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第21話『追憶の迷宮』

割れたガラスを踏み締め、太陽の元に体を晒す。


耳を澄ませると、普段とは違い、喧騒が聞こえないことに気づく。


「王家が何かしてるな」そう思いながら、近くの城壁をつなぐ塔に登る。


高所からアフィネスを見回し、目を凝らす。


王城前は処刑台だけがポツンと置かれており、周りに人は一切いない。


視線を移動して、アフィネスの中央広場には点々と人間がいるが、恐らく兵士だろう。


「Rebelの存在は王家にとって放ってはおけない存在なのか」そう思い、その場に腰を下ろす。


雲に覆われた空を見上げ、ゆっくりと息を吐く。


「俺の過去はなんなんだ……Rebelの契約はまだ続いているはずだ」そんなことをため息と同時に吐くと、突然背後に気配を感じる。


ゆっくりと振り返るが、誰もいない。


立ち上がり、城壁の外側を覗き込むように見る。


「なにかいたか」


背後から低い声が聞こえ、俺の隣にマントをなびかせて城壁の外を眺める男が視界に入る。


「……お前は本当に俺の過去を知っているんだよな」俺の問いかけに、Rebelは一切の間もなく口を開く。


「もちろんだ。今、全てを見るか?」


側頭部にRebelの手が添えられる。


「ああ。見せてくれ」前までの俺は、面倒ごとを避けることを重視していた。


だが、闇ギルドやルアナと共に過ごしていた結果、怠慢よりも興味を優先するようになった。


Rebelの手に魔力が集中して、風が止まる。


「一つだけ忠告する。貴方に死なれるのは困るからだ」


Rebelは手を離すと、再び城壁の外を眺める。


「私の能力は、脳内に世界を作り、その世界を操るというものだ」


夢、そして記憶。


Rebelが言うには、人間の脳というものはとても脆く、許容量を超えたら崩壊する。


「一度に知りすぎるな。戻れなくなる」


Rebelは再び、俺の側頭部に手を添える。


その手に魔力が集まり、同時に時が止まったかのように感じる。


「女王が死ぬ直前の世界を構築する――」


その言葉は途中で途切れる、一気に視界が歪む。


音は消え、世界から遮断された。




◇◇◇




肌に降り注ぐ冷たい感触に、目を覚ます。


空はドス黒く染まっているが、その奥に光る太陽も見える。


「本当に来たのか……?」そう思いながら、あたりを見渡す。


そこは俺が記憶世界に飛ばされる直前の場所で、アフィネスの姿は今とほとんど変わっていない。


しかし、ほんの少しの違和感が肌の鳥肌に現れる。


水に濡れた前髪を掻き上げて、微かに感じる魔力を頼りに、王城に向かって脚を進める。


水の溜まった屋根に脚を滑らせそうになりながらも、王城前の広場に脚を下ろす。


「……誰もいない」あたりを見渡すが、人の気配はもちろん。生物の気配すら一切しない。


目を刺激するほどに激しく発光すると、遅れて轟音が耳をつんざく。


「なんだこの異様な雰囲気は」ゆっくりと脚を後ろに運ぶと、肌に触れていた水の感触が消える。


同時に、腹部にとてつもない不快感を覚える。


視線を下げた時、細く、透き通った腕が俺の腹部を貫通して、その手のひらで雨水が弾けていた。


「雷鳴ってるけど、お母様たちは無事かしら」


ゆっくり振り向くと、赤い瞳を輝かせ、鮮やかな金髪をなびかせる少女と、その隣で大人びた笑みを浮かべるピンク混じりの金髪をなびかせた二人の少女が空を見上げていた。


「リアナとキアナか……?」見覚えのある顔と、忌々しき王家の血の匂いで、その二人の正体を即座に理解する。


さらに、キアナの手に重なった小さな手の先に、おそらくルアナであろう少女が指を咥えながら空を見上げていた。


「きっと大丈夫よ。ハイパシア男爵が護衛についてるもの」


幼き姿のキアナが、まるで最年長かのような仕草で、リアナの肩に手を添える。


リアナは自分の胸を抑えながらも、キアナの手を握って、王城の中に戻って行った。


「……今の王女たちとは全く違うな」そう思いながら、彼女たちの背中を見送った。


その時、突然背中を引っ張られたかのように、体が浮き、後ろに引っ張られるような感覚に陥る。


「なんだこれは……」地面から離れないように大地を踏み締めるが、空間そのものが俺を引き剥がすかのように、抵抗の意味もなく体が宙に放り投げ出された。




◇◇◇




水に濡れた草の上に、倒れ込んだかのように場所が変わる。


寝転んだまま、あたりを見渡すと王城が小さく見え、アフィネス周辺の草原だということを理解する。


立ちあがろうとしたが、人間とは違う足音に、反射的に身を屈める。


音の方に視線を向けると、大きな箱が、馬に括り付けられて草原を走っていた。


「……馬車か」警戒はしたが、俺の予想では、記憶の世界に干渉できなければ、記憶も俺に干渉できない。


そう思い、立ち上がって馬車の方に脚を向ける。


小走りで、馬車の進路へ向かい、走ってくる馬をすり抜けて、馬車の足場に脚をかける。


「物体に干渉することはできるのか……でなければ地に足をつくことができないな」暗闇の空を見上げながら、軽く息を吐く。


そして、視線を馬車に向け、馬車の中に入ろうと、車内を隠すカーテンに手をかけた。


「待て。中を覗くな」


幼い感じの女の声が響く。

それも、車内から。


カーテンを掴んだまま、動きを止める。


「……なぜ干渉できる」俺の問いに、一瞬の間が空き、再び車内から声が聞こえる。


「見たら戻れなくなる。"追憶"に閉じ込められるぞ――」

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