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第3話『甘い話』

階段を登り、ケイスの背中がよく見える。


「ここがギルドか?」ケイスは大きな建物の前に立って俺を見つめている。


「ここがギルド。何をやるかはもちろんわかってるよなーーッ!」


ケイスはそんなことを聞いてくるが、俺はもちろんわかっていない。

そもそも森の中で育ってきた俺が博識なわけがない。


「知らないな。それより、ケーキはまだか」あたりの建物を見渡しながら、カフェらしき場所を探す。


すると、階段の方から荒い息遣いが聞こえ、視線を向けると赤と青の髪を揺らしながら階段を駆け上ってきたフローシアの姿があった。


「はぁ……ちょっと、待ちなさいよ……」


「ケイス、アイツはお前の知り合いか?」俺はケイスを見ながら、フローシアを顎で示す。


「ん?ああ、フローシアは俺の学校の同級生だぜーーッ」


学校という単語を聞いて、一ヶ月前からのことを思い出す。


「お前、俺に会ってから一ヶ月間。学校には行ってなかったのか?」俺がそう尋ねると、ケイスは視線を逸らし、同時にフローシアがケイスに詰め寄る。


「アンタ、最近見ないと思ったら学校サボってたわけーー!?」


フローシアの怒号が響き、あたりの人や、ギルドの建物の受付らしき女性が気まずそうに笑いながら俺たちに視線を向ける。


「悪い悪い、コイツの家が遠いもんで」


ケイスはフローシアの視線を俺に仕向けると、フローシアの標的が俺に変わる。


「アンタ!私に対してあんな態度……さらにはケイスを不良にさせたわけ!?」


フローシアの弾丸説教が止まらない。

だんだんとあたりに人が集まり、ケイスの顔にも汗が浮かんでいる。


「知らん。アイツが勝手に来ただけだ」フローシアを振り払って、集まってきた人をかき分けて、二人から距離を取る。


「まったく。なぜ俺があんな目で見られなきゃならない」小さく愚痴をこぼしながら歩いていると、甘い香りが鼻に入る。


視線を上げると、赤レンガで作られた壁に、木造の落ち着いた雰囲気のテラスが俺の小屋を思い出させる。


「チリンチリン」と鈴の音が響く。

中に入ると、甘い匂いに加えて、床の素材である木材の香ばしい匂いが鼻を通る。


「いらっしゃいませ」


女性店員が俺に駆け寄ると、一枚の紙が渡される。

そこには色々なデザートや飲み物などが書かれており、思わず固唾を飲む。


「ショートケーキもありだな……だが、モンブランも捨てがたい」


「飲み物は紅茶か?いや、コーヒーでも構わない」そんな独り言に、店員も少々呆れていたが、構わずメニューを目に通し、店員を呼ぶ。


「ショートケーキとコーヒーを頼む」そう言うと、店員は笑顔でカウンターに戻って行った。


俺はそのうちにテラスに足を運び、一番端の席に腰を下ろす。


「久しぶりのティータイムだ。いつもはアイツに邪魔されてたからな」肩を伸ばし、あたりの風景を眺める。


建物が多くて、自然は見えないが、建物の隙間から顔を覗かせる小さな動物に、思わず笑みが溢れる。


「お待たせしました」その声が耳に入ると、机の上に大きなイチゴの乗ったショートケーキと、挽きたてのコーヒーが置かれる。


思わず唾液が溢れそうになるが、必死に抑えてフォークをゆっくりと手に取る。


「それでは……いただく――」


ケーキを切り、フォークで刺し、口元に運んだその時――


「あ、いたーーッ!」


「バキッ」という甲高い音が響く。

声がした方に視線を向けると、相変わらず満面の笑みを浮かべるケイスと、不満そうにケイスの背後にいるフローシアが目に入る。


手に持っていたフォークだったものをテーブルに落としてゆっくりと立ち上がる。


「ケイス」俺は出来る限り低い声でケイスの名を呼ぶが、ケイスは呑気に「なんだーー」と返す。


超越魔法エクセインド――」


空気が震え、日を遮るパラソルが吹き飛ぶ。

椅子は倒れ、あたりの窓ガラスは激しく揺れる。


「ちょ、悪いッ!俺が悪かったーーッ!」


ケイスは俺が本気で怒っていることに気づいたのか、慌てて謝罪しだす。


ゆっくりと魔力が静まり、喧騒が消えて静まりかえる。


「……やっぱり人間相手には使いにくい」店員含め、あたりの人間は魂を抜かれたかのように俺を見つめており、フローシアも口を開き、汗を流しながら俺を見つめていた。


「ア、アンタ……魔法使いだったのね」


「驚くことはないだろ。魔法使いなんて、一つの国に一人はいる」呆然としているフローシアたちを無視して、席に座る。


そして、机を見つめる。

そこには、粉々になったフォークの残骸と、何も乗っていない皿だけが綺麗に残っていた。


「ケーキを2つ、モンブランを2つ……いや、この店のケーキを全てだ」固まっている店員に声をかけると、店員は再び動き出して厨房に向かっていく。


店員の背中を見送り、ケイスに視線を向ける。


「ケイス、全部奢れよ」口角を上げながら、ケイスを見つめ、厨房から聞こえる調理の音に腹を鳴らしながら、微かに魔力が集まってくることを感じた。

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