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第五節 あなたの名が名簿に記されている

 母さんはソファに横になったまま、静かに寝息を立てていた。白い装束ではなく、普段着のまま。いつもの整った顔からは想像がつかない、無防備な顔をしている。

 

 最近母さんは飯と風呂以外では働き詰めだ。今日は明け方までリビングの明かりがついていた。前に話していた祭りの準備とかで忙しいのだろう。

 

 いつもありがとう


 そう言って、俺は母さんに毛布をそっとかけた。


 テーブルの上に無造作に広がった資料を、俺は一枚ずつ揃えていく。紙の擦れ合う音だけが、部屋の中で小さく響いた。

 別に教団に関わるつもりはないし、どちらかというとこれ以上発展してほしくない。さっさと解散してくれれば、とさえ思っている。


 そうは言っても母さんが頑張っているのは事実だ。方向性はどうであれ。生活をさせてもらっている手前、資料の整理くらいしてあげてもいいだろう。それに、教団の規模が正確にはどれくらいなのか、といった情報を確かめる機会にもなる。


 俺はわからないなりに資料をまとめてみた。すると、薄々気づいていたことだが、思った以上に教団の経営は順調そうだった。入ってくる信者も金も、ここ数年増加する傾向にあり、支部も10箇所ほど作られていた。ゆるキャラみたいなマスコットもいる。最近は母子家庭の支援やホームレスの炊き出しといったボランティア活動にも熱心なようだ。


 俺は愕然とした。何とかして教団に不利な情報を見つけないと安心できない。改めて隅から隅まで目を皿のようにして探してみるが、やはり見つからない。俺は粗探しを諦めることにした。言うことない、いたって健全な宗教団体だ。


 その時、特に気にしていなかった書類が目にはいった。新本部落成式典用青年団会員名簿。大人だけではなくて、俺みたいな子供も入信しているのだろうか。はたまた信者の親が入信させたのか。基本的に18歳になるまでは、本人の意思がなければ入団できないようになってはいるはずだが、そのあたりはなかなか判断が難しい所だろう。


 俺は何気なく名簿をめくってみた。その名の通り、新しい本部の完成祝いに参加する青年団の個人情報や式典での役割が書かれている。年齢は様々、6歳なんてのもいる。合唱や演劇もあるらしい。なにをやるんだろうか。ただ、こうして見てみると、キラキラネームがやけに目立つ。宗教に入りやすい人にはそういう傾向があるのだろうか。指揮と書いてタクト、原子と書いてアトム、旋律と書いてメロディ…。これはまあわかるかな、輝星と書いてキララ…。


 あれ?


 フルネームが井上キララだ。知り合いに同姓同名の生徒会長がいる。性別も年齢もおんなじだ。


 そんなまさか…。


 名簿の住所もご近所だった。

 俺は再び愕然とした。冷たい汗が全身からどっと吹き出る。

 

 「あら、どうかしたの」

 いつの間にか母さんが後ろにいた。


 うわ!びっくりした!


 「ごめんね、鳩が豆鉄砲をくらったような顔していたから」

 そう言ってくすくす笑っている。

 豆鉄砲どころか大砲だ。いつから起きていたのだろう。


 「いつもありがとう、のところから」

 聞かれていた、顔から火が出そうだ。というか起きていたのかよ。


 いや、今そんなことはどうでもいい。この名前は確かに先輩だ。しかし、まだ確証が持てない。

 イタズラっぽく笑う母さんに、俺はある提案を切り出した。


 母さん、俺、式典に参加してもいい?

 

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