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03-SS-05 ロッセの村のドラゴン

それはまだ現魔王ユノア陛下が王太子だった頃……

退屈あそばした王太子殿下がこんな日は面白い話が飛んで来ないかと思っていらしたら、臣下である侍従長スラウ公爵公子の辺境領地にドラゴンがいると分かって大騒ぎになりました。


ユノア「ラドゥルフ!お前ん家の辺境領地クラフトにドラゴンが棲んでいるそうじゃないか!なぜそんな重要なことを今まで主君で王太子たる俺に隠していた!?俺はひどい侍従長を持ったようだな!」

ラドゥルフ「ユノア!お前がこうなるから黙っていろとエレイン陛下に命じられていたのだ。」

ユノア「何だと!?ラドゥルフ、お前俺の家臣か母上の家臣かはっきりしろ!」

ラドゥルフ「ユノアの意思は尊重するが、魔王エレイン陛下のご命令は守らねばならん。」

ユノア「よし、そんな根性無しの侍従長に名誉挽回の機会を与えてやる。クラフトのドラゴンを見に行くぞ!続け!」


ドラゴンの一頭を半殺しにして従えて王都まで乗ってきた王太子ユノアと侍従長ラドゥルフでしたが、当然母魔王エレイン様に「なんてものを王都に、その上王城中庭に連れてくるの!?帰して来なさい!」と怒られました。

「なあラドゥルフ、お前んところに帰していいか?」「最近うちの領地でもドラゴンが増えているらしくてな。クラフトの隣にうちの派閥のツォーフ子爵(若き日のセシルの父親)の領地ロッセがあるからそっちに渡そう。あの領地にもちょうどいい森があるようだ。」

王城に呼ばれて登城したツォーフ子爵は応接室でスラウ公爵家公子ラドゥルフに加えて王太子ユノアまで待っていて固まりました。

ラドゥルフ「ツォーフ子爵、お隣のよしみでドラゴン一頭いらないか?」

ユノア「ちゃんと躾けたから人間も家畜も喰わないぞ。」

ラドゥルフ「必要なら餌代も出す。ユノアが。」

ユノア「てめえラドゥルフ!それは折半だ!」

ツォーフ子爵「どう考えても『ドラゴンなんかいらない』なんて言えない……」


時が経って……

シャーリー「お父様はユノア陛下の侍従長だったらしいけど、あの陛下なら品行方正で楽だったんだろうな……あれでソフィアちゃんのお守りも大変なんだよ……」

ラドゥルフ(シャーリーの父である現スラウ公爵)「ユノアも歳をとって落ち着いてくれて良かったよ……」

シャーリー「えっ?」


かくしてツォーフ子爵の辺境領地ロッセに住むことになったドラゴンの認識は「人間=逆らったら半殺しにされたから怖い」です。

ドラゴンにとって魔族と人間の区別は、強くて怖い人間と弱い人間、という程度です。


ドラゴン「俺を半殺しにしたあの怖い奴らはきっとこいつら弱い人間のボス→ボスの配下が泣く→俺が怒られる→熊の魔獣が来た。熊に弱い人間が喰われたら絶対俺が怒られる→俺が先に熊の魔獣を食おう。」ドラゴン的には完璧な論理です。

身の丈4メートルの熊魔獣に夜に襲撃されたら、普通に一夜で村が滅びます。

朝になって村の畑の隅に魔獣熊の大きな頭だけ転がっていたら村人は大騒ぎです。

「これはあの竜様が村を守って下さったのか……?」お礼に収穫祭にお乳を出さなくなった乳牛を竜様に献上です。


ある日の夕方、ドラゴンは自分の縄張りに人間の小さいのが来て泣いているのを見つけました。

ドラゴン「この弱い人間の子供は自分を見に森に来て道に迷った→放っておいて魔獣に食われたらきっと自分が怒られる→俺が子供を喰ったと誤解されたらきっとまた半殺しにされる、いや、殺されるかもしれない→迷惑だから子供の服をくわえて村まで持って行こう→これで自分は怒られない。」これまたドラゴン的には完璧な論理です。

一方村では「森に行った迷子をドラゴンがくわえてきたぞ!」と大騒ぎです。

母親「竜様はうちの子の恩人です!」村人たち「あのドラゴン、いいところあるじゃないか。」

お礼として次の収穫祭でもお乳を出さなくなった乳牛を竜様に献上です。


魔獣熊も魔獣狼もドラゴンが人間の村を縄張りにして困ってます。

森の端で子供を襲おうとしても怒ったドラゴンに喰われますから。

そのうちドラゴンが人間を収穫する時におこぼれをもらおうと思っても、ドラゴンは人間を襲わないのです。お腹がすいた魔獣熊や魔獣狼が夜に人間を襲おうとしたらドラゴンに食べられる始末です。



元々ドラゴンの故郷はルール海の向こう、メルデオラ大陸にあるフィドルフ(この世界のエルフ)の住む闇の森です。フィドルフ王族が騎乗用として使っているドラゴンがローナ王国に来る際に「遠出する仲間がいるのか、面白そうだから自分もついて行ってみるか。」とついてきた若竜がローナ王国の辺境部に居ついたのです。 そして「若造どしょも、ここでは人型の小さいのには絶対に手を出すな、怖いぞ。」と先住竜に説教されますが……

若竜は「あいつら小さくて弱いぞ。怖くない。」と言うのですが、先住竜に「お前ら闇の森で森人間フィドルフを襲ったか?」と聞かれます。若竜は「そんな怖いことするはずが無いだろ!」と答えました。先住竜は「ここでも同じことだ。魔獣を喰う分には怒られないから大丈夫だ。まあ気をつけて生活しろ。」と言うのでした。



シャーリー「そういえばあんた、捕まえたドラゴンどうしたの?」

セシル「ロッセの森に帰した。」

シャーリー「気に入ったものを返すって、あんたにしては珍しいわね。」

セシル「だって領地で『ドラゴンを連れて行ったご領主さまはひどい』と暴動が起きそうになったんですもの……」

シャーリー「それほど?」

セシル「それほどだった……子供は泣きながら、大人は決死の形相でドラゴン返してと請願に来た。」

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