第19話『深層』
太陽が登り、小鳥のさえずりが響く。
小鳥は天を見つめる俺の顔の上に乗り、まつ毛を抜いて飛び去る。
俺は手元にある手紙をゆっくりと開き、寝転んだまま、その手紙を目にする。
「……契約内容をまだ遵守できていない。一つだけ情報をやろう」
『君の深層意識と私の記憶で作った世界は君も覚えているだろう。
そこでだ、君の深層意識は覚えているものともう一つ。『体験した事』を具現化している。
そして私の記憶がそれを補完している。
つまりだ、君に見せたメディエットの10の歳の姿は』
――君が実際に見たものだ。
この文章の後は、筆跡があるが、無理矢理消されているようだった。
「……つまり、子供のメディエットに俺は会ったことがあるのか」それは確実に、俺の記憶には残っていないものだ。
だが、あの女のことだ。信じる他ないだろう。
「だが何故だ……?次にあの女に会った時に聞くとするか」そんな独り言を呟きながら、勢いよく体を起こすと、周りに寄っていた小鳥たちはビックリして飛び去ってしまった。
俺は飛び去る小鳥を静かに眺めながら、城壁第15塔を後にする。
◇◇◇
恐らくルアナとケイスがいるだろう宿に戻る。
ケイスに顔を見せたらうるさくなるだろうと思い、ルアナを寝かせた部屋の扉に手をかける。
しかし、どれだけ力を入れようと開かない。
「……もう部屋を出たのか」ケイスから盗んだ財布を置きっぱなしにしたことを思い出しながらも、仕方なくケイスのいる部屋に手をかける。
しかし、どれだけ力を込めても、扉の開く気配がない。
「なっ……ケイスが鍵を閉めるだと?」普段ではありえない出来事に、内心焦りながらも、宿を後にする。
駆け足で宿を飛び出すと、妙にアフィネスが静かなことに気づく。
「やはり……宿はスタッフが閉めたに違いない」外出する際も鍵を閉めない、注意力が欠損しているケイスが鍵を閉めたという線は追わずに、ケイスが外に出ているということを考える。
街中を駆けていると、だんだんと喧騒が増していく。
王城に続く階段を見上げると、多くの民衆が、王城に向かって階段を登っていることに気づく。
「何事だ……」胸騒ぎが治ることを知らずに、俺は民衆を掻き分けて、王城を目指して階段を駆け上る。
その間も、民衆の喧騒が絶え間なく耳に入ってきたが、それどころではないと、聞く耳を持たずに階段を登っていたが、確実に聞き取れた言葉に、足が思わず止まる。
「インティバルデ家の令嬢ちゃんが公開処刑だって……」「どういうこと?あのフローシア様が?」
理解が追いつかない状態で、再び足を動かす。
「フローシアが!?一体どうなっているッ」胸騒ぎが最高潮を迎え、血流が乱れていると、自分でもわかるほどだった。
フローシアの公開処刑。ケイスとルアナの姿が見えなかったのも腑に落ちる。
二人は確実にあの先にいる。
王城を見上げる。
階段には雪崩のように民衆が押し寄せていた。
掻き分けても、限界がある。
「ッ……知り合いが死ぬのは話が違うだろ」手のひらに魔力を溜める。
溜めた魔力を足元に集中させ、勢いよく発散させる。
体が勢いよく宙に浮き、民衆を見下ろす。
近くの建物の屋根に足をつけ、屋根を伝って王城に向かって全速力で駆ける。
脚力の調整をする余裕もなく、瓦礫は民衆の元へ落ち、悲鳴が響くが、そんなことを気にする余裕は俺にはなかった。
感情に任せて屋根を駆けていると、ついに王城前が見えてくる。
そこでは民衆が何かを囲うように円になりながら、中央に立つ人物を見つめている。
「いた……ッ!」手に魔力を最大限集中させ、勢いよく民衆の中に飛び込もうとしたその時。
「待て――」
冷たい声と共に、体の自由が奪われる。
視界の端にはRebelの仮面を被った者が映る。
「貴方が動かなくとも、勝手に助かる」
冷徹な声に、無意識のうちに唇を噛んでおり、舌に血の味が染みる。
「ッ……確証がないだろ」感情のあまりに、体から出せる限界の魔力を放出する。
同時に、民衆たちの視線がこちらに向く。
「バカ、何をしている」
Rebelの声が聞こえたかと思えば、突然視界が歪み、屋根に倒れる。
体の自由を奪われて、さらには口を開くことすらできなくなる。
「貴方の正体がケリオスにバレることが一番マズい」
Rebelは体を屋根に伏せて、俺にそう言い聞かせる。
民衆が集う方向から、兵士の鋭い声が聞こえる。
「Rebelかッ!出てきやがれ」「ルアナ王女殿下を返却せよッ」
兵士の足音が一斉に近づく。
Rebelはゆっくりと体を起こすと、自ら兵士に姿を見せる。
「さて、私はルアナ王女殿下を返すつもりはありませんよ」
Rebelはそう言い放つと、屋根を伝って、王城とは真反対の方角へと飛び去ってしまった。
気づけば、俺の体は自分の意思で動かせるようになり、静かに屋根の上から民衆が囲う場所に視線を向ける。
「なっ……どういうことだ」思わずそんな言葉が漏れる。
視線を向けた先、そこには処刑台。
たった一つの処刑台しかない。
そこにフローシアの姿はなく、民衆も慌てる様子を見せない。
「……理解が追いつかない」さっきまでの焦りは消え、理解が追いつかず、逆に落ち着いてしまう。
「メディエットに会え」そんな言葉が、脳裏をよぎる。
視線を王城に向け、深く息を吸う。
屋根を伝って、民衆を避けるようにして王城の影を踏み抜いた。




