第22話『記憶の中で永遠に』
車内から響いた言葉に、思わずカーテンを握る手が強くなる。
「ここまで来て戻るわけにはいかない」口に出そうとしたが、うまく口に出せない。
その忠告を無視して、カーテンを引こうとするが、再び少女の声が俺の邪魔をする。
「君に消えられるのは不都合なんだッ」
俺はゆっくりとカーテンを引く。
その言葉遣い。覚えもあるし、その言葉が事実だと理解している。
だがそれ以上に、過去を知りたいという欲が、俺の命を遥かに上回った。
「喋るな、Rebel」吐き捨てるようにその言葉を溢し、カーテンをゆっくりと引く。
「待てッ……やめ――」
Rebelであろう声は途中で途切れる。
カーテンが完全に開くと、激しい光が目を刺激する。
「早く戻りましょう、リアナたちが待っています」
柔らかな声が響き、光に目が慣れる。
黒く長い髪。所々に鮮やかな桃色が入っているその姿は、まさに書斎に侵入した時に目にした女王そのものだった。
「これが生前の――」その時だった。
とてつもない頭痛と共に、誰のものかもわからない悲鳴が脳内に飛び交う。
視界にノイズがかかったかのように歪み、馬車から落ちそうになる。
「母様……!」「やめろッ!?」「歯向かうなッ……私が王だぞッ」「せめて……――だけは」
そしてさっきまで聞こえた声と同じ、少女の悲鳴。
「……エット、メル……、ラトゥ…」「父様……!?」「何をするつもりだ」「やめて」
謎の声に、さらに頭痛が激しくなる。
馬車の壁を抉るほどに指先に力が入り、壁には血が付く。
「うぐっ……記憶が……ぐあッ……」歪む視界の中、馬車の中にいた人間の顔を捉える。
女王、ケリオス。
メディエットが見せた絵本に載っていたインティバルデを名乗る男。
そして――
激しい轟音が響く。
あたりは燃え盛り、馬車は見る影もなくなった。
頭痛が少し収まり、頭を押さえながら火の海から距離を取る
「かっ……はぁっ……ッ」振り返り、火の海の中心を見つめると、女王がケリオスに抱えられながら、口から血を流している光景が目に入った。
女王の腹部からは長い槍が飛び出ており、女王の死の原因をこの目に刻んだ。
すると、さっき脳内で飛び交ったものと全く同じ内容で、あたり一帯が悲鳴に包まれた。
「女王シアンは……こうして命を落としたのか……」耳を塞ぎながらも、その光景から目を離すことはしなかった。
歯を食いしばり、重い足を火の海に向かって運ぶ。
「インティバルデが女王を殺したのか……?だが――」脳内で情報が完結しようとした時、腕に刺されたような痛みが走り、視線を向けると腕から血が吹き出していた。
意識が腕に向いた瞬間、見ていた世界が崩れ、全てが闇に堕ちた。
◇◇◇
「はぁ……はぁ……な、何をしてくれる」
焦ったような声が暗い世界に響き、瞼がゆっくりと開く。
目を開いてすぐさま、Rebelが視界に入るが、その様子は今までとは全く違っていた。
「あのままだったら……帰ってこられなかったんだよ……ッ」
俺は上半身を起こして、Rebelの仮面を睨みつける。
「なぜそこまで俺を欲する」俺の問いに、Rebelは一向に口を開かず、息を整え続けるばかりだった。
ふと自分の腕に視線を向けると、その腕は真っ赤に染まっており、その中心でナイフが腕を貫いていた。
「わ、私が貴方の意識を現実に向けなければ……あのまま追憶に閉じ込められていたんだよ……」
Rebelの口調は今までとは一切変わっており、それがRebelの焦りを表している。
「知らない……だが、なぜ腕を刺した」刺してから時間が経っているのか、または刺し続けたままだからなのか、あまり腕に痛みは感じず、それよりも熱さや痒みに襲われる。
「……ナイフを抜いたらすぐに包帯を巻け。次会うのは傷が癒えてからだ」
Rebelは俺の問いに一切答えず、包帯を俺の横に落としては、背中を向けて塔から姿を消した。




