第3話:余所者の集まり
「――申し訳無かった、まるで尋問の様な形となってしまって」
ドナルドはクヴァスを酌みつつ話しかけて来た。
先ほどよりも声を抑えてはいるが、それでも彼の声は聞き取りやすい。
表情は一段と柔和になった感じがする。
集落長ゴドウィンを中心にその他の男たちは集まり話し合いを始めていた。
それを見てベリンダは「私も向こうに参加した方がいいかしら……」と言い席を立った。
恐らく、おれとドナルドの話をネタにあれやこれやと話すことがあるのだろう。
元の世界ならそういう事はおれに隠れてすると思うが、この世界にはそう言う気遣いは無いのか。
裏でこそこそ陰口を叩かれるよりはマシのような気もするが……。
おれの顔色を察してかソフィアは「リョウスケ?あまり気にしなくていいからね。余所者を受け入れる時はいつもああ言う感じなんだから」と呆れ声でそう言った。
こちらの心持ちを見透かした発言に思わず苦い笑みが零れてしまう。
「ソフィアは向こうに参加しなくていいのかい?」
「私が参加したって、生意気な小娘は黙ってろ的な無言の圧力を掛けられるだけだから。この集落の人たちはね、個人個人は普通に付き合えるけど、何人か集まると妙な集団意思みたいなのが生まれて……特に余所者に対しては中々警戒心を解いてくれないのよ」
彼女のその口振りからして同様の経験があるのは聞くまでも無かった。
全く声を落とさずに話しているので、彼女の言葉はそのまま集落の人達へ届いていると思う。
「小さな集落は何処も大体同じだよ。私は仕事柄色々な集落に行くけど、初めは邪険な扱いを受けることが殆どだからね。この集落も……今は仲間として認めて貰ってるけど、そうなるまでは一年ほど足繁く通って漸くだったから」とドナルド。
それに対してソフィアはため息を吐き頷いていた。
要するにここにいる三人は余所者の集まりなのだ。
田舎の閉鎖的な人たちが、外の人間を安易に受け入れないと言うのは日本でもありそうな話だ。
しかし暗い話ばかりでは面白く無いので、何か適当に話題を投げてみることにした。
「――ドナルドもソフィアと同じで王都の出なのかい?」
そう語り掛けつつ、おれは酒桶からクヴァスを器で掬った。
クセの強い酒だが慣れてくると嫌な味ではない様な錯覚に陥ってくる。
いい具合に酔いが回ってきているということか。
「いやいや、私はトリス街の出だよ。この集落から一番近隣の街でね。王都には仕事柄よく行くけれど。中々この土地から離れられない魔法使いや薬師などから、あれやこれやと買い物を頼まれるから」
ドナルドは「薬師」のところでソフィアに対して手を差し向けていた。
機嫌を損ね掛けていた彼女は、これを機に顔を上げ再び酒を呷り始める。
この余所者同士の関係性はそこそこ良さそうな印象を受けた。
「ドナルドは王都や街で仕入れた物を集落で売って、集落で仕入れた物を街や王都で売る……そういう商売をしてるという認識でいいのかな?」
「私は、ざっくりと言えばそう言う商売をしているよ。この集落の……近隣の集落も含めて、獣皮の加工品や麻織物は王都や街で高値で取引きされるから。それらを近隣集落を渡り歩いて仕入れて、街からは岩塩や刃物類、ロウソクやランプ油などを仕入れて売り歩く」
「と、いうことは街では生活必需品を仕入れて、集落では嗜好品を仕入れてるんだね。嗜好品を取り扱った方が実入りは良さそうだけど……」
少し下世話な話になるか、と思いはしたがおれの中の常識や観点を測る上では欠かせない質問だった。
ドナルドはこの問いを受けてニンマリと笑みを浮かべる。
気分を害してる様子はない……彼は商人なので腹芸は得意かもしれないが。
「それは正に仰る通りでね、嗜好品を取り扱った方が実入りは良い。その為、集落では生活必需品を安く売り嗜好品を安く仕入れ、街で嗜好品を高く売り生活必需品を安く仕入れる……まあ、現在に至るまで試行錯誤はしたけど、この地域を商圏とするならこのやり様が一番稼げる」
彼は包み隠さずしてくれているが、商人が儲けのカラクリを教えてるなんて、普通では(元居た世界では)あり得ない話だ。
それはこの世界でも同様だと思うが……。
「なるほど、試行錯誤をして効率化か。どこの国でも商人とは逞しいものだね」
「あはは、たしかに商人は何処の街でも国でも逞しい。物を右から左に流すだけで儲けなければならないので、日々試行錯誤の連続だから。去年稼げていた物でも今年はどうなるか分かったモノでは無いからね!逞しく無ければ商人は務まらないよ!」
そう言い放つとドナルドは酒を一気に飲み干し、豪快に桶から酒を汲み取った。
飲めば飲むほどに良い表情を浮かべる男だ。
ここでおれは隣りで大人しく酒を飲んでいるソフィアへと視線を向けた。
彼女はまだ酔が回った雰囲気では無かったが、今はちびちびと酒を飲んでいた。
「ソフィア?今日はやけに静かだね。酒に酔ってしまったのかな?」
突然話しかけられ彼女は、目を瞬いていたがすぐに反応を返してくれた。
「まだ酔ってないわよ?いや、あのね?リョウスケってどんな話でも出来るんだなあって思って、関心してたの。ドナルドがこの集落で、こんなに楽しそうに仕事の話してるの始めて見るしね。貴方って魔法は使えなくても、魔法の話も出来るじゃない?そう言う人、この国には中々いないわよ」
彼女はそう言い、今までのちびちびを払拭するかの如く一気に酒を飲み干した。
まだ酔ってない、を身をもって証明してくれた様だ。
そしてソフィアの話を引き継ぐようにドナルドは話し出した。
「いや、ソフィアの言うことは全くごもっともで。私としてはルーファスの下で働くより、商人をされてはどうかと思ってるくらいだよ。まあ、ご自身が抱える問題があることを承知しているから、無理強いはしないけど。しかし、遺跡を調べるよりも外に出た方が、知りたい情報を得られるのでは?と思ってはいる」
これがドナルドの本音になるのか。
だからこそ商売のカラクリも包み隠さず話してくれたわけだ。
たしかに彼の言ってることは間違ってないと思う。
おれ以外にも異世界転移者がいて、外に出たらそう言う人物たちと出逢える可能性も無くはない……はず。




