第10話:ファーストチームの洗礼
プレシーズンを終え、いよいよ「アイントラハト・フランクシュタット U-19」の公式リーグ戦(Aチーム)が開幕した。
昨シーズンの実績とプレシーズンでの圧巻のパフォーマンスにより、17歳の榊 迅とエティエンの「変幻自在の2トップ」は、開幕戦のスタメンに名を連ねていた。背番号は迅が『9』、エティエンが『11』。迅はチームの真のストライカーとして認められつつあった。
開幕戦の相手は、ブンデスリーガの名門バイエルン・レヴァークーゼンの下部組織。
ピッチに足を踏み入れた瞬間、迅はその「異質さ」を感じ取っていた。
(プレシーズンの相手とは、守備の強度がまるで違う……)
ホイッスルが鳴ると同時に、相手の猛烈なハイプレスが牙を剥く。
中盤でボランチのクリスがボールを持った瞬間には、すでに3人の相手選手が囲い込んでいた。パスの供給源を完全に絶たれ、前線の迅とエティエンに良いボールが全く入ってこない。
「くそっ、前へ出させろ!」
エティエンが強引にフィジカルで押し込もうとするが、相手のセンターバックコンビは狡猾だった。ファウルギリギリの手を使ったホールドや体ぶつけでエティエンの体力を削り、完全に封じ込めていた。
前半だけで0-2。一方的な展開だった。
ハーフタイムのロッカールーム。静まり返る室内で、ヘスラー監督が厳しい表情で切り出した。
「ジン、エティエン。お前たちが前線で孤立している。相手はクリスを潰せば攻撃の芽が詰むと知っているんだ。どうする?」
エティエンは悔しそうに拳を握りしめているだけだった。だが、迅の脳はすでにフル回転していた。
「クリス一人に組み立てさせない。僕がもっと下りて、中盤の『出口』になる」
迅の発言に、クリスとエティエンがハッと顔を上げた。
「おいジン、お前が下りたらゴール前に誰もいなくなるぞ?」
「いなくなるから、相手のDFラインが迷うんだ」
迅の目は冷たかった。自分自身が『囮』となり、相手の強固な守備網を内側から破壊する算段だった。
後半開始。
試合が再開すると、迅はポジションを大幅に下げ、ほとんどトップ下の位置まで戻ってボールを受け始めた。
相手のセンターバックは戸惑った。迅を深追いしてついていけば、背後に大きなスペースが生まれてしまう。かといって放置すれば、迅の技術で中盤を軽々と突破されてしまう。
「出せ、クリス!」
プレスをかけられたクリスから、迅の足元へ鋭いパスが入る。
相手のボランチが激しく寄せてくるが、迅は右足のワンタッチでボールの軌道を少しだけ変え、寄せてきた相手の逆を突いた。美しいファーストタッチ。
「エティエン、走れ!」
迅は前を向くと同時に、相手センターバックの「迷い」によって生じた広大な裏のスペースへ向けて、右足のアウトフロントでキラーパスを通した。
「いけぇぇぇ!」
加速したエティエンがボールに追いつく。相手ゴールキーパーとの1対1。エティエンは右足を力強く振り抜き、ゴールネットを揺らした。
1-2。反撃の狼煙が上がる。
「ナイスだ、ジン!」
エティエンが疾走し、迅に向かって叫んだ。パスを出した迅は小さく頷き、すぐに自陣へと戻っていく。
(まだ終わっていない。相手はこれで僕の『下りる動き』を警戒せざるを得なくなった)
相手守備陣の思考を揺さぶり、選択肢を奪う。
明確なゴールなんて設定していない。けれど、ピッチという盤上で相手の裏をかき、追い詰めていくこのゲームの圧倒的な快感。17歳になったストライカーの瞳は、さらなる逆転のシナリオを映し出していた。
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