海神に囚われる
渦潮の中心に巨大な黒い影が見える。
会場の半分は一口で食べられてしまうんじゃないかというくらい、大きい。
会場内がパニックになる中、シーザー王が慌てて渦潮に近づき、懇願した。
「海神様!!何とぞ怒りをお鎮めください。今までも色が変化した美酒を捧げておりましたが、この度は何が問題だったのでしょうか……?」
シーザー王の言葉に、渦潮から地響きのような声が響き渡る。
「あれが一番の美声だと?お前たちの耳はどこについておる?あれでは美味い酒にならぬわ!!あの酒は特殊な酒でな、歌を聴き分けるのよ。今までの歌も最高の歌声ではなく、まあ及第点であった。それが今回の音楽祭はなんだ!?他にも優秀な者たちがおったのを差し置いてあの小娘を選んだな?そういう時は酒は赤く染まる。この海を赤く染め上げて良いという合図よ」
渦潮から見える巨大な影から少しだけ頭が見え、鋭利な歯をちらつかせた。
その様子に慌てたシーザー王と近衛兵たちはそろって頭を下げる。
「お許しください……酒は作り直しますので……!!」
「もう遅いわ!!手始めに最初の生贄はあの魚の小娘と思ったが……。ほう、珍しい……人間の小娘がいるのか。よくこの世界に渡ってきたものよ」
ステージから距離があるはずなのに、鋭い視線を間近に感じる。
私は震えが止まらなかった。
「人間の小娘からいただこうかの!!あとは生贄を捧げない限り、手当たり次第食い散らかしてやるわ!!」
ルイとユタがシールドのような防御魔法を施してくれたが、大量の海水が鋭い角のような形になり、ドリルのようにシールドを壊してしまった。
海水が巨大な手のようになり、私は海に引きずり込まれた。
バルトも私を助けようと手を伸ばしたけど、ルイとユタ同様に海流にのまれ、泳いでもたどり着けそうにない。
海神は大きな鯨のような姿をしていた。
私と目が合うと、ニヤリと笑うかのように目を細くさせ、私は怖くて怖くて仕方なかった。
ユタに無理やり異世界に連れてこられて、わけもわからず教師にさせられて、こんな終わりってあんまりだと絶望する間もなく、海水のせいで息苦しくなった。
意識が朦朧とする中、荒れ狂う波をどう乗り越えたのかわからないが、エミールが私に向かって手を伸ばしているのが見えた。
ハープの演奏も見事だったけど、もう一度エミールの歌声を聴きたかったなと思いながら、私は目を閉じた。
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