第7話:もっと軽い感じで
英雄や聖人云々の話のあとルーファスは「少し、一人で考えたいことがあるゆえ……」と言い残し、天啓の石板を持って奥の部屋へと引き込んでしまった。
極限まで上がった老人のテンションを落としてしまった原因を作った自覚はあるので、申し訳ないと思わなくも無いが、それこそおれの運命を握るのは神様次第としか言いようがないのも事実。
例えば、肉体の超再生とか、無尽蔵の魔力とか、魔法無効……みたなスペシャルギフトを授かれば志さし高く生きてゆくけれど、中途半端なギフトであれば田舎で大人しく平和に暮らすべきだ。
ギフトが五つあるからと言うだけの理由で魔王の前に引き摺りだされたり、戦争の真っただ中に放り込まれては堪ったものでは無いから。
しかし、ルーファスの様に厳しい修練を乗り越えて魔法使いとなった者からすれば、おれみたいに可能性を棒に振るような人生は勿体なく感じてしまうのだろう。
長く重いため息が漏れた。
(その気持ちは分からなくも無いけど……でも、おれはこの世界に来て、漸く生きて行ける実感を掴んだばかりだからさ……)
このまま一人部屋に籠っていると心が腐ってしまいそうなので、少し外の空気を吸おうと思った。
集落長から承認は受けているので、それくらいは問題は無い筈だ。
席を立ち扉へと向かう。
扉を開け外に踏み出し、庭先の植物を見ていると道向こうからソフィアが歩いて来た。
借りていた緑のローブを纏っているので、コールが返してくれたのだろう。
「――やあ、ソフィアさん。ローブは、コールくんが届けてくれたみたいですね」
彼女は明るい笑みを浮かべ、おれの目の前で足を止めた。
「ええ、コールが届けてくれたの。ねえ、リョウスケ?今みたいに女性に対して敬意を払った呼び方は都会的で素敵だし嬉しいけど、ソフィアって呼んでいいわよ?話し方も、もっと軽い感じで良いと思うけど。畏まられると慣れてないから背中がムズムズしちゃうし」
「ああ、そうですか……分かりました。じゃあこれからはソフィアと。もしかして、集落の他の人たちもソフィアと同じ感覚なのかな?」
「王都で生まれ育った私ですらそう感じてるから、集落の人たちはもっと感じてる筈よ!気楽に話してくれた方が、私たちも気取らなくて済むし。ねえ、もしかして、もうギフトは調べ終えてしまったのかしら?」
話し方が変わったからか、今までよりも彼女を身近に感じる。
いや、これは浄化の儀式が終わったからだろうか?
後ずさり距離を取るのは失礼なので、近しいまま会話を続けるが……若干気恥ずかしい思いがする。
「うん、調べたよ。ソフィアの言った通りで、天啓の石板には【言語理解】と記されてたみたい。残念ながらその文字を読む事は出来なかったけどね」
「やっぱり!すごいわね!聖人エステルと同じギフトなんて……現代でいうと聖女王エルラリア様に匹敵する格があるんじゃ無いかしら?」
一難去ってまた一難……とは違うが、またぞろ大仰な話になってきた。
ソフィアには申し訳ないが、今はまだ石板の余白の件は伏せておくことにしよう。
「ルーファスも驚いてたから、やっぱり凄いことなんだね」
「凄いし、とても素敵なギフトだと思うわ。だって世界中のどこに行っても誰とでも気兼ねなく話すことが出来るのよ?私が言語理解を有していたら……多分今すぐ全てを投げ捨てて旅に出るわね」
ソフィアは琥珀色の瞳をキラキラと輝かせ話している。
行動力も好奇心も人一倍ありそうな彼女なら、その言葉通りに実行してしまうことだろう。
「ちなみに、ソフィアのギフトって?と、その前に……他人にギフトを尋ねるのって、失礼なこととかではないよね?」
「街中で見ず知らずの人にいきなり聞くのは失礼だし答えてくれないと思う。王侯貴族や位の高い人物に平民が尋ねるのは不敬に当たるわね。でも、同じ集落の人とかであれば気兼ねなく聞いていいわよ。ちなみに私のは、【耐久力増大】と【剛力】というギフトなんだけど」
彼女は呆気らかんと言ったが……要するにギフト二つ持ち、と言う事か。
たしか百人に一人と聞いていたが、この集落の規模で言うと一人か二人くらいはいるのだろうか?
それにしても……実に物々しい響きのあるギフトだ。
「【耐久力増大】って身体が凄く丈夫ってこと?」
「外部からの攻撃に対しても丈夫だし、例えば毒とかに対してもある程度の耐性があるみたい。生まれてから一度も病気に罹った事も、大きな怪我をした記憶も無いのよ」
「もう一つの【剛力】ってギフトも、文字通りの?」
「ええ、文字通りの力持ち。私、生まれてこの方力比べで負けたことが無いもの」
「なるほどね。それで、身元不明の男を家に連れ込んでもへっちゃらってことか」
「うふふふ、まあ、そういう事ね。私を襲うなら、それこそ命懸けでってことになるから」
そう言うとソフィアはケタケタと笑い声をあげた。
こうしてみると美しく可愛らしさもある素敵な女性だけれど、頑丈な身体に怪力無双となると……老魔法使いを相手にしてあの気の強さも頷けるというもの。
「【耐久力増大】と【剛力】があったら、女性でも冒険者とか王国の兵士みたいな職業に就くことも可能だったんじゃない?それとも、女性でそう言う道を歩むのは難しい国なのかな?」
これは単なる興味心から出た質問で。
こういう会話を繰り返して、少しずつこの世界の文化や風習を学んでいく必要はあると思うのだ。




