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第三節 光は闇の中でそこそこ輝く

ランク入りしていたことがあり、ビックリしました。読んでいただいた方はありがとうございます。

不定期ですが、これからも執筆を続けていきます。

感想や批評などあればお願いいたします。

午後の授業は、ほとんど頭に入らなかった。

黒板の文字は追っていたし、ノートも取っていた。けれど頭には何も残っていない。島田ですら心配してきたほどだ。


 昼休みに聞いた会話が、何度も反芻される。


 午後4時のチャイムが鳴ると、ホームルームもそこそこに解散となった。島田はまだ気遣ってくる。俺は気持ちを切り替えて、生徒会室へと向かった。


 廊下は静かで、日差しが長く伸びていた。

 窓の外では部活の掛け声が聞こえる。あそこでランニングしてる坊主頭は島田だろうか。全員ツルツルだから判別できない。


 生徒会室では、文化祭の資料が大量に積まれていた。全員がげっそりとした表情で机に向かっている。

 俺はホチキスを手に取り、紙の角を揃えて、針を打つ。下っ端向けの単純な作業だ、今は何も考えなくていい。ただ、この量はなんとかならないのか。


「ごめんね、今日ちょっと多いんだよー、みんな、私も頑張るし、ファイト!」


 井上会長は笑いながら言う。


 その笑顔は相変わらず美しい。美しいどころではない、俺の中に燻っていた暗闇が一気に浄化されていく。周りもやる気が出たようだ。会長を困らせてなるものか。文化祭なにくそ。


 あれだけあった資料の山は1時間ちょっとでなくなってしまった。さすが会長パワー。

 他の役員が帰り始める。


「お先です」

「キラキラ会長、またね!」

「そのあだ名やめてよー、お疲れさま、みんなー、まったねー」


 ドアが閉まる音。

 と、そこで俺は今、重大な事実に気がついた。


 部屋には俺の他に会長しかいなかった。

 要するに、部屋には俺と先輩の2人しかいないということで、それはつまり2人っきりということだ。


 ‥‥は?


 「どーしたのー、ボーっとして。疲れちゃったかな?」

 

 至近距離で先輩が俺を覗きこむ。心臓が爆発しそうだ。経験したことはないけれど、不整脈ってこんな感じなのかもしれない。

 

 は、はい、そうですね。ははははは。


 俺は気の利いた返事もできずに誤魔化した。たぶん茹蛸のように真っ赤だろう。


 先輩はそうだねー、と言いながら椅子に座り直して、軽く伸びをする。

 可愛い、まさに天使、いや神だ。母さんの教団にじゃない、神は今、ここに、おわしたのだ。


「今日さ、ラブポで最終形態まで進化したんだよー」


 唐突だった。


 え?


 先輩は笑顔だ。相変わらず麗しい。


「やってないの、ラブポ?クーポンとか便利だよー、君もやったら?」


 何気ない調子。


 机の上に置かれたスマホの画面に、キャラクターが映っている。大きな純白の羽が生えた、天使型生物だ。


「やってるんですね」


「うん。結構みんなやってるよ?」


 先輩は言う。


 それにね、先輩は続ける。

 

「いいことしたら、ちゃんと誰かが見てくれるってわかるの、安心するから」


 その言い方が、少しだけ引っかかった。なにか棘があるような。

 窓から入る夕方の光が、先輩の横顔を照らしている。確かに綺麗だと思う。だが、いつもの明るくてリーダーシップに溢れた、憧れの先輩の顔ではなかった。


 気まずい沈黙が流れる。


 先輩はハッとしたようにこちらを見た。

「あ、ごめん、ボーっとしてたねー」

 いつもの先輩だった。

「あ、もう外暗くなってきたね。遅くならないように帰ってね」

 ただ、どこか他人行儀で、ぎこちない気がした。


 先輩は帰らないんですか?


 「私は、うーん、もうちょっと資料を整理してからかな」

 そしてどこか寂しそうだった。


 帰り道も先輩のことが気がかりだった。先輩が普段関わりのない俺にあんな態度を見せるなんて。相当会長の職務が重荷なんだろうか。確かに受験も間近に控えた最後の大仕事だし、ストレスも溜まってるんだろう。

 そういう俺も進路をそろそろ決めないとな。宗教を引き継ぐ気もないし。色々くよくよ考えてしまったが、なんだかんだであんなアプリなんて一瞬の流行で終わるだろう。他の問題だって、このまま小規模団体でいる限り、大きくなることはないかもしれない。

 そんなことよりも、先輩と2人で話ができたのは嬉しいことだ。卒業まで残り数ヶ月しかないけど、もっと仲良くなれたらいいな。

 だんだん寒くなってきた。俺は浮かれ気分で家路を急いだ。

 

 「セイゴ君」

 家の前にいたのはメガネをかけたスーツ姿の、いかにも仕事ができそうなサラリーマンだった。正確にはサラリーマンに見える、と言った方が正確だが。

 

 橋爪さん?


 彼は教団幹部の橋爪さんだ。古参で、元々相互扶助団体だった母さんの組織を、宗教化するように提案したのは彼だ。昔は広告会社に勤めていたらしい。

 正直言って俺は彼が苦手だ。結果的に生活は安定し、組織の活動も活発化するようになったとはいえ、母さんを唆したようにも見えたし、金のために利用しているようにも見える。常ににこやかな雰囲気を崩さないが、どことなく作られた雰囲気を感じる。


「学校帰りかな?お疲れ様!今日は教祖、いや、お母様に報告があって来たんだよ」

 相変わらず爽やかオーラを放ち、自然と肩に手を添えてくる。馴れ馴れしいことこの上ないし、香水も俺の好きな香りではない。オールマイナスだ。


 え、報告?


 教団の誰かが訪問する際は、俺にも事前連絡があるはずだ。緊急の案件なのだろうか?


「そう、急ぎでね、いやあ、嬉しいよ。数年がかりで進めていた宗教法人の認定が、やっとおりそうなんだ。これで、教団規模はますます拡大するだろうね!」


 ‥‥‥は?

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