第6話:【言語理解】
「――で、石板がどうかしましたか?」
「ふうむ、文字は読めぬのか。石板の一番上の欄に【言語理解】と記されておるのじゃが、この下に幾らか余白があるであろう?」
「ええ、はい。ああ、なるほど。もしかしてギフトを沢山持ってる人もいるという事です?それからすると、わたしはどうやら一つだけ、みたいですね」
それは勿論、神様の贈り物は沢山頂戴した方が良いけれど、偉大な聖人様のギフトがあるだけでも、おれはかなりの満足感を得ていた。
「リョウスケよ、その余白は、お主の可能性じゃ。端的に申すと、お主は今後新たなギフトを得る可能性がある」
「ああ、それが先ほど言っていた後天的なギフトですか。なるほど、それは有り難いですね。でも、普通は大人になるころまでに発現すると言ってましたよね?」
「うむ、普通はそうじゃが、お主の場合あまりにも特殊な存在ゆえ、我らの言う普通が当てはまるとは限らん。ゆえに、いつごろ新たなギフトを発現するか予測も出来ん。が、可能性はある」
「でも、そのギフトの発現も神の領域の話なので、わたし個人の努力でどうにかなるものでは無いという話ですか」
話していて明らかにルーファスが昨夜よりも興奮状態にあるのが分かった。
彼の興奮具合を具体的に計ることは出来ないが、その熱量はおれの心にも伝播してくる。
「その通りじゃ。個人の努力でどうにかなるものでは無い。が、普通の人間には、この余白が無い者の方が多い。この大いなる可能性を秘めてこの世に存在するのは、一握りの……それこそ神に愛された者だけなのじゃ」
「神に愛された者、ですか。では例えばギフトを二つ有してる人ってどのくらいいるのですか?」
「これは昔からの言い伝えゆえに、正しいかどうかは分からぬが、ギフトを二つ有するのは百人に一人。三つ有するのは一万人に一人。四つ有するの百万人に一人とされておる。実際、歴史上でギフトを四つ有しておられたのは、五百年前に大陸の大部分を制覇した英雄王アーサーと古代の大魔導師カロンくらいじゃからな」
ルーファスの熱い語り口調から、じわじわと実感が湧いてきた。
これこそが異世界転移の醍醐味ってやつだ。
「――ギフト四つが百万人に一人と言うことは、五つは一億人に一人になりますよね、計算上では」と、それは素朴な質問のつもりだった。
この世界にどれほどの人口があるか分からないし、倍率から言うとその数値が妥当かと思う訳で。
「いや、ギフト五つ持ちの言い伝えはないのじゃ。要するに、史上誰一人として、ギフトを五つ有した者はおらぬということじゃな」
「あ、そう言うことですか。でも、この石板の余白を見ると……五つくらいは表示されそうですよね?」
気が付くと、ルーファスはじいっとおれの顔を見据えていた。
「リョウスケよ?その言葉の意味は理解出来ておるのか?」
「それはまあ、五つもギフトが発現したら凄いと思いますけど……」
「凄いどころの話ではないわい!この世界がひっくり返るような大事じゃ。要するにお主は、過去の偉大な聖人や英雄王や大魔導師を超える存在になる可能性がある!ということなのじゃぞ?」
とうとうルーファスは椅子から立ち上がり、拳を振り上げ熱弁を始めてしまった。
あまりの興奮ぶりに、このまま卒倒してくも膜下出血とかで死んでしまわないか不安になってしまう。
「まあ、まあ、落ち着いてくださいルーファスさん?そんな大それた存在になるには、それ相応のギフトが必要になりますよね?魔法に特化してたり、戦闘とか戦争利用に特化したギフトばかりだと、その方面で大成するかもしれないけれど、ショボいギフトばかり五つあっても、歴史に名を残す様な人物にはなり得ないのでは?」
「う、うむ、それはそうじゃな……すまぬ、年甲斐もなく興奮が過ぎた様じゃ。お主のあまりにも大きな可能性に正気を失ってしもうたわい」
漸く冷静になってくれたのか、ルーファスは振り上げた拳を下ろし、ゆるやかに腰を下ろしてくれた。
昨夜から築き上げた威厳が一気に崩壊してしまう程の興奮ぶりだった。
人間味に溢れていて、面白い一面ではあったけれど。
「――と、まあ、すごい可能性を秘めてるかもしれないですけど、今のところ、誰とでも普通に会話が出来るってとこ以外は、一般人と変わらないという認識で良いですか?」
おれの問いかけを受けルーファスは喉を鳴らし、二度三度咳払いをした。
「いや、それがのう……身体的な能力は極々一般的なのじゃが、魔法の素養は一般人よりも遥かに高い。ギフトに頼らずとも真面目に修練を積めば、魔法使いとして一角の人物になれるやもしれん。しかし、その為にはこの集落から出てこの世界を旅し、見識を積む必要がある」
「この集落でルーファスさんから魔法を教わるだけでは、如何に才能があろうが二流三流で終わってしまうと?」
「わしから学問的に魔法を教わるだけでは、魔法使いとして一流にはなれん。自分の目で世界を見て、己の限界を知り、時には死線を潜り自身の魔力の器を広げなければならんのじゃ。持って生まれた領分もあるが、魔力の器の大きさは個人の成長具合に比例するゆえに。同じところに留まり平々凡々と生活を送っていては、魔法使いとしては大成は出来んと言う事じゃな」
ここまで話を聞き、要するにおれには途轍もない可能性を秘めた未来があることを理解した。
魔法使いとしての成長度合いと発現するギフトに大きく左右されるけれど。
後天的なギフトに関しては、オンラインゲームで言うところのガチャみたいな感じだろうか。
ガチャを回して激レアギフトが出たら英雄目指し、ショボいギフトが出たら一般人として平穏な人生を送るとか。
既に有している【言語理解】が激レアなのは間違いないから、出だしは申し分ないとは思う。
しかし今後発現するギフトが、例えばお喋り上手とかお洒落さんとか、いい匂いさんとかだと街の人気者程度にしかなり得ない訳で。
それどころか、(ゲームみたいにリセマラ出来たら、英雄目指してもいいけどな……ん?あれ?やっぱり、コレってゲームっぽいのか?)などと、困惑材料が増える始末。
「あの、ルーファスさん?取り合えず、わたしは英雄も聖人も大魔導師も目指さずに、魔法使いの助手としてのんびり生きたいです。壮大な可能性の話は、ふたつめのギフトが発現してからにしませんか?」と、おれは提案してみた。
つい先日まで三十五年間一般人を貫いてきたおれに、いきなり過大な期待を抱かれても……という思いの方が大きかった。
それを聞いたルーファスは、少し残念そうな表情を浮かべたものの、「そうじゃのう、取りあえずはこの世界に慣れる事が先だからのう」と、漸く普段の威厳を取り戻してくれた様子だった。




