第14話『宴会と暗躍』
日が落ち、あたりはすっかり暗くなる。
人気はほとんどないが、ところどころ白金の鎧が月の光の反射で目立つ。
「遅かったじゃない」
扉を開けると、最初にフローシアと目が合う。
ゆっくりと部屋に足を踏み入れる。
そのまま、空いているベッドに腰を下ろす。
「俺は疲れたから寝る。ケイスはお前が抑え込んでいてくれ」そう言って、布団の中に潜る。
フローシアの視線を感じながら、ゆっくりと目を瞑る。
「わかったけど、明日用事あるから、ケイスと一緒に居てやってね」
フローシアはそういうと、俺の腹部に何かを落とした。
それが何かを確認しようとは思わず、そのまま意識は底へ落ちていった。
◇◇◇
日が頂点へと昇り、人混みは最高潮を迎える。
人混みを出来るだけ避け、ゆっくりと城の方へ足を運ぶ。
「ルトゥにケイスを任せたけど、大丈夫かしら……」そんなことを呟いていると、突然体が後ろに突き飛ばされる。
顔を上げると、白金の鎧を纏った兵士が城の扉の前に立ち尽くしていた。
「身分の提示を」
兵士は静かに吐き捨てると、ゆっくりと私に詰め寄ってくる。
私は「はい、これでいい?」と王家貴族の宴会招待状を見せる。
そこには確かに、『フローシア・インティバルデ様』と書かれていた。
兵士はそれを読み、納得したのか私に招待状を返して、扉の横に立つ。
「確認いたしました。どうぞお入りください」
私は兵士を横目に、敷居を跨ぐ。
すると、兵士が静かに「くれぐれも、以前のような問題は起こさないように」と言って扉をゆっくりと閉めた。
その言葉に少し腹が立ったけど、気にせず廊下を踏み締める。
「相変わらず不気味ね……だから私は嫌なのよ、宴会」そんな独り言を吐きながら歩いていると、大きな扉が見えてきて、その奥からは複数人の喧騒が聞こえる。
気を張って、ゆっくりと扉に手をかける。
その時、背後から声がかけられる。
「あの……フローシアさんですよね」
その柔らかな声に振り返ると、暗闇の中でも透き通って見える長い金髪を揺らしたルアナ王女殿下の姿があった。
「あ、ルアナ様……無事だったんですね」無意識にそんな言葉を言うと、ルアナ王女殿下は笑みを浮かべる。
「少し外出を禁じられてしまいました」
ルアナ王女殿下は天使のように微笑み、私の隣に立つと、ゆっくりと扉を開いた。
扉の隙間から眩しいくらいのシャンデリアの光が暗がりに慣れた目に染みる。
同時に、喧騒に塗れていた会場は、一瞬にして静まり返り、貴族一同がその場に片膝をついた。
ルアナ王女殿下は「皆さん、顔をお上げください」と少し、言葉を詰まらせながらも、その言葉を聞いた貴族はゆっくりと膝を離す。
「もう少しでキアナ第二王女とリアナ第一王女がお越しになられます」
ルアナ王女殿下はそう言うと、ゆっくりと部屋の中央に向かい、宝石が大量に使われた椅子に腰を下ろす。
そして、ルアナ王女殿下は私を見て「フローシアさんもお好きな席に座って良いですよ」と言って、静かに目を瞑り始める。
「やっぱりルアナ様は優しいな」と心の中で思いながら、近くの木製の椅子に腰を下ろす。
軽く目を瞑っていると、騒音に紛れて、微かに足音が近づいていることに気づく。
目を開けると、貴族数人が私を見ながら一人が口を開く。
「あら、インティバルデ家の令嬢ちゃんじゃない」
その女貴族は不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。
その背後では男女含めて、貴族がニヤニヤと口角を上げていた。
「私になにか用ですか」その貴族の女を睨みつける。
女はゆっくりと腰を引いて、顔を私の顔に近づける。
「いや?少し落ちこぼれ貴族の令嬢ちゃんを見たかっただけよ」
女はそういうと、私の鼻に指を当てると、距離を取るように足を一歩下がらせる。
その女たちを睨みつけ、席を立って、反対の方に移動する。
その間も、あの貴族たちは見下すように笑っていた。
その時、勢いよく会場の扉が開かれ、同時に見下していた貴族たちも黙る。
「ごきげんよう。キアナ・ウナ・アフィネスが来たわよ」
第二王女のキアナ様が扉をくぐり、颯爽と部屋中央にある王族用の豪華な椅子に座る。
少し間をおいて
「リアナ・ルナ・アフィネス」
そう静かに言って、ゆっくりと部屋中央の席に向かう。
第一王女のリアナ様は私の席の隣を通るとき、睨みつけられる。
そして、何事もなかったかのように、無言でルアナ様の隣に座る。
一瞬の沈黙が流れると、ルアナ様がゆっくりと腰を上げる。
「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
「これより、王家貴族交流会を開始いたします」
ルアナ様の言葉に、沈黙が一気に吹き飛ばされて、会場は喧騒の嵐が巻き起こる。
「はぁ……」無意識のうちに深いため息を吐く。
ゆっくりと部屋の端に向かい、柱の影で遠くから宴会を見つめる。
「これだから貴族は嫌いなのよ……」胸にある『インティバルデ家』の紋様の入ったバッジを強く握りしめる。
「フローシアさん」
私を呼ぶとても優しい声が耳に入る。
顔を上げると、ルアナ様が天使のような笑みを浮かべながら私を見つめていた。
「浮かれない顔をしてますね」
ルアナ様はそう言って顔を近づけて、私の顔を覗き込むように観察していた。
「い、いや……少し一人になりたくて」ルアナ様の広い心に助けを求めたかったのか、そんな言葉を言っていた。
ルアナ様は私にさらに近寄ると、両腕を広げる。
「ハグ、してもいいですか?」
ルアナ様は顔を変えずに、私を見つめ続けて、私の回答を伺っているようだった。
「ハ……ハグ?」ルアナ様の衝撃的な言葉に、思わず口が開いてしまう。
すると、突然身体中に温もりが染み込む。
「ハグは疲れた体に良いらしいですよ」
その声に、思わず身体中の力が抜ける。
「ルアナ様……本当に天使だ」そんなことを思わず口にする。
ルアナ様は「ふふっ」と笑顔で笑いながら、ゆっくりと私の体から腕を離す。
「また疲れたら言ってくださいね」
そう言って、貴族たちが騒いでいる食卓へと戻っていった。
私はルアナ様の背中を見つめながら、ゆっくりと、自分の席に足を向けて運んでいった。
◇◇◇
あれから時間が経ち、喧騒は静かになった。
窓から入る光は、日の光から月の光へと変わっていた。
部屋の中央、ルアナ様はゆっくりと立ち上がる。
「それでは本日はこれでお開きにします」
そう言って、机にあるグラスを手に持ち、掲げる。
「最後の乾杯をしましょう」
ルアナ様は背伸びをしていて、息を吸う音が小さく聞こえる。
「せーの……」
ルアナ様の言葉は最後まで放たれることはなかった。
突然、部屋中の窓ガラスが割れ、シャンデリアの光が音もなく消える。
部屋中は貴族の悲鳴と、兵士の足音で満ちており、その場はまさに『混沌』そのものだった。
「落ち着きなさい。ここは城よ、少しは身の丈をわきまえなさい」
そんな中、暗闇の中から静かで、一切声のトーンが変わっていないリアナ様の声が響いた。
すると、シャンデリアが数回光を放ち、激しい光が部屋中を照らした。
「おやおや、騒がしいですね」
聞き慣れない声が響く。
声の方向、中央の王族用の円卓に目を向けると、円卓の上に一人の顔のない仮面を被った何者かが立っていた。
円卓の周りでは、リアナ様がルアナ様に覆い被さり、円卓の上に立つ人物を睨みつけている。
「誰だ貴様は」
リアナ様は静かにその人物に対して問いかける。
円卓上の人物は低い声で、リアナに対して声を向ける。
「そうですね……『Rebel《反逆者》』とでも名乗っておきましょうか」
Rebelと名乗った男は、一枚の紙を手に取ったかと思えば、とてつもない速さでリアナ様の横髪の一部を斬り、地面に投げ刺した
「それは貴女へ向けたletter《手紙》です」
リアナ様はその手紙をゆっくりと手に取り、封をあける。
「なっ……」
リアナ様はその手紙の内容に絶句したのか、口を開いて、すぐさまRebelを睨みつける。
「これは一体どういうつもりだ」
声のトーンは変わっていないが、明らかに焦っている様子で、その姿を見たRebelは満足そうに両手を広げた。
「文字通り、満月の夜に"ルアナ・ティナ・アフィネス第三王女"を暗殺します」
その言葉に、思わず固唾を飲んだ。
周りの貴族たちも、動揺を隠せておらず、ただ呆然と立ち尽くしているだけだった。
キアナ様はリアナ様たちの後ろで、額を照らしながらも、興味深そうに笑みを浮かべていた。
すると、リアナ様はゆっくりと立ち上がり、Rebelに手のひらを向けた。
「良いだろう、その言葉。しかと受け取った」
冷たい風が割れた窓から肌を刺激する。
「これは我々アフィネス家に対する『宣戦布告』と見た」
静寂が流れる。
すぐさま、兵士たちが走ってRebelのいる机を包囲した。
「良いだろう。我が一人のRebel《反逆者》に屈するが良い」
Rebelはそう言うと、手を振り上げる。
その手のひらは激しく発光し、しばらくの間視界を奪った。
光がゆっくりと消えると、円卓の上にはRebelは立っておらず、周りを囲っていた兵士はその場に倒れていた。
一瞬の間に起こった出来事に、脳の処理が追いつかないまま、宴会はおひらきになった。




