第6話:道端でも平気で寝てしまう子
「こうして、リョウスケのギフトの凄さを目の当たりにすると、やはり特別な人なんだって思い知らされるわねえ」とソフィア。
彼女は右手を胸元に置き目を閉じていた。
神に祈りを捧げてる様な、そう言った厳かな印象を受ける仕草だった。
そしてドナルドは「いきなりウリヤ語を流暢に話せるとは……まさに神の領域だな。私は、ザーフィラから教わってる最中だけど、まだ日常会話もままならない状態だよ。イセリア語とウリヤ語は言語体系が異なるから、双方とも習熟するのは非常に困難とされてるんだ」と言い、感嘆の息を漏らした。
しかし、どれほど崇め感嘆されようと、おれ自身はウリヤ語を話している自意識が無い。
そもそもイセリア語を話している自覚も無いのだが、これがギフトの凄いところだ。
自意識外の特別な能力……神からの贈り物とは本当によく言ったものだと改めて実感を得た。
このままもう少しウリヤ語でザーフィラと会話を……と思ったが、ドナルドが手にしたクヴァスを一気に飲み干し口を開く。
「――さて、このままいつまでも飲み続けたいところだけど、私たちはそろそろ次の集落に向かわなければならないんだ」
彼は残念そうな面持ちで席を立った。
ザーフィラも立ち上がり、彼女はそれからクヴァスを二杯、三杯と呷っていた。
「そうか、仕事なら引き止めるワケにはいかないね。またすぐに話せる機会はあるのかな?」
「そうだね……まあ、私は月に一度はこの集落を訪れてるから。次はこの集落で夜を越すように調整するよ。その時はゆっくりと飲みながら大いに語らおう。では、また」
そう言い、赤ら顔となったドナルドは颯爽とした足取りで出てゆく。
ザーフィラは、ドナルドが退室してから更に三杯クヴァスを呷り、それから身のこなし軽く部屋を後にした。
これから他の集落に赴かなければならないと言うのにあの飲みっぷりには舌を巻く。
おれの世界では厳罰に処されるところだが、この世界だとこれが常識で一般的と言う事か。
華があり声高らかな商人ドナルドがいなくなると、場は少し静かになった。
ずっと飲み続けていたソフィアは、さすがに酔いが回り出した様子で瞬間的に意識が飛んでいる様な動きをしていた。
そこでおれは、腹を括ってそろそろ集落の男たちと酒を飲み交わすか……と思い勢いよく立ち上がった訳だが、それと時を同じくして、集落の皆々も立ち上がりざわざわと片付けを始めた。
窓から射し込む光から見て、まだ昼過ぎころだとは思うが。
「――たぶん、みんな、仕事があるから、今日はこれで、お終い、みたいね」とソフィア。
彼女は眠気眼を擦りつつ立ち上がり身の回りの片づけを始める。
おれも片付けを手伝おうとするがゴドウィンがやって来て「片付けは我々がしておきますので、リョウスケはソフィアを家まで送ってあげてください。ソフィアは、酔いが回ると道端でも平気で寝てしまう子なので」と言い、自らはクヴァスを飲みつつ片付けを始めだす。
一方のソフィアは、立ち上がり空いた器を手にしているが、意識朦朧としてる様子だった。
「おいおい、大丈夫か、ソフィア?」
「えー?大丈夫、大丈夫……ねえ、ドナルドはー?私、頼みたい物があるんだけどー」
まるで絵に描いた様な酔いっぷりだ。
顔色はそこまで変わらないが、目が完全に据わっている。
それにドナルドが帰ったことも覚えてないのか。
彼女は確か耐久力が向上するギフトの持ち主だった筈だが、アルコールは関係ないのだろうか?
「ドナルドとザーフィラは次の集落に向かってしまったよ。今から追いかければ、まだ間に合うと思うけど、どうする?」
「んんー?もう行っちゃったの?なんでー?」
「いや、それは彼らなりに予定を組んでるから、いつまでもこの集落に留まってはいられないんだよ」
「ふうん、そっか、じゃあ、私、家に帰るねー」
そう言うとソフィアはローブを持たずに、そのまま千鳥足で部屋から出て行ってしまった。
どう見ても末期症状だ。
転んで怪我をされては不味い。
おれは彼女の緑のローブを手に取り、取り合えず集落の人たちに向け頭を下げてから部屋を出た。
それで感謝の気持ちが僅かでも伝わってくれたらいいが……。
集落長の家から出ると、ソフィアはすぐ近くの木の根元を背に寝息をかいていた。
「――マジか、この子、本当にどこでも寝ちゃうんだな」
ソフィアの傍へと駆け寄ると、彼女は薄く目を開けた。
まだ浅い眠りだったみたいだ。
「あれえ?リョウスケ?私の家で何してるのー?」
「いやいや、ソフィアの家はここじゃないだろ?ああ、しまった。おれまだソフィアの家知らないんだよなあ」
辺りを見回したが、人影は無い。
一度中へ戻り、誰か助けを呼ぼうと思ったが……酔っ払い一人相手に出来ないと思われるのも癪にさわる。
いや、おれ自身もかなり酔っているのだ。
素面の時であれば気兼ねなくお願い出来ることも、酔いが回ると少々意固地になってしまう。
「うーん、よし、取り合えずルーファスの家までオンブするかあ。ああ、でも、酔い潰れた醜態をあの偏屈なじいさんには見せたくないかなぁ……でも他に行き場所ないから仕方ないよな」
おれは腹を決め、取り合えず手に持った緑のローブを身に纏った。
それから深い眠りへと落ちてゆくソフィアを背負おう……としたが完全に脱力状態で無理だった。
仕方なく、前から抱え上げお姫様抱っこをしてルーファスの家を目指す。
まさか異世界転移の翌日に酔っ払いの世話をするとは、夢にも思わないが……相手が栗毛色白の美人さんなので、これも神の思し召しかとポジティブに捉えることにした。




