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第2話『王国へ』

「甘いケーキを奢る」という、ケーキよりも甘い話にまんまと乗せられ、ケイスに腕を引っ張られながら森の道をかき分けていく。


「お前、魔法使いだろーーッ!」


ケイスの無駄に大きい声が、森に響く。


「ああ、一応」俺はそう答えるが、その短い言葉を言い終わる前には、すでにケイスが口を開いていた。


「よーし!なおさらパーティに入れなきゃだなーーッ!」


ケイスは呑気に木々を踏みしめながら、リズムを刻んで開拓された道を進んでいくと、少しずつ木々が少なくなり、景色が変わっていく。


「森の外に出るのは何年振りか」そんなことを考えながら、ついには森の外に足を踏み出す。


さっきまで木々に遮られていた太陽光が、障害物に邪魔されずに、

草道を照らす。


足を一歩、太陽が照らす方へ差し出した。


「……ッ!?」そして一瞬で日陰に足を戻す。


「なんだこの暑さは」今までに感じたことのない灼熱の光に、陰から出れずにいると、ケイスが不思議そうに俺を見つめながら口を開く。


「暑い?そんなことないだろ、夏になると今日の倍くらいは暑いぜ」


ケイスの口から、サラッととてつもない言葉が放たれる。

思わず身震いしてしまうほどに。


「……今日の倍だと?」想像できない。ただでさえ溶けそうな暑さ。

それが今日の倍になる。

そんなこと、理解できるはずがない。


「冗談はよせ、早く王国に連れて行け」額から、冷たい汗が溢れる。


「そんなんで疲れてちゃ、アフィネス王国にはいつまで経ってもつかないぜ」


ケイスは何の躊躇いもなく、日陰から足を踏み出す。


「ここから一時間くらいだからな!」


「……帰るか」その言葉を聞いて、尚更体が動こうとしない。


それよりも、ケイスは1ヶ月、毎日一時間かけて俺の元に来ていたと言う事実が恐ろしい。


「……お前の執念だけは見習うよ」ため息を漏らしながら、ゆっくりと日の元に体を晒す。


それから1時間近くが経過した。

体内時計で大体わかる、昼前のティータイムの時間だ。


「……そろそろじゃないか」首から滝のように汗が吹き出し、髪は汗で湿っている。


「あと少しだーーッ!」


何度も聞いたその言葉に、「少し」の定義をもう一度見直そうと決心した。


そうして引きずるように足を運んでいると、突然背中を引かれ、その場に尻もちをつく。


「おっと危ない」


気づけば、崖っぷちに立っており、手前の岩が崩れる。


「おっ、見えたぞーーッ!」


ケイスが崖の先に指を指すと、巨大な岩の壁に覆われた、アフィネス王国が視界を覆う。


「……話には聞いていたが、ここまで広いとは」思わず、心の声が漏れてしまう。


「だろーーッ!俺の故郷だ」


巨大な壁の外は、大きな川が流れており、崖を降りてすぐの場所から橋がかけられている。


橋の上にはアフィネス人と、彼らとは違う服装の異国人の商人が橋の両脇で売店をしているのが目に入る。


「……帰っていいか。人の多い場所は嫌いなんだ」立ち上がって、その場で振り返る。


「おい!ケーキはどうするんだよーーッ」


ケイスの言葉に、足を止めて振り返る。


「俺に同じ手は通用しない」




◇◇◇




ゆっくりと、頑丈な木で出来た橋を渡る。


いざ近くで見ると、息が詰まる。

まるで蟻のように人がそこら中を覆っている。


「あともう少しだからなーーッ」


ケイスはリズムを刻みながら、橋を駆けていく。


人にぶつかっても、軽く頭を下げてそのまま走り去っているのを見て、「雑だな」と心の中で思う。


気づけば、ケイスの姿は人混みに混じって見失ってしまった。


「早すぎる。ネズミか、アイツは……」人混みを避けながら、城門に向かって進んでいく。


「……いや、ネズミに失礼だな」そんなことを思っていると、気づけば門の真下についていた。


辺りを軽く見渡すと、どんどん人混みを避けて進む、赤い髪が目に入る。


「はぁ、まったく」軽くため息をつきながら、ケイスの後を追って人混みをかき分ける。


気づけば、王国の中央らしき広場に着く。

広場の真ん中には大きな男の銅像と、それを囲う噴水があった。


「趣味の悪い銅像だな。人は人を崇めず、動物を崇めろよ」息を吐く様に独り言を呟いていると、突然背中を叩かれる。


「何やってんだよーーッ!」


ケイスの声が響くと、追ってもう一つの女性の声が響く。


「うるさいわね、アンタの声はすぐにわかるわッ!」


振り返ると、ケイスと、その背後に、青い髪と赤いインナーカラーの髪を揺らした女性が立っていた。


「今度はなんだ」


「ギルドだーーッ!ついてこいーーッ!」


ケイスは飛び上がりながら、背後の女性を無視して、人混みをかき分け、長い階段を駆け上る。


「はぁ、まったく」俺もケイスの後を追おうと足を動かす。

その間も、ずっと視線を感じる。


「あの、アン……あなた、ケイスの知り合いかしら?」


その言葉に、足を止めて振り返ると、ケイスの背後にいた女性が俺を見つめていた。


「いや、アイツに連れられてるだけだ」適当に返答をして、ケイスを追おうとしたが、その女性は間髪入れずに口を開く。


「私はインティバルデ家のフローシアよ!」


俺はフローシアと名乗る女性を見つめながら、そっと口を開く。


「そうか。悪いが、俺はケイスを追わなければならない、話は後だ」そう言って、フローシアを背中に、階段を登る。


ふと振り返ると、フローシアは顔を引き攣らせ、歯を食いしばりながら俺を睨んでいた。


「な、なによあの態度……!私が貴族令嬢と知りながら、なんで驚かないのよッ!」


その声は民衆の喧騒にかき消され、俺の耳には届かなかった。

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