅は右足をコンパクトに振り抜くフェイントを入れる。キーパーが反射的に倒れ込んだ瞬間、右足のインサイドで優しくボールを叩き、キーパーの脇を抜くグラウンダーのシュートを放った。
静かに転がったボールが、右サイドネットを揺らす。
2-2。同点。
「ゴーール!!」
スタジアムが爆発的な歓声に包まれる。迅は駆け寄ってきたエティエンと力強くハイタッチを交わした。
相手の強固な守備網を、自らのインテリジェンスとスピードで解体し、最後は右足で仕留める。
明確な未来の約束もゴールもない。けれど、この冷徹で美しいゲームの快感がある限り、榊 迅の進撃が止まることはない。
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