01-SS-02B 馴れ初めと裏話 裏
あの子たちの話を聞きながら、予は15年前の夜を思い出していた。誰にも語られることのない、もうひとつの物語を。
リマドとくちづけを交わすまでの流れは、あの子たちの恋物語の通りだ。
唇を重ねて私はリマドの魂に触れた。そこには雌として私という雄を受け入れ求める心と、もうひとつ、別の方向に向かって歪みねじくれながら伸びる黒い流れがあった。
同時に私はリマドに潜む強大な異能に気づいた。それは人間はもちろん、魔族でさえ持ち得ないはずの力。私への想いにより使われるならばよいが、黒いねじくれた流れによって発現されればこの国、いやこの世界そのものの存亡に関わるかもしれない。
しかし、私にはその黒いねじくれた流れを読み解くことはできなかった。婚約者への想いとすれば明らかに異質すぎる。
これは余りに危険だ。私は意を決しリマドにその心の内を訪ねた。
リマドは答えた。
「私を陛下の女にして下さればお教えします。」
婚約者を持つ生娘が言うにしては異様なことだ。私は選択を迫られた。
この異様で恐ろしくさえもある女を抱いてもよいのだろうか?
しかしこの国に入れてしまったこの異形を放置するわけにもいかない。ましてや今さら外に放り出すなど論外だ。
私はリマドの望み通り彼女に触れた。
彼女は喜びに泣いた。まるでようやく自分の願いが叶ったと言わんばかりに。
リマドが落ち着きを取り戻すの待って、私は彼女に問うた。
「私の婚約者スミカはこの国に来ます。何ヶ月先になるか何年先になるかは分かりませんが必ず来ます。
たった今私は陛下の女にして頂きました。
スミカがこの事実を目の当たりにすれば彼の心は深く傷つくでしょう。そう、私の存在が彼の心に刻み込まれるのです。
陛下、私は陛下を心より愛します。陛下も私を深く愛してください。
そして私に陛下のお子を産ませて下さい。魔族になるのが必要なら喜んで受け入れましょう。
私について取返しのつかない事実が増えるたびにスミカの心の傷は大きく深くなり、その傷が痛むたびに彼の私への想いも強くなるのです。
そう、それは私がスミカと結ばれるよりも強い想いでしょう」
「では、私への愛も子供を産み育みたいというのも全て偽りなのか?」
思わず私は声を荒げた。
「いいえ、全ては私の誠の心。私は陛下だけを心より愛し、我が子にも私の命さえ与える愛を注ぎます。
これは全て嘘偽りない衷心からのこと。だからこそスミカの心は深く傷つくのです」
「それはスミカとやらへの愛なのか!?そんなものが愛だというのか!?」
怪物に向かって私は叫んだ。
リマドは微笑みながら静かに答えた。
「はい陛下、これも愛なのです。」
私は自らの行いを悔いた。なんという怪物をこの国に導いてしまったのだ。この狂気がどんなきっかけで世界を滅ぼす力を振るうかもしれないのだ。
しかしもはや後戻りはできない。リマドを私にとって最も愛しい存在にしよう。心から愛し子をなして共に育もう。
それがリマドの願いなのだから。
彼女は絶対に私や子供を裏切らないだろう。私がリマドを裏切った時のことなど考えたくもない。
15年前、リマドと私の夫婦生活はこうして始まった。




