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異世界探訪奇譚ー魔女の弟子編ー  作者: くもたろう
第2章:この世界で生きてゆく
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第9話:クヴァスの味

集落長ゴドウィンはおれとソフィアを広い部屋へ通してくれた。

部屋の中央には十人以上で食事がとれそうなテーブルがあり、料理が所狭しと並んでいる。

この世界にも上座とか下座とかあるのだろうか?

五名ほどが先に席に着いていた。

その中にはギルの姿があり、彼は先回りをして早くも酒を飲んでいる様子。

おれと視線が重なった時にバツの悪そうな表情を浮かべていたので、面倒くさい事に巻き込んだという自覚はあるらしい。

ギル以外の人たちも、手元の木の器には酒らしきものを注いでいた。

おれは恐らく本日の主役だとは思うが、どうやらその到着を待ってから宴を開く的な風習は無いみたいだ。


「――では、リョウスケはギルの左隣りに。リョウスケの左にソフィア。あとルーファスはまだ来ませんか?」

ゴドウィンの指示通りにおれは席に着いた。

ソフィアは緑のローブを脱ぎ、手早く折り纏めると近くの棚に置いていた。

それからおれの左隣りの席に着く。

彼女はさり気なく椅子を寄せて、かなり近距離に身体を寄り添う様に座った。

そして実に素っ気なく「コールが連れて来てくれる筈だけど、その内来るでしょ」と言うのだ。

彼女はローブの下に薄手のワンピースを着ていた。麻生地だと思う。

黒っぽい色で、頭からすっぽりと被るポンチョの様な服だった。

ソフィア以外にもう一人女性がいて彼女も似た様な服を着ていたので、それがこの集落の普段着なのだろう。

そして始まりの合図も乾杯の音頭も無く、ぬるりと食事会は始まった。

それぞれが気ままに談笑し、料理を手に取り酒を飲みだす。

なんとも自由な気風。

おれとしては若干気後れ気味だが、思わず笑みが零れた……いや、別に悪い気はしない。

この集落の流儀で食べて飲んで楽しめれば、それが一番だと思うから。


そんな感じで周囲の様子を伺っていると、ギルが椅子を寄せて来た。

「――リョウスケは、酒飲めるんだろう?」

彼はそう言うとテーブルの中央にある桶の酒らしきものを木の器で掬い、おれの手元へ置いてくれた。

豪快な飲み方だが……他の人たちもギルと同じ様に桶から直接掬っているので、これが普通と言う事か。

「ありがとう、ギル。酒は飲めるけど……これって原料は何だい?」

ビールよりも濃いオレンジ色……濃い黄色だろうか?

匂いはかなり芳醇で、深く吸い込むと咽てしまいそうだ。

「原料はライ麦よ。クヴァスって言うんだけど。ライ麦を発酵させて、蜂蜜とか砕いた木の実とかを混ぜて醸造するって聞いたわ。この地方の人は基本的にコレしか飲まないわね」

ソフィアは説明をしつつ、自分の器で桶のクヴァスを掬っていた。

そして、こう飲むんだと言わんばかりに、ぐいぐいと飲み干してしまった。

右側に座るギルもがぶがぶと勢いよく喉を潤している。

昨夜から何も食べて無いので取り合えず食事からとりたいが……どうやらそう言う雰囲気ではないらしい。

今までと少し話し方を変えてみたが、ギルもソフィアも特に気にしてる様子は見せない。

むしろ今までの方が気を遣い過ぎていたのか?と思えてくる。


取り合えず器を手に取り、ひと口だけ喉に流し込む。

喉に絡みつく様な飲み口で、かなりの苦みとエグ味だ。

温いので苦みをより一層増して感じてしまう。

アルコール度数はそこまで高くなさそうだが、間違いなく悪酔いする類の酒だと思った。

だがしかし、ここで怯んでは男が廃るってもので。

おれは意を決して残りを一気に飲み干す。

クヴァスが胃の中で広がる瞬間ゾクリと身震いがした。

「――へへへ、いい飲みっぷりじゃあねえか。どんどんいってくれよな。メシも好きなもん食えよ!」

ギルは酒も食事もおれの前に用意してくれていた。

基本的に面倒見の良い男なのだ。

豪快過ぎて雑な面も多分にあるけれど。

「リョウスケ?これ、キジって鳥の肉なんだけど。茸とか木の実と煮込んであるの。食べてみて?」

そしてソフィアは甲斐甲斐しくおれの世話をみてくれる。

先ほどは外で甘酸っぱい空気になり掛けたが、今はそれを引き摺ってる様子は無かった。


「へえ、キジの肉?それは初めて食べるかも。おれの国にもキジはいるけど……」

おれは器にキジ肉と茸をよそって貰い、木のスプーンで口の中へと放り込んだ。

肉は……ぼそぼそとする。

味気はあまりない。

出汁が全然効いてない味わいだった。

が、しかし……空腹過ぎてスプーンは進む。

「なあ、ソフィア?このキジの煮込みは、水と塩で、キジと茸と木の実を煮込んだだけ?」

「ええ、そうだと思うけど。ベリンダの……集落長の奥さんの得意料理よ」

そのベリンダとは、この会に参加してるもう一人の女性のことらしい。

「このキジのさ、骨とか臓物はどうしてるのかな?」

「んんー、私は料理をしないから分からないけど、骨とかいらないモノは捨ててるんじゃない?」

「じゃあ、骨を煮込んで出汁を取る、みたいな風習は無いってことか」

最後は独り言の様になってしまった。

ソフィアはクヴァスを飲みつつ、きょとんとした表情だ。

「リョウスケの国では、骨とか臓物も食べてしまうの?って言うか、リョウスケってもしかして男性なのに料理するのかしら?」

「えーっと、おれの国は色々な料理があるからね。料理するのは結構好きだよ。この国の男は料理はしないのかな?」

「基本的にはしないかなあ。王都とか街だと、男性の料理人はいるけど、家庭の中で料理を作る男性なんて聞いたことが無いもの」

そんな感じでソフィアと話し込んでいると、いつの間にかギルは席を離れていた。

その入れ替わりでベリンダがおれの隣りへとやって来た。

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