01-04 スミカの不寝番
セラルド姫様の番犬たる者、寝ずの番も重要なお仕事です。今夜の僕はお部屋の扉前の廊下で待機です。
魔王様の王宮とはいえ無駄に武を誇る魔族の方も多いので、万一に備え姫様の警護は必要なのです。
魔族の身体はこういう時便利ですね。朝に魂飲料を飲んで少し休めばいいだけですから。
そんなある夜、僕は異変に気づきました。
セラルド姫様のお部屋からかすかなお声が。
「スミカ……」と聞こえましたがいつものお呼びとは違います。ひどくせつなそうで押し殺したお声です。
身体が動きかけて僕は止まります。きっとこれはご用のお呼びではないのでしょう。
姫様のお声はその後も続いて、しばらくして静かになりました。
冷静に、冷静に、僕は何も聞こえなかったふりをして寝ずの番を続けました。
翌朝姫様に朝のご挨拶をすると妙に不機嫌です。僕にパジャマを押しつけ「洗っておいて。」とだけ仰って侍女ミアンさんと湯浴みに行ってしまわれました。
そんなことが数日続いた後、僕は侍女さん達に捕まり侍女部屋に連行されました。
濡れたモップが顔に押しつけられます。
「この唐変木!」侍女の皆さんはお怒りのようです。わけがわかりません。
「あんたは姫様の血を頂いたんでしょ?」
「はいそうです。」
「夜の姫様のお声が聞こえていないはずないよね?」
「必死に聞かないふりをしてます」
「じゃあなんで行ってさしあげないの!?」
……わけがわかりません。
アドウは婚前交渉を厳しく戒めていました。未婚の貴婦人の部屋に夜忍んでいくなど論外です。
この世界は常識が違うようなので仕方なくリマド様にご相談に行きました。
リマド様は頭が痛いと言わんばかりに僕を見ます。
「あのねスミカ、実はアドウ貴族でも婚前交渉はあったのよ。」
……なんですと?
「一生の愛を相手に捧げる覚悟があるなら黙認されたの。結婚がどうとかは順番が違うだけの話だからね。」
……そういうものなんですか?
「あなたは来てくれなかったよね。」
……ごめんなさいと言うのも違う気がして、僕は黙って俯いていました。
「あなたのような歳の男の子には分からないよね。私とのことはもう過ぎた話。
でもセラルドとは今の話。
そしてあなたは今大事なことを知った。
あの子にどう接してくれるのか楽しみにしているわ。」
僕はリマド様のお部屋を辞しました。
リマド様とのことさえ気持ちの整理がついていないのに、セラルド様にどうお応えすればいいんだろう?
魔王様の宮殿を揺るがす大事件はその夜起こりました。




