第9話『ダークウルフ』
「それにしても、勝手に受けて良かったわけ!?」
フローシアの声が、静かな平原に響く。
ケイスは頭の後ろで腕を組みながら、フローシアの3歩前を歩いている。
「別にいいだろーー?依頼を遂行したことには違いないぜーー」
少しずつケイスとフローシアの背中が小さく見える。
俺は重い足をなんとか動かして、ケイスたちを追う。
「大丈夫ですか?」そんな声が真横から聞こえる。
横に視線を向けると、太陽光に照らされた金髪をなびかせるルアナが俺を見上げていた。
赤い瞳が微かに発光し、俺はその光を拒むように目を逸らす。
「……構うな。ただ熱に弱いだけだ」そう吐き捨てるように言って、ケイスたちに視線を向けた。
ケイスはさっきよりもさらに小さく、フローシアも大きく突き放していた。
俺はその背中を見ながら黙々と足を進める。
ルアナも俺の隣をゆっくりと歩いている。
「ルトゥさん、質問よろしいでしょうか」とルアナが静寂を切り裂く。
最初は無視しようと思ったが、何を言い出すかわからないから「一度だけだ」とため息を吐く。
ルアナは少し嬉しそうに、ゆっくりと口を開く。
「なんで私を助けたのですか」
その言葉に少し引っかかった。
「助けたんじゃない。助かってるだけだ」ルアナは少し黙り、小鳥の声が鮮明に聞こえる。
同時に、濃い魔力を感じた気がした。
「その理由を聞きたいんです」ルアナは今度は理由を尋ねる。
「お前みたいに俺はその場の興で動く。理由なんてない」ゆっくりと魔力を貯めながら、少し足取りを速める。
ルアナは不思議そうに俺を見つめているが、ルアナに構っている暇はない。
『嫌な予感』と言うのは95%は外れると言うが、俺の場合は5%が多い。
少し経つと、ケイスとフローシアの姿が大きくなっていることに気づく。
その背後にはケイス9人分くらいの黒い影がケイスたちを追っていた。
「ルトゥーーッ!助けてくれーーッ」
そんなケイスの悲鳴が聞こえた。
正直助けるつもりはない。
「そいつくらい1人で倒せ」そう投げかけるが、ケイスは振り向きもせずに俺に向かって走り続ける。
「武器持ってないんだから戦えないだろーーッ!」
「なんで俺に持たせたんだよ」と思いつつ、鞘に入ったケイスのロングソードを投げる。
ロングソードは綺麗な楕円の軌道を描きながら、ケイスの手元に吸い込まれるように落ちる。
ケイスはロングソードを手に取り、鞘を投げ捨てると、勢いよく振り返る。
「うおーーッ!」
ケイスは雄叫びを上げながら、剣を振り上げる。
しかし、その時点で巨大な影は拳を振りかざしていた。
「あの狼、森にいたヤツか」目を凝らすと、俺が暮らしていた森に身を潜めていた『ダークウルフ』と呼ばれる狼だった。
個人的に『生態系の二番手』と蔑称で呼んでいたが、一般的には『危険な魔物』と言う立場だと言うことを最近知った。
そんな情報を脳内で整理している合間も、ダークウルフの鋭い爪がケイスの体に迫っていた。
「だ、大丈夫なんですか!?」隣にいたルアナも、ケイスが心配なのか小走りでケイスの方に向かっている。
俺はその場に腰を下ろして、ダークウルフを見つめる。
次の瞬間――
ダークウルフの巨体が吹き飛び、その先で砂煙が舞う。
「氷……か、令嬢くらいなら魔力自体は扱えるんだな」そんな独り言を呟きながら、煙が晴れるのを待っていると、中から腕が凍ったダークウルフが重い足取りで飛び上がった。
フローシアが颯爽とケイスの元に駆け寄ると「なにボーッとしてるのよ!」と叱りながら、ケイスの体をダークウルフの方に突き飛ばす。
ケイスは頭を掻きながら笑うも、再びロングソードを握りしめる。
同時にケイスの足元が沈み、静かな魔力が溢れる。
「火炎斬りーーッ!」その言葉と同時に、ケイスのロングソードが炎を纏う。
その炎を纏った刃は、氷で鈍ったダークウルフのスピードを上回り、その巨体を貫く。
同時に、その体毛が激しく燃え盛り、ダークウルフは唸り声を上げながら次第に静かになっていった。
「やったぜーーッ!」ケイスは飛び跳ねながら、俺の元へ近づいてくる。
その裏ではフローシアが「私のお陰なのよ!?」と顔を赤くしていたが、徐々にその顔には笑みが浮かんでくる。
ルアナは安心と、俺に対する疑惑のようなものを抱えている。と俺は勝手に思った。
「ルトゥーーッ!俺1人でやっつけてやったぜーーッ」
ケイスは大きな笑みを浮かべながら、剣を鞘にしまって俺に受け取らせる。
その後ろではフローシアがまた怒り、ルアナはその光景を見て笑みを浮かべていた。
「そうか、次は10体だな」ケイスの背後に指を差す。
その時、ケイスは口を開きながらその光景を眺めていた。
それもそのはず、ダークウルフの群れが俺たちの周りを囲っていたからだ。
ゆっくりと腰を上げ、ケイスのロングソードを再び渡す。
「俺は周りのを狩る。あくまでも"試し"だ」そう言って、ケイスたちに背中を向ける。
その間にも魔力が交差し、鉄の刃と硬質な爪が絡み合う音が響いた。




