第六節 わたしの名によって集まるところには、彼女もいる 前編
教団の新本部は、都心の閑静な住宅街にあった。俺の住む郊外のベッドタウンから、電車で1時間ほど。駅から降りると、あたりにはいかにもお金持ちが住んでいそうな大きな家々が立ち並んでいた。心なしか歩いている人達の雰囲気も洗練されている。その中を俺は肩身が狭いままトボトボと歩いて行く。
母さんは今もなお倹約家を突き通している。現在住んでいる家は、俺が生まれるか生まれないかくらいの時に父さんがローンを組んで購入した中古の一軒家だ。当然教団の力があれば返済は勿論、もっとでかい新築を購入できるのだが、母さんはそれをしない。給料も生活ができる最低限しか貰わないし、その中から寄付に回すこともあるくらいだ。おかげで俺は贅沢生活とは無縁のまま。まあ、別に俺はブルジョワになりたいわけではないからいいのだが。
気がつくと、周囲の家はますます豪華になってきていた。場違いな感じが甚だしい。もう少しで着くはずなのだが。しかし、こんな環境のいい場所に宗教施設なんか作って、反対運動なんか起こらないのだろうか。教団のことだから根回しを相当行っているのだろうが。
そうこうしている内に、目的地が見えてきた。それは最初、宗教施設というより世界遺産で見かける宮殿を連想してしまうような、とても豪華な作りだった。
広大な敷地の中、高い石の塀の奥に、白い建物が見える。左右対称の造りで、中央には広い階段。趣味の悪いファンタジーみたいな装飾に彩られたそれは、なんとも形容し難い雰囲気を放っていた。
手前の庭には屋台が出ていて、家族連れで賑わっていた。噴水周りでは子供達が無邪気に駆け回っている。
城や宮殿のような建物なのに、雰囲気はどこか地域のイベントに近い。
ただ、なんにせよ俺の想像を超えてきたのは確かだ。一体いくらかかったのか。頭が現実に追いついていない。
「あのー、ご参拝の方ですか?」
受付の綺麗なお姉さんが声をかけてくる。
俺は事前に貰ったQRコードを提示した。母さんにはVIP用もあるよ、と言われたが流石に断った。
「はい、青年団の方ですね、記念すべき今日を共に祝いましょう」
そう言って粗品を差し出す。中身はなんだろうか。
庭では信者が思い思いに会話の花を咲かせている。
「こんな立派な本部ができるなんて、教祖さまのお力のおかげだわ」
「私はこの教団に入って、人生が変わりました、今まで私は真実に気づいていなかったのです」
「幹部の橋爪さんにさっき挨拶されちゃった、嬉しい!」
「次は海外本部も作るって話だ、認可も降りるだろうし、今神風が吹いているな」
「ままー、きょうのげきは、キタムラくんがでるってほんとー?」
有名なアイドルだ。芸能界にも侵食しているのか‥。
俺はそそくさと建物の中に入った。中身もこれまた豪勢な作りだ。天井は高く、吹き抜けになっている。シャンデリアが下がっていて、床は大理石のように磨かれていた。真ん中にあるのは神像だろうか。どことなく母さんに似ているのは、突っ込まないでおく。
青年団の簡単な手伝いをするという名目で今日はやってきた。オリエンテーションは青年団全員、同じ部屋で行われる。先輩が本当に信者なのか。嘘であって欲しい。それさえわかれば俺は安心して帰るつもりなのだ。
いかん、冷静にならないと。
はやる心を抑え、俺は集合場所の部屋へと向かった。




