第25話『運命の反逆』
ゆっくりと腕を締め付ける包帯を外す。
赤く湿った包帯が離れると、腕に残る縫い目が目に入る。
「あまり痛くなかったな……」軽く腕を動かしながら、痛みがないかを確認する。
ゆっくりと、レンガの床に手を置いて体を起こす。
最近はなかなかこの場所から動くことができなかった。
毎日のように兵士が街中を歩き回っており、住民が見つかるたびに検問されているのも見た。
「全く……Rebelのやつはどこにいるんだ」そう思いながら、俺の周りに群がる小鳥を見つめる。
すると、小鳥が急に飛び立ち、足音がハッキリと聞こえる。
「こんなところにいたのか」
顔を上げると、何度も見た仮面が目に入る。
「下は兵士がうろついてるからな。それに、城壁をつなぐ塔も監視塔に変わってしまった」城壁を見下ろすと、兵士が望遠鏡を覗きながら、何か話しているようだった。
「だからと言って、王城の一番高い屋根に張り付いてるヤツがいるか」
Rebelは頭を掻きながら、屋根に張り付いている俺を見下ろす。
「……少し変わったか。Rebel」Rebelの性格が少し変わったように感じた。
理由はない。強いて言うならなんとなく。
「そうか……」
Rebelは低い声でそう言い放つと、そのまま俺の隣に腰を下ろす。
Rebelはため息を吐くと、静かに口を開いた。
「君は……誰かに忘れられるのは寂しいか」
Rebelらしからぬ問いに、少々驚きながらも、その問いに答える。
「いや、俺はそもそも平穏に暮らす方が好きだ」そうは言いつつも、頭の中ではケイスのアホ面やフローシア、ルアナの顔が思い浮かぶ。
「……忘れるものがなければ、哀しくなんてならないだろう」小説の一文を、全く同じように口にする。
その言葉は、Rebelに向けてではなく、確実に自分に向けてのものだった。
「ふっ、君らしいな」
Rebelらしくない言葉を言い放つと、腰を上げて、屋根から飛び降りて一つ下の屋根に降りる。
Rebelは俺を見上げると、口を開く。
「それじゃあ、ケリオスを殺そう」
Rebelは仮面越しに表情を変える。
仮面で彼の顔は見えないが、声と雰囲気で分かった。
「急だな。まあ、俺もそのつもりだったがな」屋根から飛び降りて、そのままRebelの隣に降りる。
Rebelを横目に、王城の屋根上からアフィネスを見下ろす。
「もちろん、作戦は決めてるんだよな」俺がそう問うと、Rebelの仮面越しに息を吐いているのが聞こえた。
Rebelが俺の顔を見つめると、静かに口を開いた。
「すでに王女たちを嗾けている」
Rebelはそう言い放つと、俺の隣に立ち、アフィネスを眺める。
「そうか。じゃあもう行けるんだな」そう言い、屋根から飛び降りる。
Rebelのため息が聞こえた気がしたが、気にせずに王城の入り口に静かに足をつける。
◇◇◇
重い扉が大きい音を立てて閉じる。
徐々に光が影に染まり、廊下は完全に闇に落ちた。
その廊下に、二人の足音が響く。
「ところで、嗾けたってどうするつもりだ」俺の問いにRebelはすぐに口を開く。
「見ればわかる」
再び沈黙が訪れ、吐息と足音だけがよく聞こえる。
視界の奥の扉から光が漏れているのが見え、そこに近づくにつれて魔力がだんだんと濃くなっていくのを感じる。
ついに扉の目の前に着き、静かに扉に手をかける。
「開けていいか」俺の問いに、Rebelは顔を縦に振る。
俺は扉にかけた手の力を強くしたところで、ある違和感を感じた。
「この魔力……リアナか?」心の中でそう思い、なぜリアナの魔力が溢れているのかを考察する。
先に戦っているのか。
いや、その選択肢しかない。
そう思い込んだまま、扉を開く。
その瞬間――
血生臭い匂いと、王座に続く道に転がっているリアナ、キアナ、ルアナ。
そして――ケリオスの四人が血の海に倒れているのが目に入った。
「なっ……」開いた口が塞がらなかった。
その光景に、理解が追いつかなかった。
「お前、何をしたッ――」目を見開きながらも、勢いよく振り返ろうとしたその時。
急な眩暈と、頭痛。
そして、腹部に感じる燃えるような痛みに襲われる。
「ケリオスは表上の悪役だとしたら……私は黒幕だ」
Rebelの声が聞こえて、歪んだ視界の中、奴の足が血の海に波紋を立てて進んでいくのが微かに見えた。
「だが悪い結末を迎えたわけではない。まだ、主人公が来ていないからな」
Rebelの声が聞こえるたびに、大理石の床を握る手が強くなる。
魔力を溜めようとするが、何かに妨害され、魔力を練ることができない。
「ッ……Rebel《反逆者》めッ……」薄れゆく意識の中、かろうじて発した言葉は、Rebelに対する呪い。
「記憶の中で、永遠に眠っていてくれ」
「"メルートゥ"」
Rebelの言葉を最後まで聞き取ることはできなかった。
そのまま、意識は底に沈んでいった。




