第23話『明日も』
「リアナ第一王女から直々に見逃しの命が下された。せいぜい慈悲深きリアナ様に感謝するんだな」
銀色の鎧を輝かせた兵士はそう言い残し、背中を見せて王城に向かって去って行った。
そして、兵士の姿が完全に見えなくなると同時に深く息を吸う。
「誰が感謝するかーーッ!あんなヤツッ!」喉が掠れながらも、大声でそう言い放ち、勢いよく階段を飛び降りる。
背後から兵士の怒号と足音が聞こえた気がしたけど、聞いてないふりをして裏路地に逃げ込む。
「ふぅーー!まったく、大変な目にあったぜーーッ」深く息を吐きながら、影を伝って裏路地を進む。
影が光に掻き消された通路に足を伸ばして、空を見上げる。
雲一つもない青天に思わず見惚れてしまった。
「……フローシアは無事なのか。少し心配になっちまうな……」そう思いながら、周りを気にせずに歩いていると、体に衝撃が走り、その場に尻餅をつく。
「痛た……おい!何をするんだーーッ!」反射的にデカい声で腰を伸ばしながら、前に立つ影を見つめる。
少し肩幅があり、その立ち姿から男だと気づく。
しかし、その姿に一切既視感はなかった。
「……誰だ?ルトゥの知り合いかーーッ?」目の前に立つ男の顔をよく見ると、謎の仮面を付けていて、不気味な雰囲気を漂わせている。
「ほう、まさか私がルトゥ殿の知り合いとわかるとはな」
男はマントを払うように翻す。太陽を背にした細身の体は、黒い影となって俺の前に立っていた。
その男はゆっくりと俺に近づくと、手を伸ばしてきて俺の腕を掴み、俺を立たせる。
「まあ良い。名乗るつもりはないが、君に用がありましてね」
男は静かにそう言うと、マントを拾いに向かった。
俺は男に何者かを問おうとして、男の背後に忍び寄る。
「1週間後、ルトゥ殿に会った時は彼の名前を叫んでやってくれ。もちろん、フローシア殿と一緒でだ」
俺の腕が仮面の男に触れようとした瞬間だった。
突風が裏路地を吹き抜ける。
思わず目を閉じ、腕で顔を庇う。
風が止み、ゆっくりと目を開く。しかし、そこには誰もいなかった。
石畳の上を、一枚の黒いマントだけが残っていた。
「な、なんだったんだ……それに、なんでフローシアの名前を知って」呆然としていると、手のひらに違和感を感じる。
握っていた手を開くと、一枚の紙が小さく丸められていた。
その紙を開いてシワを伸ばす。
『この手紙を1週間後に再び読め』
この一文だけが書き記されており、それ以外に何もなかった。
「一体なんなんだよ……」微かに頭痛を感じながら、紙を握りしめて路地裏を進む。
◇◇◇
剣が大理石の床を跳ねて、高音を響かせながら影に止まる。
「ッ……Rebel」
第一王女であるリアナが肩を抑えて、息を整えようとしているのを眺める。
「私の……私のルアナを返せッ……」
武器も持たずして、私に向かって走っている。
その姿を見て、滑稽に思った。
ルトゥもきっとそう思うだろうと考えながら、リアナの首を軽々と掴む。
「一つ、話をしてやろう」リアナは私の腕に爪を立てて剥がそうとするが、彼女の力では私に傷はつけられない。
「王家の呪われた王女の話だ」静かに話を切り出すと、リアナは何を思ったのか、力尽きたにも関わらず、死に物狂いで私の腕を引き裂こうとする。
首を絞める手に少し力を加えると、リアナは歯を食いしばりながら、私の肌に食い込んだ爪を離す。
「名を『プラトゥナ』と言うんだがな、彼女のことは誰も知らない。貴女も王、ケリオスであっても」リアナの首を絞める手を緩める。
リアナの体は重力に従って大理石の床に落ちると、力無くその場に横たわる。
「彼女は『名』にとても強い呪いをかけ、王家に混乱をもたらした」リアナの周り、大理石の上を歩く甲高い音が響く。
リアナは唇を震わすと、横たわったまま口を開いた。
「だ、だとしたら……どうして貴様が知っているんだッ……」
掠れた声を放ち、強気な目で私を睨みつけている。
リアナの顔の前で、屈みながらゆっくりと顔を覆う仮面に手を添える。
「私の口から答えるつもりはない」そう言い放ち、ゆっくりと仮面を外した。
外した仮面の影から、リアナの痛みに歪んだ顔がハッキリと見えた。




