第2話:その未知の世界のから
「なるほど。大陸の外は勿論、その内側にも未知の世界があると言う事か。それを踏まえて、話をすると……おれはどうやら、その未知の世界のから、この地へ来てしまったみたいなんだ」
この話を聞いてドナルドの顔から笑みは消え真顔となった。
怒ってると言うより理解に苦しんでいるみたいだ。
その気持ちは良く分る。
何しろおれ自身が自分の置かれた状況の理解に苦しんでいるのだから。
「未知の世界からこの地に?それは船か何かで大洋を越えたり、天にも届く雪深き山脈を歩いて越えて来たということ?」とドナルドは戸惑いながらもインタヴュアーとしての務めを懸命に熟してくれていた。
「いや、手段は分からない。おれはこれからこの集落に滞在して、ルーファスと共にその手段を解明したいと考えている」
「要するに、どの様にしてこの地に辿り着いたのか、記憶にないと?」
「それに関しては、全く記憶にない。夜自分の家で寝て起きたら、あの森の遺跡の傍だった。普段着ている寝間着姿で、財布も手荷物も無く靴も履かずに、あの場で倒れていた」
「それは不思議な話だな。リョウスケの話からすると、徒歩で何年も掛かるような距離を、一夜にして飛び越えてしまったことになる」
やはりドナルドは理解が早い。
ルーファスはそれを承知で、おれの話をこの男にしたのだと思う。
「――そうなんだ、自分で話していても、あまりにも不思議な現象で理解に苦しむ。けど、ルーファスと話して、ひとつの仮説が浮かんだんだよ。もしかしたら、徒歩で何年もかかるような距離を一気に飛び越える、まるで夢の様な魔法があるんじゃないかってね……」
こんな話を元の世界で真顔でしようものなら、重度の中二病患者として社会の枠組みから隔離されてしまう可能性があるが、魔法があるこの世界では真剣に受け取られる。
現にこの場には誰一人笑う者はいなかった。
それどころか皆一様に目を見開いて驚きを隠せない……と言った表情を浮かべている。
「そ、その様な魔法が存在するという話は……。私はルーファス以外にも凄腕の魔法使いの知人が何人もいるが、一度たりとも聞いたことが無い!」
このドナルドを以てして冷静さを失ってしまうのだから、事の重大さは計り知れない。
「これはまだ仮説でしかないからね。おれは魔法に長けてる訳でも無いから、この世界の魔法により、何が可能で何が不可能かは分からない。けど、逆に言うと、おれが直面してる事態は魔法が無いと説明がつかないというのも、事実だから……」
話ながら、これは極論すぎるとは思っていた。
暴論と言ってもいいくらいだ。
しかしこの場を丸く収めるには中途半端に取り繕うよりも、これくらい振りきってしまった方がいい筈だ。
「それは……魔法に疎いのは私も同じだよ。商売柄様々な魔法使いと話す機会はありるが、魔法学や理論の話となるとからっきしだからね」
「その点に関してドナルドが恥じる必要は無いと思う。ルーファスを以てしても、理解に苦んでいたから。だからこそ、調べる意味と価値があるんだと思うんだ。おれとしたら、何処にあるかも分からない、故郷に帰ることが出来るかもしれない訳だからさ」
ドナルドと集落の人々の反応を探りつつの会話になってしまったのは否めないが、これによりおれの存在理由と目的は周知出来た筈だ。
それぞれが家に持ち帰って家族なり知人なりに話してくれれば、時を待たずしておれに対する認知度もあがってくれるだろう。
「――取り合えず、理解は出来てると思う。今聞いた内容に関して、私の魔法使いの知人に相談しても構わないだろうか?もしかしたら、何か手がかりが掴めるかもしれないし」と、ドナルドはそう話し少し苦い笑みを零した。
恐らく、商人として少なからず下心もあるのだろう。
しかしその下心を悪いとは思わない。
「おれとしては構わないけど、一度ルーファスにお伺いを立てた方がいいと思う。彼は、おれの身元保証人だから。これから公私ともに世話になる彼を蔑ろにはしたく無いからね」
「それは勿論、承知してるよ。私もルーファスには何かと世話になっているから。彼の許可が得られるまで集落の外では口外はしない。これに関しては、私だけではなく、集落の皆全員その認識であった方が良いだろう。集落長?それで構わないかな?」
突然名指しされた集落長ゴドウィンはびくりと身体を震わせ驚いていたが「――ええ、分かりました。リョウスケのことは当分、集落外では他言無用としておきましょう」と、なんとか体裁は保っていた。
集落長に対する振る舞いを見ても、やはりドナルドはこの集落に置いて重要な立場にあるのだと思う。
この男がいなければ、ここまでスムーズにことが運んでいなかったと思うし、インタビュアーとして有能な彼は、おれの抱えている問題をより明確に際立たせてくれたのだ。
そして彼は「――さてと、お堅い話はこれくらいにして、これからは酒を飲みつつ大いに語らおう!」と、仕切り直しを提案した。
その言葉を受け集落の男たちはずらずらと元いた席へと戻り、酒盛りを再開する。
ドナルドはおれの前からは離れずに、引き続き酒に付き合ってくれる様子だった。




