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第4話『ギルド』

オレンジに染まった光が、俺を照らし、何重にも重なった皿に影を落とす。


「満腹だ、会計は頼むぞ」そう言って、席を立ち、鈴の音が響く扉を後にする。


「くっ……食べ過ぎだろぉ」


ケイスの嘆き声が聞こえたような気がしたが、気にせずに夕陽に向かって進む。


ケーキの感想を脳内で言いながら、来た道を引き返していると、ギルドの建物が視界に入る。


「そういえばギルドのパーティに入れとか言ってたな」そんなことを思い出しながら、ふらっと肩を揺らしてギルドの建物を眺めていると、背中を思いっきり叩かれる。


「やっとギルドに入る気になったかーーッ!」


反射的に拳を握りしめたが、ゆっくりと力を抜いて振り向く。


「ギルドに入る気になったわけじゃない。ただ、約束を果たすだけだ」

そう言いながら夕焼けに照らされたケイスを見つめる。


ケイスは笑みを浮かべると、飛び跳ねながら受付の女性がいるカウンターに体を乗り上げていた。


ケイスの行動に受付の女性は苦笑いしながらも、色々と進めている様子で、影が伸びる頃にはすでにケイスが戻ってきていた。


「ただいまーーッ!」


相変わらずうるさい声に反応する気は始めからないが、思いとは裏腹に「うるさい」という言葉が耳に入る。


「うるっさいわねぇ!もう沈みかけの時間なんだから静かにしなさい」


ふと隣を向くと、いつの間にかフローシアが立っていた。


「いたのか」と聞きたくなったが、俺がケイスの行動に呆れていたせいで気づいてなかっただけだと思い、喉の奥に押し戻す。


ケイスは後頭部を掻きながら、フローシアの表情を伺っているようだった。


フローシアはため息を吐きながら、ケイスが手に持っている紙を奪い取る。


「どれどれ……」


フローシアは最初から興味があったのか、その紙に目が集中していた。


影がだんだんと伸びていると思えば、フローシアが紙をケイスに返す頃には影は全てを覆っていた。


「はい、次はアンタたちが読みなさい」


ケイスは「お前読むの遅すぎるんだよ」と言いたげな顔をしていたが、フローシアの威圧に視線を月に向け、紙に目を通す。


紙に目を通し始めて、直後。

ケイスは「終わったーーッ」とギリギリ耳障りな声で紙を俺に差し出した。


「終わったって……まだ5分も経ってないんじゃない!?」


フローシアはケイスの集中力の無さに驚いていた。

俺も驚いたが、俺が驚いたのはフローシアと同じ理由ではない。


「何を言っているんだ。1分も経ってないぞ」ケイスから押し付けられた紙を読みながら、適当に口を開く。


それから、ざっと10分くらい沈黙が流れた。

ケイスたちが黙っていたのか、俺が読むのに集中していたのかは知らないが、紙の最後の一文を読み終える。


無言でケイスに読み終わった紙を渡す。

月の穏やかな光が俺たちを照らし、空を覆う暗闇には、幾つもの小さな光が輝いて見えた。


「さて、俺は帰る」そう言って階段を一段降りたところで、ケイスの声が背後から聞こえてくる。


「帰るって、お前が家に着く頃には日が昇ってるんじゃないかーー?」


その言葉に、思わず足が止まる。

思い返してみれば、ここにくるまでにかかった時間は長かったことがわかる。


それに、またここに来なければならないと考えたら、あの猛暑の中を焼け死なないように来なければと考えたら、身の毛がよだつ。


「……宿に泊まろう。お前の金でだ」

そう言って、アフィネスの城門とは真反対の方向に足を運ぶ。


「また奢りかよーーッ」という声が聞こえた気がしたが、気にせずに暗がりに身を沈める。




◇◇◇




ケイスとフローシアの背中を見つめながら、宿があるという道を進む。


ケイスの頬は赤く膨らんでおり、声のボリュームもさっきまでと比べて特段小さくなった。


それもあってか、フクロウの声や虫の鳴き声がより鮮明に聞こえるようになった。


「まだか。かなり歩いた気がしたんだが」ケイスの背中に語りかけるが、反応はなかった。


正確には、反応していたが俺には聞き取れなかった。


ケイスは恐る恐る振り返って俺の顔を見つめる。


「わりぃ、声がデカいとフローシアにビンタされちまうからさ」


さっきまでとの落差に違和感を感じるが、深く考えずにケイスの背中を追っていた。


ふと、足を止めて建物間の闇に目を向ける。


次第にケイスたちの足音は遠くなっていたが、それ以上にその闇に潜む『音』に気が惹かれた。


「俺には関係のない事だ」と、いつもなら聞き流していた。

だが、足は無意識に月の光が届かない場所に体を運んでいた。


「今日捕まえた奴は上物だぜ?」

「ざっと5億エクは超えるんじゃないか?」そんな声が奥から、風に流れて聞こえてくる。


「その話、詳しく聞かせてくれないか」深淵を照らす微かな光を覗き込んだ。

その先には、二人の男が、血のついた紙を片手に話していた。


俺の声に気づくと、男たちは目を見開いて近づいてくる。

手には小さな光を反射する鋼の刃が見える。


男たちが刃を振りあげた。

その時点で、この男たちは俺の『始末対象』になった。


「俺は平穏が好きだった」魔力が空気を揺らして、小さな灯りをかき消す。

闇の奥から猫の鳴き声が微かに聞こえた。

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