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01-05 番犬の矜持

セラルド様付き侍女のメイ・トエルムです。

夕方、陛下とリルナード様がお二人でお出かけと聞いた時は驚きました。お二人ともご不在なんて最近には無かったことですから。

その上ミアンが王宮にブランド伯爵が来ているという情報を持ってきて、絶対何か起こると思いました。

あの伯爵は嫌いでした。弱いものには居丈高で……私の友達は些細な粗相で殴られたんですよ。

あの伯爵、なんとしても姫様を我が物にしようと狙っていましたからね。「抱いてしまえば後はどうとでもなる。」ですって、ひどい話。


そうしたら日没後に本当に伯爵がこちらにやって来て……衛兵は伯爵を見て逃げちゃうし……

どうしよう……と思っていたら、スミカさんが姫様の扉の前に立ったんですよね。

あの方女の子みたいだし、あんなことするなんて思わなかった。

私達は姫様と一緒にお部屋の中にいたから、スミカさんが扉を開けて、にこやかに「皆さんは姫を奥に」って言って外鍵を閉めたのまでしか見てないんだ。

「伯爵閣下にお尋ねします。ここはセラルド姫様のお部屋。日没後に何の御用でしょうか?」

スミカさん、全く声が震えてなかったね。

「夫が妻の部屋を訪ねるのを番犬ごときに詮索される謂れはない!」ってひどい言いぐさ。

伯爵ったら大声を出して「セラルド姫、出ていらっしゃい!さもなくばこの無礼な番犬を手打ちにいたしますぞ!」って。


一生懸命お止めしたけど姫様は私たちを振り切って扉に走ってしまって……でも扉はスミカさんが外鍵をしめているから開かなくて……

姫様、懸命に扉を叩いて「スミカ、ここを開けなさい!命令です!」って叫んで。

そしたらスミカさんが「その命令は聞けません。」と言い切って……私、びっくりしました……そんなこと初めてだったもの。


姫様は涙声で叫びながら「開けなさい、あなたが死んでしまう!」って。

スミカさんは「姫様が微笑んで伯爵閣下を迎えたなら私は喜んでここを退いたでしょう。だがそんな泣き叫ぶあなたを背中において番犬が動けるはずがありません!」って 私までドキンとしちゃった。

「伯爵閣下、あなたは私の一存でここを通しません。もし押し通ると仰せなら番犬の牙をお試し頂くことになるがよろしいか!?」

スミカさんのその言葉に伯爵が剣を抜き、続いてスミカさんも抜いたんです。


アリン!あなた廊下で見ていたのね!ずるい!

スミカさんが「姫、私は絶対に勝ちます!スミカは勝つ!と一心に念じて下さい。そしてこの扉が開くのをお待ち下さい」と言ってすぐに剣が打ち合わされる音が聞こえてきた。

本当にすごかったです。でも、スミカさん、押されてて……

それでも最後にはスミカさんの剣が伯爵の依代の核を貫いて、その一撃は本人の魂まで貫いてしまって……

遠くからすさまじい絶叫が聞こえてきて、伯爵の配下達が大騒ぎを始めたのよね。

そして扉が開いた……スミカさん、左目を抉られてぼろぼろで……それでも扉の前で座り込む姫様のお手を取って微笑みいかけて……そのまま姫様の胸に崩れ落ちたのよね。

私、英雄の恋物語を思い出して胸が熱くなっちゃって……姫様にちょっと嫉妬してしまいました。


「あ、姫様!スミカさんは大丈夫ですか?」

「ええ、なんとか落ち着いたみたい。私の魂の欠片も眼孔内で安定したから明日には視えるようになると思う。でも左目を抉られた時の毒が残ってるみたいで……」

「姫様、スミカさん完全に王子様でしたね、ご婚礼の日取りを考えた方がよろしいのではないですか?」

「でも彼……奥手だから……」

「そういう場合は姫様が押さなきゃダメですよ!さもないと姫と王子様じゃなくていつまでも姫と番犬のままですよ!」

「……ぅぅっ、考えてみる……でも、スミカは明日どうしてもお父様の前に出頭しなければならないから静かにしてあげてね。

 私は今夜彼についているつもり。みんな、今日は本当にありがとう。」


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