06-06 狂犬アネット
エスティーカです。
ある日、あいつは予約も無しに突然やって来ました。
たかが伯爵家令嬢のくせに王女にして内務卿たる私に無礼が過ぎるというものです。
義妹ソフィアの寵愛にのぼせているのでしょうか?
ですが、それ以上にあいつ……アネットが言ったことは私にとって衝撃でした。
私がアリア姫擁立及び権力盤石化のため画策している、ソフィア排除の工作を全て言い当ててみせたのです。
それどころか、アリア王女の政敵となることを防ぐため、ソフィアを娼婦に墜とす計画や旧メルデオラ王家の庶子王子と番わせてメルデオラに追いやる計画も。
そして私の計画の結果ローナ王国が将来衰退凋落する未来まで。
このただのソフィアが好きなだけのお人好しに、どうしてそんな機密情報入手や長期推測が可能だったのか?
こちら側の誰かが漏らしたにしては、微に入り細を穿ち過ぎている!
私の、疑問や疑念が脳内でぐるぐる回る動揺を見透かしたのか、あいつは止めを刺しに来ました。
目にも止まらぬ動作で懐から一発の銃弾を取り出して言います。
「これは、先の戦で使われなかった最後の反物質弾。これをここで床に叩きつけるだけであなた達もろとも王都は消滅します。
ですが私なら、ソフィア姫様を抱えて危険範囲を脱出することが可能です。」
「アネット!貴女は誰に何を言っているのか分かっているのか!?
そんなことをすればセラルド陛下や先王陛下、リマド様、貴族達まで無事ではいられない!無礼どころではなく大逆の意図ありとみなされてもおかしくないんだぞ!」
私はクラウスを制して言います。
「それで、端的に言って貴女の要求は何?」
「エスティーカ姫様には、これまでと同様にソフィア姫様の善き義姉君でいて頂きたい。
ソフィア姫様はアリア姫様の魔王即位には反対なさいません。仮に姫様と私達の子供が産まれたとしても。私が保証致します。」
「それだけ?」
「ええ、それだけです。それだけであの日の私には充分です。
付け加えるなら、ソフィア姫様のみならず私とも以後も変わらずよしなにお願い申し上げます。」
それだけ言ってアネットは一礼して帰って行きました。
「姫様、よろしいのですか?あのような無礼を放置しても?」
クラウスの苦々し気な問いに私は答えます。
「あれは狂犬アネット。その上、何があったのかは知らないけど、現状はさながら手負いの狂犬だわ。
あんなのと無理をして戦っても、こちらには何ひとつ利はない。」
クラウスの手前、理知的にふるまいつつ、私は大きく溜息をついてソフィアに関する自分の策謀を放棄することを決めました。




