第5話:ウリヤの戦士ザーフィラ
ここでまた新たな来訪者があった。
浅黒い肌の女性だ。
黒い髪に赤を主体とした色取り取りな髪飾りが特徴的だった。
一目で女性と分かる容貌だが、背は高く体格が良い。
その女性は室内を見渡しドナルドを見つけると、右隣りの椅子へ腰かけ彼と同様に駆けつけでクヴァスを呷る。
「――お、ちょうど良いところに来た。リョウスケ?彼女が先ほど話した凄腕の冒険者で名前はザーフィラ。ウリヤ人の戦士なんだよ」
ドナルドが紹介してくれたが、ザーフィラはおれに構うことなくキジ肉を摘まみ酒を堪能していた。
確かソフィアたちがイセリア人と言っていたので、他の民族なのは間違いない。
太く凛々しい眉に、くっきりとした大きな瞳は印象的に目に映った。
少々仏頂面で可愛げは全くないが、凛々しく美形であると思う。
戦士と言っていたが、武器は腰元の短刀のみだった。
良く使い込んでありそうだが、戦闘用と言うよりは作業用で使用する物の様に見える。
服装はソフィアやベリンダとは違い、上下セパレートの衣服だった。
他の男性と同じような、動きやすい服装と言った方が良いかもしれない。
「たしかこの地域に住んでいる人たちはイセリア人だと聞いたけど、ウリヤ人とはまた別の地域に住んでいる民族なのかい?」
おれは一応ザーフィラに向けて話掛けたが、答えたのはドナルドだった。
「ウリヤ人はアウローラ大陸の東方域を支配してる民族でね。一方の我々イセリア人は大陸の西方に版図を広げているんだ」
ウリヤ人の戦士である彼女とも話してみたいが……取り合えずはドナルドと会話を続けることにした。
「イセリア人とウリヤ人は友好関係にあるのかい?」
「友好関係にある国々は幾つかあり交易をしてる商人もいるけど、総体的には敵対関係にあると覚えて貰えばいいかと」
「総体的に敵対関係……と言うことは、戦争をするような関係性ということ?」
「ああ、それは勿論さ。イセリアとウリヤの戦争の歴史は何百年とも何千年とも言われてるからね」
その話を聞いてしまうと、なんとなくザーフィラがこの地にいる理由が自ずと知れてしまう。
初見であまり突っ込んだ話は避けるべきか……と思案していたら、ソフィアが話し出した。
「ザーフィラは移民なのよ。今は少し沈静化してるみたいだけど、以前にウリヤ人の幾つかの国を巻き込んだ大きな内乱や紛争があって、内戦で住む場所を失った人々がイセリア人の国々へ流れ込んで来た、って。これは父やドナルドから聞いた受け売りだけど」
それに続いてドナルドが口を開く。
「私の父は名の知れた商人でね、当時多くの移民を私財を投げ打って受け入れ、その人々をウリヤの比較的平和な他の国へ移住させたんだよ。その中でザーフィラは、家族を失い親戚も見つからなかったので、父が引き取り育てたって話さ。要するに、私と彼女は実の兄妹のように育てられた、と言う事だね」
なるほど、大体の事情は掴めてきた。
この世界には、イセリア人やウリヤ人、ササラ人などの民族がそれぞれの社会を形成し、オークやゴブリンなどの亜人種の勢力もあり、その上悪魔や魔獣などの脅威も跋扈している地域がある。
民族間の戦争は何百年も続いていて、同族でも戦争が繰り広げられる悲惨極まりない状態だ。
しかし、集落の人々は生活に困窮してる様に見えない。
今現在この近隣で戦争は起こってないのか、それとも有能な領主が治めているのか。
「おれのいた世界……国でも戦争ばかりだったよ。こればかりは、何処も変わらないんだな」
それは思わず出た心情の吐露。
誰に宛てた言葉では無かったが、気が付くとザーフィラが酒を飲みつつおれのことを見詰めていた。
「――オマエ、ササラ人なのか?」とザーフィラ。
彼女の声は酒で焼けているのか、かなりハスキーだった。
「あ、いや、おれは、似てるらしいけどササラ人では無いよ」
恐らく今後幾度となく繰り返されるだろうやり取り。
彼女はこの場に現れてから一言も言葉を発しなかったので、もしかしたら聾唖なのかも……思っていた矢先の質問だった。
「ササラじゃない?じゃあ、一体、何人なんだ?どこの国の出だ?」
ザーフィラは中々高圧的な話し方だ……いや、カタコトなのか?
どちらにせよ、敵意のある表情では無かった。
「おれは日本人だよ。国は日本……多分、誰も知らないと思う」
「ニッポン?そんな国、聞いたこと無いぞ?ドナルドやルーファスでも知らないのか?まあ、どちらでもいいが……それで、オマエは何をしにこの集落にいる?何処から来て、何処に行くんだ?」
彼女の問いかけは、あまりにも真っすぐで、おれは即答出来ずに息を飲んだ。
それを見てドナルドが横槍を入れようと身を乗り出したが、おれは彼を手で制した。
この程度のやり取りで窮していては今後が思いやられる。
「おれがこの集落にいる理由は、分からない。日本から来たのは確実だけど、その方法と理由が分からないから、まずおれが成すべきことは、日本に帰る方法を調べること。その過程で理由が分かればいいが……まあ、そればかりは調査をしてみなければ、と言ったところだね」
それを聞いたザーフィラは、しかめ面を浮かべ「何を言ってるんだいコイツは?頭がイカレてんじゃない?」と悪態をつく。
言葉は汚いが、いままでより流暢な話し方だった。
おれはそれに対し「確かに、イカレてるかもしれないね」と返した。
さり気なく、口許に笑みを湛えつつ。
しかし、それを受けたザーフィラは目を瞬き驚いていた。
「え?ちょっと、アンタ、ウリヤの言葉を話せるのかい?」
「あ、それで驚いてるのか。じゃあ、おれは今ウリヤの言葉でザーフィラと会話してるってことだね」
「はあ?自分で話してるのに、気が付いて無いってことかい?」
要するに、ザーフィラはおれに悟られない様にウリヤ語で悪態をついたのだ。
彼女はおれが言語理解のギフトを有してることを知らなかったのだろう。
そうなるとおれとザーフィラの会話を傍で聞いてるドナルドやソフィアは――。




