第17話『仮面を被った者の末路』
『Rebel《反逆者》』そう名乗った者は、確かにRebelだ。
仮面も、マントも、声も、全てRebelそのものだ。
だが、明確に違う点がある。
「そうだとも。貴方がRebelであることは知っている」
男は俺と同じように鼻で笑うと、窓から足を下ろして俺の前に歩いてくる。
「そして私は、貴方よりも貴方を知っている」
男がそう言い放つと、本棚に勢いよくナイフが刺さる。
手に静かに魔力を溜めて、男を睨みつける。
「それで、何のために俺の元へ来た」近くの本に触れて、本に魔力を流し込む。
男は、両手を腰の裏で組むと、ゆっくりとその足を俺に向けて進める。
「貴方の目的は私も理解している。この書斎に来た理由もよくわかる」
男は突然手を俺に向ける。
しかしそれは、敵対の意思ではなく、手を差し伸べているように見えた。
「そこで契約を結びたい。私は貴方の全てを知っている。貴方は、貴方自身の全てを知りたがっている」
俺は男の手を睨みつけ、警戒を緩めることはできない。
しかし、確かに男の言っている言葉に興味を惹かれている。
「契約……とはどういうものだ」俺の問いに、男は結末を知っているかのように軽く笑う。
「私と共に、アフィネス王を討とうではないか」
俺はその契約の内容に、考えることもなく、口だけが先に動いていた。
「……了解した」その言葉を聞いた男は、またしても俺の返答が予想の範疇だったかのように笑うと、一枚の紙をナイフの隣に投げ刺した。
「それがその血の運命……という物だ。その紙を受け取るといい」
男は言い終わると、突然視界から姿を消す。
俺は耳元を掠めた手紙を手に取り、ゆっくりと開いた。
「明日、月が登った時。第15塔で落ち合おう」手紙にはそう書かれていた。
俺はため息を吐き、手紙をゆっくりと戻して、ポケットにしまった。
立ち上がり、窓に足を掛けた瞬間。再び男の声が聞こえた。
「言い忘れていたことがあった」
男は声だけを残すと、俺の目の前に黒い影を落とした。
視線をゆっくりと落とす。
「ッ……」思わず言葉を失った。
そこには深い傷を負ったルアナの姿があったからだ。
「あとこれも返すよ」
男の声が聞こえなくなると同時に、倒れたルアナの上に、Rebelの仮面が落ちた。
「本当にルアナを殺したのか……?」そんな思いが、思考を遅らせる。
急いでルアナの元に駆け寄り、傷の深さを確認するが、それはナイフなどのような物ではなく、もっと柔らかい。
"紙"によって斬られた傷だった。
自分の上着を力尽くで破り、ルアナの傷口を締め付けるように、その布を被せる。
「……一先ずはルアナの看護が優先だ」自分で言った言葉にもかかわらず、なぜ「俺がこんなことを言っている」という困惑の中、ルアナを背負って、満月の下、アフィネス王国を駆けた。
◇◇◇
今まで泊まっていた宿、ケイスが寝ている部屋と隣の部屋にルアナを運び、ルアナをベッドに寝かせる。
「まったく……」俺はゆっくりと立ち上がり、隣の部屋にいるであろうケイスの様子を確認しようと、部屋の扉に手をかける。
「ルトゥ……さん」
そんな、弱々しい声が耳に届いた。
俺は振り返り、ルアナの側に腰を下ろす。
「なんだ」傷に苦しんでいるのか、顔を強張らせているルアナを横目に、窓の外を眺める。
「助けてくださり……ありがとうございます……」
弱っているルアナの姿を見るのは、心苦しい。
助けた理由を問われても、それは借りを返したとしか言いようがない。
「……俺のせいでこんな目に合わせたんだ。少しは面倒な目に遭わなければならないだろう」静かに暮らしたい。そんな想いとは裏腹に、すでに真逆の生活を過ごしている。
それでも、自分に対する罰だと受け取っている。
そんな俺の回答に、ルアナは不自然な笑みを浮かべる。
「ルトゥさんは……良い人って、フローシアさんも言ってましたよ」
ルアナは俺の服の袖を握ると、再び目を閉じた。
俺はルアナの言葉に、胸を締め付けられた。
「……俺は誰なんだ」
月明かりは、眠っているルアナを照らした。
普段は聞こえなかった梟の鳴き声が、確かに聞こえた気がした。




