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03-09 心の闇と向き合って

アネットです。

ソフィア姫様の申し立ては認められました。でも王国の現在の法がある以上、ルーセントとイリスの親娘は表向き死罪に処されたことになり、実際には違う姿と身分を与えられて魔族のために働くこととなるそうです。


私の絶縁状の件も、お父様があらかじめ魔王陛下に

「我が娘アネット・シトウが絶縁状を持ってきてもそれは無効です。

 娘が愛と忠義と大義のため体を張る時、親が我が身・我が家可愛さに逃げられましょうか?」

と書状をお送りしていたそうで無かったことになりました。こっそりお父様に感謝です。


でも、私には分からないことがあります。なぜ姫様はあんなにも件の襲撃に関わった人間の命を助けることに執心されたのでしょう?

嫌な予感も含めてお聞きすべきと思い、お食事に向かう廊下で姫様にお聞きしてみました。


「……アネット……それはね……」

珍しく姫様が私相手に口淀みました。その時廊下をこちらに向かう人影が。


それは異国の礼装を着たイリスでした。イリスは姫様の前で廊下に両膝をつき、さらに両手もつきます。膝まづく作法とは違う異国の作法のようですが、礼を尽くしていることは分かります。

イリスの後ろには護送のバラッド将軍とその部下が。バラッド将軍は微笑んで姫様に言います。

「姫様、小官らはこれより暫し耳が聞こえなくなります この〝死罪囚〟が何を申しても聞こえません。」


「イリス、発言を許します。」姫様のお言葉にイリスが口を開きます。

「ソフィア姫殿下に申し上げます。この度のご厚情、本当にありがとうございました。違う姿になっても我が忠誠と我が身命の全てを殿下に捧げます。」

「イリス、その忠誠を受け取ります。」姫様が口を開きました。

「イリス、覚えておいて、私とて無条件に人間にやさしい訳ではないのです。今でもあの襲撃を思い出すと身体が震えます。

 勇者に受けた傷を思い出し心が冷たくなることがあります。大好きなエスティーカお姉さまはさらに惨い仕打ちを受けたのです。

 でも私はその想いのひとつひとつが人間への憎悪に変わるのが怖い。憎悪に任せてこの身に潜む凶暴な力が人間に振るわれるのが怖い。

 力あるものの驕りというならそれでもいい。きっと現実に私はできてしまうのだから。

 あなただけでもいい、人間と仲良くしたい、という私の誠意を理解して下さい。」


「ソフィア姫殿下のお気持ち、確かに承りました。微力ながら人間に姫殿下のお心が伝わるよう力を尽くします。」

イリスはバラッド将軍達に護送されて行きました。


ソフィア姫様が言います。

「あのね、アネット 私はあの襲撃の時、この身に潜む力に気づいたの。これはお婆様やお母様から受け継いだ、因果関係を無視して現実を書き変える力。

 人間達が魔族に従わないならこの力で全世界の人間達の心を書き変えればいい。

 お婆様もお母様もお気づきのはず。でもそれをなさらないのは引換えに何か大変なことが起きるから。私はそれが分かる……」


姫様は震えています。私は姫様を抱きしめました。

「私が絶対にそんなことにはさせません。この命と頂いた力の全てを使って姫様と王国の穏やかな日々を守ります。」

「アネット、そのためにあなたが犠牲になってはいけないのですよ……」姫様の私を抱き返す手に力が入ります。

「心に刻みます。」


私が姫様の仰った力の本当の威力を知ったのはもう少し後のことでした。

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