ストーカーではないんです!!!②
僕は、ましろ達がショッピングモールに入っていくのを見届けた。
安心して気が抜けたのか、僕の額に汗が滲んでくる。
僕は帽子とマスクを脱ぎ、ズボンの左ポケットに入っていたハンカチを手に取り、顔の汗を拭く。
「ふぅ〜」
少し落ち着いたのでそろそろ僕は帰ろう。
そう思い、僕は家の方角に歩き出した。
ましろが嬉しそうだった。
友達も優しそうだし安心……
でも、やっぱり女の子2人だけは心配だな。
2人とも可愛いし……
ナンパされる可能性は十分にある。
このまま帰ってもし何かあったら一生後悔する。
……もう少しだけ様子を見よう!
まだ、2人にはバレていない。
つまり、僕の尾行は完璧だ。
多分……
それに、2人はまだ遠くには行っていないはず。
よし!行こう。
僕は踵を返し、ましろ達の後を追った。
───────
ショッピングモールに入り、5分ほど歩いたところで、ましろ達を見つけた。
休日ということもあり、館内は多くの人で賑わっている。店から流れる音楽や、買い物客の話し声があちこちから聞こえてくる。
その人混みの中でも、僕にはましろの姿がすぐに分かった。
僕はバレないよう、近くの椅子に座って様子を見ることにした。
「あっ!」
僕は慌てて柱に隠れる。
帽子とマスクを外したままだった。
変装しないとましろ達にばれてしまう。
そう思い、僕は慌てて帽子とマスクを身につけた。
これで、安心だ。
(ざわざわ、ざわざわ。)
周囲がざわついている。
何かあったのだろうか?
周囲が気になったが、僕はましろ達の様子を見届ける。
2人とも楽しそうに服を選んでいる。
おっ、友達がましろに白のワンピースを着るよう促している。
何てセンスのある子だ。
ましろも気に入ったのか嬉しそうに笑っている。
少し話したあと、ましろ達は試着室に向かっていった。
ああ〜
ワンピースを着たましろの姿、どんなのだろう。
可愛いんだろうな〜
早く見たいな〜〜
「ディフフ、ディフ」
僕が笑っていると後ろから左肩をポンポンと優しく叩かれる。
何かな?
僕は振り返るとガタイが良い警備員がニッコリ笑っていた。
「君ちょっといいかな?」
そう言うと警備員が左手に力を入れ、僕の左肩を強く掴んだ。
「痛だだだだだ!!えっ僕ですか?」
「そう、君だよ。君以外誰がいるの?」
笑顔で警備員は答えるが目が笑っていなかった。
「ちょっ、違います。何かの間違いです。」
「ほう、先程お客様からあちらで服を購入している女性二人をいやらしく覗いている男がいると通報がありました。」
「なんだって!!それはどこにいるんですか!?」
やはりましろ達を狙う変態がいたんだ絶対に許さないと僕は強く思った。
「あなたです。」
警備員は真顔で言った。
「えっ?僕ですか?」
「はい、あなたです。」
「間違いなく?」
「間違いなくあなたです。」
「違うんです。警備員さん。聞いてください。」
「なんだ?」
「僕はお兄ちゃんなんです。」
僕が答えると警備員はふっと微笑んだ。
僕の話を信じてくれたんだ。
よかったと思った瞬間、
警備員が僕の右腕を捻り、僕の足を払って体勢を崩し、取り押さえた。
「ぐえっ」
僕は潰れた蛙のような声を出した。
「嘘つけ、お前ストーカーだろ!」
警備員が叫びながら僕の両脇を抱える。
「違うんです。本当なんです。」
僕は懸命に訴えたが警備員は全然信じてくれない。
なぜだ!?
僕はましろ達を見守ってただけなのに。
そう思うとだんだん怒りが込み上げてきて、警備員の腕を振り払おうとした。
「君!!いい加減にしなさい!!誰が見てもストーカーでしょ!!」
「違うんです!僕はストーカーじゃないんです!!!」
僕は諦めなかった。
すると、
「ちょっとお兄ちゃん!何してるの!」
その声を聞いた瞬間、僕の動きが止まった。
……まさか
恐る恐る声のした方を見る。
そこには、買い物袋を持ったましろと呆れたような顔をしている友達の姿があった。
僕は両脇を抱えている警備員を見る。
警備員はポカンと口を開けていた。
もう一度、妹を見ると頬を膨らませてこちらを睨んでいる。
「何してるの!?」
大きな声でましろが言う。
「いや……これは違うんだ。」
僕は必死に弁明しようとしたが思うように言えない。
「違うって何が?」
「だから……その……」
言えない。
「…………」
ましろがじーっと僕を見つめる。
僕は黙り込んだ。
「あの、すみません。」
ましろが警備員に話しかける。
「この人、私のお兄ちゃんなんです。きっと、私の様子を見に来たんだと思います。」
ましろがそう言うと、警備員は僕の両脇をパッと離す。
「あっ、そうなんですね……申し訳ありません。こちらの勘違いでした……」
警備員が苦笑いしている。
「いえ、私のお兄ちゃんがご迷惑をお掛けしました。」
ましろはそう言うと深々と頭を下げる。
「あっいいんですよ。でも、お兄さん。」
警備員が僕の方を見る。
「あっはい。」
僕は驚いて直立する。
「その格好怪しいので気をつけてください。」
そう言って警備員は去って行った。
警備員が去り集まった人も徐々にいなくなった。
「さて、僕も帰ろうかなー」
「お兄ちゃん」
優しい声……だが明らかに怒っていると僕は感覚で分かった。
「はい……」
僕の体は震えていた。
後ろを振り向けない。
「ちょっと、時間ある?」
ましろが優しい声で言う。
「はい……」
「なら、私たちとフードコート行こうか。」
「はい……」
そうして僕たちはフードコートに移動した。
フードコートに着くと、3人で座れる席を見つける。
「お兄ちゃんそこ座って。」
「はい……」
ましろに言われるがまま僕は席に座った。
ましろは僕の正面に座り、その隣に友達が座る。
なんだろう……まるで取り調べを受けているみたいだ。
ましろは頬を膨らませじっと僕の顔を見つめている。
僕は何も言わず、テーブルを見つめる。
「お兄ちゃん?」
「はい!」
「なんで私たちの後をついてきたの?」
やっぱりその話だった。
「いや、僕も買い物に来たんだよ。」
「うそだよね?」
「……はい」
即答だった。
「しかも、そんな変な格好でショッピングモールにいたら誰でも怪しがるよ。」
「でも、完璧な変装だ……」
「その完璧な変装をした結果?」
「……警備員にストーカーと思われました。」
あまりにも恥ずかしくて僕は顔をテーブルにくっつける。
「はあ、お兄ちゃん。」
「はい……」
「いつから私たちの後をつけてきたか知らないけど、私たち高校生なんだからもう少し信用してよ。」
「ごめんよ。ナンパにあったらどうしようと思ったら心配で……」
「はあ、お兄ちゃん!こっち向いて!」
ましろに言われ僕は顔をゆっくりあげた。
ましろが笑顔で僕の顔を見ている。
「心配してくれてありがとう。」
ましろに言われて嬉しい反面、ましろのことを信じきれなかった自分に罪悪感を覚えた。
これからは、もっとましろのことを信じようと思った。
「ふふふっ」
笑い声の方を向くと友達が身体を横に逸らし笑っていた。
「あ〜なんかお腹すいてきたな。」
そう言いながらましろは立ち上がった。
「僕、何か買ってくるよ。」
僕も立ち上がろうとする。
「お兄ちゃんはここに座って。」
「えっなんで?」
「ここは私買ってくるからいいの。光ちゃんもここにいて。」
「えっ私も?」
「うん、そう。大丈夫、すぐ戻ってくるから。」
「待ってましろ。」
「何?」
僕は財布から1万円を取り出しましろに手渡した。
「ぷっ、お兄ちゃん。今からフードファイトするんじゃないんだよ。」
「ごめん、財布に大きいお金しかなくて……今日のお詫びに、これで好きなもの買って。もちろん、ましろの友達の分もだよ。」
「ありがとうお兄ちゃん。ちょっといってくる〜」
そう言ってましろは店舗へと走って向かって行った。
僕は再び席に座る。
斜め前にましろの友達が気まずそうにしていた。
ましろはなんで2人にしたんだ?
「……」
「……」
沈黙が続く。
「あの……」
ましろの友達が話しかけてきた。
「私まで……ありがとうございます。」
「いえ、当然ですよ。」
「……あの、いいですか?」
「はい!」
「……ましろのお兄さん、この間ましろに弁当届けてましたよね?」
「あっ、はい……そうですね。」
「すごく……目立ってました。」
「えっ!そうなの!?」
「はい。私、ましろさんの隣にいたので……」
「あっ!!」
思い出した。
ましろの隣にいた友達だ。
「あと、今日ショッピングモールの入口からずっとついてきてましたよね?」
バレてた。
「あっ……ごめんね。せっかくましろと楽しんでたのに……」
「あっいえ、お兄さんはましろさんが心配でついてきたんですよね?」
「はい……」
「私も、ましろさん小さくてかわいいので守ってあげたくなります。」
あれ、この子想像以上にましろのことすごく大事にしてくれている。
嬉しいな〜
「ディフフ」
「ぷっふ」
あれ、僕が笑った途端ましろの友達も笑い出した。
「どうしたんですか?えっと……
」
「ふふっ、ひ……ひかりです。一ノ瀬 光と言います。」
「あっ、すみません。一ノ瀬さん、なぜ笑ったんですか?」
「ふふふ、面白い笑い方だなと思ってしまいました。すみません。」
顔を隠して笑いを堪えながら一ノ瀬さんは答える。
「あの、お兄さん。」
「はい?」
「想像とは違って妹思いで優しいんですね。」
「っっ!!」
初めて言われた言葉に僕は少し泣きそうになった。
「でも、やっぱり行動が少しキモいですね。」
うん……?
キモい?
「キモいですか?」
「はい、少しキモいです。」
「キモくないです!!」
僕は強く否定したが一ノ瀬さんは笑いながらなお、
「いえ、キモいです。」と答える。
「一ノ瀬さん、思ったよりはっきり言うんですね。」
「あっすみません。いやでした?キモ兄さん?」
「キモい言われるのが好きな人は変態です。てか、キモ兄さんはやめてください。」
「ふふっ、すみません。お兄さん。」
そう言って一ノ瀬さんは両手に顔を乗せ僕の方を見る。
「キモ兄さんは嫌ですがあとは別にいいです。特に気にして──」
「でも、そんなお兄さん嫌いじゃないですよ。」
不意にそんなことを言われ、僕の胸が一瞬だけ跳ねた。
……いや、ドキっとしていない。
僕は、そんな単純な男じゃない。
「おーーい」
ましろの声が聞こえる。
声の方を見るとましろがクレープを5つほど持って走ってきた。
「そんなに買ったの?」
一ノ瀬さんがびっくりしながらましろが持っているクレープを3つ受け取る。
ましろはニコニコしながらクレープを持って席に座る。
「うん、いろんな種類あればお互い好きなの食べれるかなって思って買ってきた。」
おそらく、2つ以上は食べるのだろうなと僕は思った。
「一ノ瀬さんどれにします。」
「私はイチゴホイップにします。」
「ふふふ、2人ともすっかり仲良くなったね。」
ましろに言われて初めて一ノ瀬さんと普通に話せていることに気づいた。
そうか、ましろは僕も楽しんで欲しいと思ってあえて2人にしたのか。
僕はましろの方を向くとましろがチョコバナナクレープを頬張っていた。
頬にクリームとチョコが少しついている。
「ましろ、ありがとう。」
僕の声を聞きましろはニッコリ笑って「どういたしまして!!」と答えた。
そして、クレープを食べ終えたあと、ましろ達は映画館に行き、僕は家に帰るためショッピングモールを出た。
口の中はまだ、クレープの甘さが微かに残っていた。




