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異世界探訪奇譚ー魔女の弟子編ー  作者: くもたろう
第3章:集落のひとびと
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第8話:元を辿れば余所者

「一年契約か……。ドナルドはたった一年間で他民族と将来性のある交易路を拓く自信があるってことですよね?」

「うむ、何か妙案はあるのじゃろう。こと商売に掛けては、あやつほど頭の切れる者は中々おらぬよ」

この偏屈な魔法使いがここまで褒めるのだから、ドナルドの商人としての実力や有望性は間違いないのだろう。

で、あればその様な人物とこの世界を物見遊山出来るのは、仕事というよりご褒美に等しい様な気がしてくる。

「けど、それって近々の話ではないですよね?ドナルドもおれがこの集落にいると言い触らす気は無いと言っていたし」

それこそ口約束でしかないが。

今になって、あの行商人の事を何を以て信用を抱いたのか不思議に思えてきてしまう。

「それはわしにも見当がつかぬよ。しかし、あやつはしたたかゆえ……もしかしたら、既にお主と似た境遇にある人物の情報を掴んでおるやもしれん。勝算なしにドラゴンに挑む男ではないからのう」

勝算なしにドラゴン――は、この世界のことわざか。

おそらく勝ち目のない戦はしないってことだろう?

そうなると、例えば早々に元の世界へ戻る手段が見つかったとしても、おれはこの世界に残らなければならない?

いや、でも戻ってしまえば、この世界との繋がりは最早無いも同然なのだから、対価を支払う必要も無いと言えば無い。


しかし、いざその時おれは元の世界へ戻りたいと思うのだろうか?

両親はまだ健在だが結婚してる訳でも無く、子供もいない……恋人とは昨年別れた。

仕事はぼちぼち、最近の趣味はネットで小説を書くことくらいという平凡な人生。

それに引き換えこの世界のおれは過去の偉大な聖人と同じギフトを有していて、更にまだ別のギフトを開花する可能性も秘めているのだ。

夢に描いた漫画や小説の様な世界で、他人から羨まれるような特殊能力を有している。

親ガチャならぬ異世界ガチャでアタリを引いたも同然の状況。

それを踏まえて……元の世界へ戻るか、この世界に残るのか。

その選択に迫られる時が来るか来ないかも分からない現状で、それに関して真剣に思い悩むことは出来ないが……。

おれが考えに耽っている間、ルーファスは静かに茶を飲んでいた。

コールも同様に大人しくしてくれている。

二人を神妙な面持ちにさせてしまって、なんだか申し訳ない思いが溢れてきた。

ここはひとつ話題を変える頃合いだ。

いつまでも仕事の契約や賃金の話では息が詰まってしまう。


「――コールは、この集落出身じゃないんだろう?」

これまで知り得た世界観を考慮すると、この手の話題はかなり重くなる可能性があった。

コールの反応次第ではまた別の話題を提供するつもりでいたが……しかし、彼は重い雰囲気を纏わなかった。

「はい。ぼくは、この集落どころかサリィズ王国出身でも無いです。隣国のクラーン王国が大飢饉に瀕して、民衆が蜂起して国が分裂して……それでぼくは家族とともにサリィズ王国へと流れて来ました。その途中で母とは生き別れ、父は流行り病で亡くなってしまって――」

空気感は重く無いが激重な内容に溜息が漏れた。

ザーフィラといいコールといい凄惨な過去を背負っているが、それを感じさせないくらい強く生きている。

コールの話を引き継ぎルーファスは静かに語り出した。

「現サリィズ国王は移民を多く受け入れ、才能ある者は出自を問わず登用し大きく国を広げられた。隣国に対しては確固たる権勢を振るっておられる。賢王と呼ばれる所以じゃな。元々、サリィズ王家にはそう言った気風があるのじゃ。この辺りの集落も百五十年ほど前に、戦争により国を失ったか追われた移民たちが切り拓いた土地でな……」

老魔法使いは淡々と語っていた。

彼は少しこもった声だが、丁寧に言葉を紡ぐので聞き取り難くは無かった。


「要するに、余所者に排他的なこの集落の民も、元を辿れば余所者ってことですね」

「まあ、そういう事じゃ。そもそも、イセリア人もウリヤ人もこの大陸とは別の大陸から大洋を渡って来たという伝説があるくらいだからのう。原住の民や亜人種どもからすれば、我々全てが余所者ということになるわい」

「あれ?この大陸の外側って未知の世界って聞いてますけど?」

「未知だからこそ、否定は出来んということじゃな。大洋を越えた未知の世界に、我らと同じ人種がおるやもしれん。悪魔や魔獣が跋扈しているという説が一般的じゃが、それを己の目で見て確かめた者はおらぬ。それゆえに肯定も出来ぬがな」

と、ルーファスとの会話に夢中になり、おれはまたもやコールを置いてけぼりにしてしまった。

「ああ、すまないな、コール。おれたちばかり話してしまって」

コールの様な若者が、中年と老人の夢見がちな話を聞いて楽しいはずが無いという先入観がある。

彼は心根の優しい子だから、あからさまに嫌な態度は示さないが楽しんでくれては無いだろうと思っていたのだ。

「え?あ、全然いいですよ?リョウスケとルーファスの話は、聞いてて楽しいですから。ギルは女の人とかお酒の話ばかりですからね。未知の世界の話とかすごく新鮮で興味深いです!」

その穢れ無き瞳は爛々と輝いていた。

どうやら気を遣っている様子は無い。

「あははは、そうか。でもギルがする話も大人になったら役に立つ話だと思う。今はまだ未知の世界の方が楽しく感じるかもしれないけどな――」

こんな感じで老人と中年と若者は和やかなムードで時を過ごした。

ここにソフィアが入るとルーファスと喧嘩して殺伐としてしまうだろうし、ギルが入ると下世話な話ばかりになってしまうだろうから、今の組み合わせは茶を啜りながらお喋りするには丁度いい面子と言う事だな。

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