第10話『魔族』
ゆっくりと、ダークウルフだったものが風に乗って消えていく。
「これで周りのヤツは始末したか」
ケイスたちが戦っている平原に視線を向ける。
視線の先では火花が飛び散っており、少しずつダークウルフが散っていく。
「やはり裏で動かしてるのか……」静かな森の奥から、草が震える音が響く。
音のする方に視線を向けるが、そこには影すら残っていない。
「……小汚い奴らだ」ルアナのことを思い浮かべるも、すぐにその顔をケイスに変える。
耳を澄ませていると、小鳥のさえずりに紛れて、小さく刻む足音が近づくのが聞こえる。
その方向に、ゆっくりと足を運ぶ。
その間も、遠くからは鉄がぶつかり合う音と、ダークウルフの悲鳴が響いていた。
「出てこい。|Hide-and-seekは苦手なんだ」そう呼びかけるも、草むらに身を隠している者は姿を表さない。
ため息を吐き、その場に腰を下ろす。
次の瞬間、木々の奥に人影が現れる。
人影はゆっくりと大きくなっていき、ついには草木の間から差し込む光が当たった。
「敵意はないようだな」その影が払われ、一人の男が姿を現す。
「殺意を向けられながらそんなこと言われてもな」男の姿は、人間だ。
けれど、頭部には二本のツノが生えており、背中には小さな羽が生えている。
俺の言葉を聞いた男は、軽く笑みを浮かべながら、再び俺に近づく。
「"ダーク・リヴァー"からの依頼だからな」男はそう言い放つと、一気に俺との距離を詰める。
「やはりな」ゆっくりと、手のひらに魔力を溜める。
その強大な魔力の圧が、恐らく格上であろう『魔族』の男の動きを鈍らせる。
魔族の男は額を光らせながらも「やはり王が言っていたことは本当だったのか」と吐き捨てて、不敵な笑みを浮かべた。
「超越する魔法――」
空気が震え、草木が悲鳴を上げる。
鳥は集団で羽ばたき、小動物は腹を向けてその場で動かなくなる。
魔族の男の体から暗い魔力の粒子が溢れて、手のひらに集まる。
男も両手にドス黒い魔力を纏わせ、距離を詰めてくる。
「深淵を操る魔法ッ」
男の両手から、無数の魔力の腕が伸びてくる。
その腕が、視界を覆う。
「我らのエクステアに来いッ!」腕の外から、男の声が響いた。
次の瞬間――
覆っていた漆黒の腕が、ゆっくりと、風に乗って消滅していく。
「くだらない魔法だな。生命への冒涜だ」ゆっくりと立ち上がり、片半身が消え、消滅していく男に近づく。
男は口角を上げて、俺を見上げ、静かに口を開く。
「ケリオス・トゥナ・アフィネスはお前を探して――」俺は男が話し終える前に、残っていた体を消滅させた。
男だったものは完全に消え、魔力が風に乗って遥か彼方に飛んでいった。
頭を押さえながら、森の外を見て、ケイスたちを見つめる。
「嫌な記憶があるもんだ……」そう吐き捨て、ゆっくりとケイスたちの方向に足を運んだ。
◇◇◇
「ルトゥーーッ!」平原のど真ん中、ケイスの声が響く。
あたりの地面は水浸しになっており、ケイスの服もびしょびしょに濡れていた。
「疲れた。早く帰るぞ」そう言って、アフィネスの方向に向かおうとするが、ケイスに腕を掴まれる。
振り返り、辺りを見ると、一面が水で濡れており、フローシアは地面にうずくまり、体を隠している。
ルアナは頭を振って、髪から水気を払っていた。
「俺たちは日向ぼっこしてからいくから、宿で待っててくれよなーーッ!」そう言って、ケイスはその場に勢いよく倒れた。
その光景に、思わずため息を吐いてしまう。
「まったく。面倒なヤツらだ」けれど、少し口角が上がっていたことに俺は気づかなかった。




