第18話『真実は何処』
草木の間を縫うように、太陽の光が照らす。
小鳥はさえずり、朝の訪れを感じさせる。
「ここは……」と無意識につぶやいていたが、どう考えても、俺が暮らしていた森だ。
だが、違和感はそこではない。
「攻撃か……?」俺は確かに、ルアナの側で夜が明けるまで居たはずだ。
それにもかかわらず、今は懐かしの森にいる。
普通であれば『夢』と思うのだが、現実かと思うほどに、記憶も、感覚も本物に感じた。
「さぁ?それはどうだろうなーーッ!」
突然、聞き覚えのある声が響く。
あたりを見渡すが、そこには誰も居ない。
「ケイスか?」確かにケイスの声が耳に届いた。
しかし、ケイスっぽい人影は愚か、動物の気配すらない。
「どういうことだ……」そう思ったのも束の間、突然背中を蹴られたような感覚に、バランスを崩して地面に手をつく。
「ここが夢かなんて、アンタには知る由もないわ」
今度はフローシアの声が響き、風に乗って消えていった。
もちろん、振り返っても誰も居ない。
「夢か?幻か?」そんなことを考えても、ここから抜け出す方法なんて一切ない。
十中八九、他者の術による攻撃だということは、本能で理解した。
ゆっくりと立ち上がり、手に魔力を溜めようとしたが、思うように魔力を集中させることができない。
背後の草むらで「ガサッ」と何かが動く音が聞こえ、視線を向けるが、人の姿はない。
「次はルアナか」誰も居ないはずの草むらに声をかける。
すると、背後から柔らかい声が届く。
「大正解。記憶を辿ったかしら」
振り返るが、またしても誰も居ない。
同時に、ここが俺の記憶の世界なのでは。という疑問が高まる。
口をゆっくりと開き、声を出そうと思ったその時、俺の声を遮るように男の声が聞こえる。
「半分正解で半分不正解かな」
「わざわざ隠れないで出てこい」と言おうと思いながら振り返ると、そこにはメディエットが立っていた。
その姿には若干霧がかかっており、ハッキリと視認することはできない。
「この世界は君の深層意識と私の記憶を元に形成した世界」
メディエットらしき人物は、ゆっくりと俺に近づくと、その姿がハッキリと映った。
その人物は紛れもなくメディエットだった。しかし、人物は同一であれど、そのメディエットは俺の知らない時系列の姿だった。
「ちなみにこの姿は私が10の年月を跨いだ時のものだ」
メディエットはそう言い終わると、手を自らの顔に当てる。
すると、赤い霧のようなものがメディエットの顔を覆ったかと思えば、その輪郭が崩れ始めた。
気づけば霧は晴れており、メディエットの顔を持った俺が目の前に現れた。
「ちなみに、メディエット殿が10の年月を跨いだ年は女王殿下が暗殺された年だ」
Rebelはそう告げると、俺の頭に指を当てる。
「話は現実でだ」
◇◇◇
意識がハッキリとした頃には、月の元に晒されていた。
月は満月が過ぎ、不自然な円形を形取っていて、昨日までと変わりないように見えた。
「……夢、だったのか」そう思い、立ちあがろうとすると、首元を掴まれ、身動きが取れなくなる。
「振り向かないで。それと私の質問には『はい』か『いいえ』で答えて」
そんな柔らかい声が耳に響く。
予想していたRebelの声とは全く違う、女性の声だった。
「誰だ、お前はRebelなのか」俺がそう問うと、首をより強く絞められる。
「あなたは『はい』か『いいえ』でしか回答はしてはいけない」
女はそう言うと、首を絞める力を緩めた。
俺は振り向こうとするが、そもそも体を動かすことすらできないことに気づく。
「それと、嘘を付いたらダメ。首を絞める」
女の手はいまだに俺の首に添えられており、いつでも絞められると言わんばかりに、指先を震えさせていた。
「まず、あなたはルトゥですか」
そんな単純かつ、嘘のつき用のない質問に、内心呆れながらも、ゆっくりと口を開く。
「はい」そう思っていた。誰でも、この質問に『はい』と答えるであろう。
だが、それは答えではなかった。
女の指先に力が集中して、俺の首の骨が軋むほど、強く首を絞められる。
「嘘はつかないで。次」
首を絞める手が緩まると、女は再び口を開いた。
「あなたには親族がいるか」
俺には家族がいない。だが、この女がどこまで知ってるかわからない以上、『嘘をつく』と言うのが最善な答えだと、短い猶予で理解した。
「……はい」
あっていたのか、首は絞められなかった。
だが、心臓が三度鼓動した時、再び息をすることができなくなった。
「嘘をつかないで」
女はすぐに首を絞める力を緩める。
俺は何が何だか理解することを拒んだ。
この女は何を知っていて、何を知らないのか。
女は一息吸うと、再び口を開く。
「最後。あなたはケリオスを殺したいか」
その問いを耳にした時、俺は何も考えずに「はい」と回答した。
女の小さい鼻息が聞こえると、首にかけられていた手が離れる。
「それじゃあ、私はRebelとして行動する。あなたはメディエットに会い、こう言いなさい」
女の声は、途中で男の声。俺に似た声に変わる。
女は少し黙ると、再び息を吸って
「『俺は全てを知っている』……っと」
俺はその理由を問おうと、振り返ったが、そこには風と一枚の手紙だけが残されていた。




