第20話『消えない点、伸びない線』
眩い光に目を細める。視界が晴れた頃には、多くの民衆がいた。
そこには、民衆たちが私をゴミを見るかのような目で見下ろしており、中には宴会で私をバカにしてきた貴族も見えた。
「これから30分後。フローシア・インティバルデをルアナ王女殿下誘拐事件の犯人として刑を執行するッ」
兵士は力強く叫ぶと、民衆は声を荒げる者もいれば、哀れみの目を向ける者もいた。
突然、視界の目の前にいる民衆が道を開けたかと思えば、そこから剣を持ったケイスがこちらに向かっているのが目に入った。
「フローシアーーッ……!」
ケイスは勢いよく飛び上がると、剣を引き抜き、剣に炎が走った。
「ケイス!?なんでこんな所に……!」ケイスは額に汗を浮かべながら、私との間に割って入った兵士の剣とぶつかり合う。
兵士の剣が火花を散らしながら、王城前の広場に転がると、ケイスは兵士の横腹を勢いよく蹴り、兵士は民衆の方へ飛ばされていった。
「宿の人に言われたんだよッ……お前が処刑されるっていうからッ!」
ケイスはらしくない焦り顔を浮かべながらも、私を拘束している物を外そうとする。
「……そうは言っても兵士を攻撃するって、アンタも死刑になるのよ!?」ケイスの顔を見上げながら、必死に説得するも、ケイスは聞く耳を立てずに、私の腕を縛っている鎖を剣で破壊する。
「お前に死なれたら、大変だからよーーッ!」
ケイスはそう言って、走ってくる兵士と剣を交える。
「なによ……それ」
ケイスは襲いかかってくる兵士を次々と薙ぎ倒す。
しかし、時間が経つにつれて、ケイスの動きにキレがなくなっていく。
「はぁ……はぁ……ッ!」
周りにはすでに兵士が何人も倒れているが、民衆は立ち退く気配もなく、逆にケイスにヤジを飛ばし始めた。
「……ケイスっ!アンタに死なれたら……私だって困るのよっ!?」私の声に、ケイスは私を見つめる。
ケイスは汗で額を照らしながらも、笑みを浮かべて剣を強く握る。
「それはお互い様なんだからッ!どっちも死なねえよーーッ!」
「そうだと良いわね」
突然、冷たい声が割って入った。
視界の端に長い金髪を揺らした女性が目に入る。
「ッ……リアナ第一王女!?」思わず大きな声で、その女性の名前を言ってしまう。
私の声に、リアナ第一王女は見下すような目で私を睨みつける。
「貴女たちは国民のために死んでちょうだい」
突然、寒気が肌をつんざき、異質な空気が息を詰まらせる。
高濃度の魔力が一面に広がり、それは瞬く間に民衆と私たちの間に壁を生成した。
「可愛い妹を傷つけた罰よ」
リアナ第一王女は冷たく言い放つと、腹部を貫かれたような激痛が走る。
「ッ……!?」
視界の端では、ケイスがゆっくりとその場に膝をつくのが見えた。
そしてリアナ第一王女が近づき、私の頭に手を当てる。
「まあでも、30分の猶予は守ってあげるわ。貴女たちはあくまでも『共犯者』だからね」
その言葉を最後まで聞き取ることは出来ずに、意識は闇の中に落ちていった。
◇◇◇
王城前での騒動を頭の隅に追いやり、王城の中に静かに足を踏み入れる。
兵士は全員、外に出ているのか、兵士の姿は見当たらない。
ゆっくりと廊下を進んでいると、前に見たメディエットの部屋が目に入る。
足音を立てないように、メディエットの部屋の前まで来て、ゆっくりとドアノブに手を当てる。
すると、最初から気づいていたかのように、部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえる。
その言葉を聞き、扉を押して部屋に入ると、椅子に腰をかけながら、カップを手に取っているメディエットの姿があった。
「失礼する」静かに言い放ち、メディエットを机で挟んで反対側の席に腰を下ろす。
メディエットは俺が座るや否や、口を手に押し当てて、軽く笑う。
「勝手に王城に侵入するのは処刑対象ですよ」
そうは言っているが、相変わらずメディエットの表情にはこの出来事を王に伝える意思がないのを感じさせる。
「悪いな。急用だったもので」俺の言葉を聞いたメディエットは、真剣な眼差しに変わり、机にカップをゆっくりと置く。
「それはフローシアさんのことでしょうか」
メディエットの核心をついた言葉に、返す言葉が出てこない。
かろうじてでた言葉は「誰の仕業だ」だった。
メディエットはゆっくりと立ち上がると、本棚から一冊の本を取り出す。
「フローシアさんの問題は彼女自身ではありません」
メディエットは取り出した本を開く。
「インティバルデ。家系の方に目を向けていただきたい」
メディエットが開いた本。
それは、侵入した書斎にあったようなアルバムとは違い、一つの絵本だった。
「あれは女王が亡くなって一ヶ月が経った頃」
メディエットが絵本の数ページをめくると、絵本のイラストが飛び出して舞台を形成する。
そのイラストはとても非現実的に描かれており、俺が知っている『絵』ではなかった。
「『インティバルデ』を名乗る男が、アフィネス王に決闘を申し込みました」
ページがめくられると、アフィネス王がインティバルデの男に剣を刺して、その上に立つような場面に切り替わる。
「『インティバルデ』を名乗った男は決闘の末に敗れ、国民の前に晒し首にされました」
メディエットは絵本を閉じると、柔らかな笑みを浮かべる。
「これは私が一人の時間に書いた絵本です。どれもお父様に聞かされた話を元に書きました」
メディエットは絵本を本棚に戻すと、今度は本棚の上に飾られていた写真を手に取って机に戻る。
「お前はその出来事を見ていないのか」俺の問いに、メディエットは写真に映る女王を指でなぞると、写真を机に置き、静かに口を開く。
「その時、私は何者かに誘拐されていました」
メディエットの言葉に、書斎に侵入した際に見たアルバムの内容を思い出す。
俺は口を開いたが、何も言い出せずに吐いた息を飲み込む。
「弟たちはその際に別れてそれっきり……」
俺は不意に窓を見つめて、まだ昇って間もない朝日を眺める。
「つまり、フローシアが処刑対象になってるのは、そのインティバルデ家を名乗った男のことが原因になっているのか」俺の言葉に、メディエットは目を瞑りながら、静かに頷く。
メディエットは机に置いたカップを再び口にする。
俺は静かに立ち上がり、部屋を出ようと、扉の前に立つ。
「邪魔をしてすまなかった」俺はそう言って部屋を出ようとするが、突然脳内に語りかけるかのように、Rebelの言葉が脳裏をよぎる。
「……俺は全てを知っている」何のための言葉なのかわからないまま、そう言い残して部屋を出た。
その言葉がメディエットに届いていたかわからない。
◇◇◇
目元の筋肉が痙攣し、目を開くことが困難だった。
意識が完全に戻る頃には、目元の痙攣も治り、完全に目を開くことができる。
「あ、目が覚めましたか……!」
目を開いてすぐに理解した。
私は今、ルアナ様に膝枕させれていることを。
私は急いで体を起こすと、照明のついていない部屋にいることに気づく。
「ここは私の部屋です。暗いのは……バレないため?です」
私は立ちあがろうとするが、ルアナ様に肩を優しく膝に戻されて、結局膝枕をされてしまう。
私は結局、抵抗せずにルアナ様の言葉を聞く。
「Rebelと名乗る者が注目されていたため、フローシアさんを助けることができました」
私はルアナ様の顔を見上げながら、ゆっくりと口を開く。
「何でこんな目に……ケイスは無事なの……?」いつの間にか視界が涙で歪んでおり、重力に従って涙が頬を伝って落ちていった。
目元で柔らかな布を感じると、雫が拭き取れ、ルアナ様の柔らかい笑顔がハッキリと見える。
「ケイスさんはご無事ですよ」
ルアナ様の全てを包み込んでくれるような優しい声に、思わず口が開く。
「それなら……よかった……」無意識のうちに目を閉じており、意識はすぐさまに闇に落ちた。




