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異世界探訪奇譚ー魔女の弟子編ー  作者: くもたろう
第1章:森の集落にて
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第10話:浄化魔法

改めて眼下に魔法陣を見据える。

施術前だからか、先ほどよりも強い光を放っていた。

大きな魔法陣の中に、いくつもの小さな魔法陣が描かれていることに気が付く。

無事に浄化を乗り越えることが出来たら、魔法陣のひとつでもご教授願いたいものだ。

腹を括り、魔法陣の空白へと足を踏み入れてみた。

ソフィアとギルはいつの間にかルーファスから離れ大ケヤキの下まで退避していた。

老魔法使いは、魔法陣の傍でおれの様子をじいっと見ている。

光る文字を踏みつけぬ様に足を進め、中央の空白地に腰を下ろし胡坐をかいた。

するとルーファスは懐より白い石を取り出し、魔法陣の中へとばら撒いた。

五つか六つ、それ以上か。

数は定かではないが、地面に落ちた白い石は一際強い光を放ちだす。

いよいよ施術が始まると思い目を閉じた。


目を閉じても感じるほどの強い光だ。

一瞬、目を開けて様子を見てみたいと思ったが、たったそれだけのことで浄化失敗となってしまったら死んでも死にきれないので、我慢してより一層強く目を閉じた。

そのまま時が過ぎる。

身動きひとつ取れないが全身汗だくで、呼吸が浅くなり辛い。

この次の瞬間に気が狂ってしまうかも、と思うと心が引き裂かれるような思いがした。

今になって思うのは、せめてどのくらいの時間を要するのか、聞いておけば良かったという事。

このまま何日間も掛かる施術だったとしたら、悪魔憑きでなくとも気狂いになってしまう気がしてならない。

しかし、そうはならなかった。

実にあっさりと、ルーファスは「――リョウスケよ?浄化は成功した」と声を掛けてきたのだ。


おれは恐るおそる目を開けた。

目の前にルーファスが佇んでいる。

魔法陣はその役を終えたからか光は無くなり、白い石も白さが抜けただの石ころの様になっていた。

そして、それからすぐに気が付いたのは、おれが全裸で胡坐をかいていること。

「え?なんで裸?あれ?いつの間に?」

施術の間に脱がされたのか、と思い辺りを見回したが、それらしき物は見当たらなかった。

そんなおれの慌てぶりを見て、ソフィアが笑みを湛えつつ近づいてくる。

彼女は緑のローブを脱ぎ去り、おれの身体を包んでくれた。

「貴方の服は浄化の際に光の魔力で燃えてしまったわ。ルーファスの浄化魔法は強力だから殆どの場合、布製の物や紙とか小さな異物は燃えて塵と化してしまうの」

「ああ、そうか、だから靴を貸してくれなかったのか……どうせ燃えてしまうから」

「まあ、そういう事ね。これだけしっかりと話せるから、精神的に異常はなさそうかな。悪魔憑きの可能性も消えたし、これで漸く集落長と会うことが出来るわね」


取り合えず一難は越えたが、またすぐに次の一難がやって来るわけだ。

悪魔憑きや病持ちの疑いが晴れた今は、何が何でもこの集落に残して欲しいという思いが強く湧いてくる。

おれはその場に立ち上がり、ローブを身体に巻き直した。

長いローブだが、下が全裸な訳で……浄化されて身も心も綺麗だとは言え、気恥ずかしくて堪らなかった。

薬師のソフィアからすれば男の裸なんて見慣れたものなのかも知れないが。

「――集落長は、わたしのこと気に入ってくれるでしょうか?」

おれは誰に宛てる気も無く問い掛けてみた。

それに答えたのはルーファスで、彼は「言うたであろう?集落長は、心優しき男ゆえ、滅多なことでは非情な裁きはせぬ、と」と言う。

その後に続きギルは「へへへ、集落長はオレみたいな街で散々無法を働いたヤツでも受け入れちまうんだからよ」と、言い放つ。

そしてソフィアは「ここまでして裁きも何もないわよ。多分、貴方を歓迎してご馳走を振る舞ってくれるんじゃないかしら?」と、かなりの上機嫌だ。


この柔らかな雰囲気からして(浄化さえ越えてしまえば、受け入れてくれるということか)と察した。

「あの、どちらにせよ……集落のひとと会うのに、このローブ一枚って言うのは、心もとないと言うか、恥ずかしいので、何か着るものを貸してもらえると……」

その申し入れに対してはギルが「じゃあ、集落長の家に行く前に、オレん家に寄ればいい。ルーファスとソフィアは先に行っててくれ。おい、行くそ、リョウスケ!」と至近距離ではあり得ない程の大声で応えてくれた。

そしておれの背中をバンバンと叩いてから大股で歩き出した。

年の頃はそう変わらないと思うが、この溢れんばかりの兄貴肌には笑うしかない。

「――では、ルーファスさん、ソフィアさん、わたしはギルさんと一緒に集落長の家に向かいますね。浄化の魔法ありがとうございました。ソフィアさん、このローブは有り難くお借りします」

おれはそれぞれに感謝の辞を述べ頭を下げた。

その行為に二人は驚いた表情を見せたので、物を借りた際や感謝の意を示す時にうやうやしく頭を下げる文化や風習は無いのかも知れない。

これに関しては元居た世界でも国や民族ごとに差異があったので、異世界ならではと言えないけれど。

しかし、それでも有難いという気持ちを抑えることは出来なかった。

それから大股でどんどん歩いてゆくギルを追いかけた。

晴れやかな空の下、絶望の淵から這い上がって見る景色は、全てが美し目に映り込んだ――。



第1章

森の集落にて

END


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