第16話『満月の夜、王城の元で』
『パリーーーンッ!』甲高い音が響き、ガラスの破片が飛び散る。
照明のない部屋、割れた窓から太陽の光が壁一面に並ぶ書籍を照らす。
「それにしても……大事にしすぎたか?」そんなことを思いながら、本棚にある一冊の本を手に取る。
どこにでもあるような剣士の入門的な本だ。
「違う」本を元あった場所に戻し、他の本棚の本を手に取る。
「これも」再び本を元あった場所に戻して、辺りを見渡す。
「隠された書斎……確実にあるはずだ」一切扉のない書斎。窓とは真反対に位置する、光が届かない本棚を見上げる。
ゆっくりと本棚から一冊の本を手に取る。
とても埃がかかっており、数年間、一切手入れされていない物だとわかる。
「王家……第一王女成長記録 3」埃の下から現れたタイトルに、思わず手を動かしてしまう。
その本は、第一王女。
リアナ・ルナ・アフィネスの成長日記だった。
生まれたばかりのリアナ、王城の中庭で走り回るリアナ。
本来ならば微笑ましい物なのだが、俺からしたらただのつまらない劇場にしか見えない。
「なぜこんなものが封印されているのか……」そう思いながらも、ページを1ページずつめくっていく。
7月1日――リアナは今日も可愛らしい。キアナと共に走り回っている。
7月2日――××が陣痛で病院にいった。リアナとキアナは私と××を見守っている。
そこには女王と思われる人物を見守っているであろうリアナの写真が写されていた。
「なぜ女王の名だけが破かれている……」そう思いながら、次のページにめくる。
その瞬間、激しい頭痛に思わず頭を抑える。
「ッ……やはり、王家は……ッ」頭痛に襲われながらも、その写真を見つめる。
7月3日――新たに王女が生まれた。名はルアナ
そこには、女王に抱かれる、生まれたばかりのルアナの姿があった。
しかし、視線は女王から離れられない。
「やはり……俺は王家と繋がりがある……でなければ、この頭痛の正体に辻褄が合わない……!」恐る恐る次のページをめくる。
しかし、その続きは何もなかった。
何度もページをめくり、気づけば最後のページまで来ていた。
「なんなんだ……一体」そう思いながら、最後のページをめくると、一枚の写真が目に入る。
9月30日――シアンが死んだ。この件はリアナたちには伝えていない。
その文章の後に、王ケリオスと、顔だけが焼かれた跡がある女王の写真があった。
「なぜだ……なぜ女王の死を隠す」思わずアルバムの端を折ってしまうくらいに、手に力が入る。
「知られてはいけない事実があるのか……?」ゆっくりと本棚にアルバムを戻す。
気づけば入り込む光は橙色に染まっていた。
思った以上に『記憶』のカケラを見つけることができずに、苛立ちを覚える。
いつの間にか床には読み終えた本が散乱していた。
王家の歴史書。
王城の設計図。
貴族名簿。
だが、どれも俺の求める答えには辿り着かない。
「なぜ俺はこんなに大事な記憶を忘れているんだ……?」散乱した本を跨ぎ、隣の本棚に残った一冊へ手を伸ばす。
埃を払い、タイトルを目にする。
「……最後か?これが」シアン死亡事故記録。
その本の表紙をゆっくりと開く。
10月31日――シアンの殺害容疑でハイパシア・インティバルデ男爵を拘束した。インティバルデ家の令嬢は闇ギルドに送った。
「インティバルデ?知らない名前だな……貴族か?」そう思いながら、次のページをめくった瞬間、手の筋肉が麻痺したかのように、突然動かなくなる。
11月1日――シアンの死亡を隠すために、メディエット、メルートゥの二人も闇ギルドに送った。
「……メディエットだと」まさかの名前に、衝撃が隠せなかった。
ケリオスは女王の死を隠蔽するために、実の息子を『闇ギルド』に送ったのか……?
「だが、なぜメディエットが……」そう考えていると、過去の会話を思い出す。
メディエットは自ら「女王の血を多く継いでいる」と言っていたことを。
「……女王"シアン"には深い過去があるはずだ……」そう思いながら次のページを開くが、その先にページはなかった。
重い腰を上げて、侵入した窓の方に視線を向けると、すでに外は暗く、月明かりが本棚を照らしていた。
一区切りにして、ゆっくりと窓の方に足を運ぶ。
割った窓から外を眺めると、綺麗な円形をした月が、ハッキリと雲を裂いて顔を出していた。
「今頃、王家の兵士どもは……ルアナの護衛に毛を立たせてるんだろうな」手を腰に当てて、兵士たちの姿を想像して、鼻で笑う。
すると、窓の外から影が近づいているのが見え、急いで体を本棚の影に隠す。
「兵士か?ここは兵士でも探しに来ないはずなのだがな」そう思いながら、身を隠しながら窓を見つめていると、影が窓を覆う。
「ここにいるのでしょう。ルトゥ殿」
その聞き覚えのある声に、身の毛がよだつ。
月明かりが、そこに立つ人物の影を払って、ようやくその事実に気づく。
「……なぜお前がここにいる」視線の先、そこに立つ人物。見覚えのある仮面。
それは確かに、『Rebel《反逆者》』の姿があった。
だが、驚いた理由はそれではない
「なぜ?それはもちろん、第三王女を暗殺するためでしょう」
月明かりに照らされた仮面が、ゆっくりとこちらを向く。
その瞬間。
背筋に冷たいものが走った。
「……なぜお前が、その仮面を被っている」俺は知っている。その名を。その仮面を。その存在を。
「Rebelは――」喉が勝手に震える。
「俺なんだよ」




