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ローナ王国物語  作者: 青酸基
第6覧
106/108

06-04 その時、あの日

ソフィアです。

それは、朝からおかしな感触が続く日でした。

いつもなら滑らかに流れる因果の糸が、視界の端で大きく歪み、たわんで元に戻る。とても気持ち悪いことです。

特にたわみ方がおかしいのです。過去から未来に向かってではなく、未来から過去に向かう波が起きているようなのです。

積極的に因果の糸に触れて何かをした方がいいのか、なにもせず様子見をした方がいいのか、それさえも分からないのです。


ひときわ大きな未来からの波が、私の目の前で炸裂しました。

ばらばらになった波が無数の糸になり、私の手に、足に、体に、頭に絡みます。声が出せません!息ができません!


永劫とも思える一瞬が過ぎ、私に絡んだ因果の糸が少し緩んだ時、私の中に無数の見たことも無い私の姿が広がりました。


それは、執務で麻痺した頭でお母様から伺った「普通じゃないセックス」の話。

それは、お姉さまに誘われて立った属国メルデオラの首都メルドアでの冒険。私を弄んだ名前も知らない男達の記憶。

それは、華美なドレスを着て高級娼婦として立ったメルドアの娼館のロビー。

それは、あの方グレゴールに呼ばれて一夜を共にした朝。

それは、グレゴールの粗野だけど優しい掌。

それは、グレゴールとの心も身体も焦がすような逢瀬。

それは、グレゴール以外にも増えていく私のご贔屓のお客様方。

そしてそれは、もう一人の想い人ラハイアにばれてしまった私の正体。

私は自らラハイアに墜ちて、アネットもジュウシもグレゴールも捨ててこの身さえラハイアに任せ、長い長い時間を人間の中で過ごした。

過ぎていく時の中で大切なヒトの訃報が届き、何度も何度もただ一人で泣き崩れた。そんな身勝手が許される私では無いのに。ラハイアも当然のように先に逝ってしまった。


それでもアネットは、「お互い生きているうちに、どうかもう一度会いたい」と言ってくれた。


私は、お父様、お母様、お姉さま、お爺様、お婆様やご先祖様方、そしてあの子のお墓の前に立った。

「ただいま帰りました」

その一言しか出てこなかった……「ごめんなさい」なんて言えるはずが無い。


「あの方がお好きだったこの髪型だけど、解いて髪を整えて下さるかしら?」

アネットはツインテールを解き、私の長い髪に鋏を入れました。そして、鏡の中にいたのはまだみんなとともにあった頃の私。

「姫様、あの日のようですね。あれから人間世界での生活は楽しかったですか?」

「……ええ……もちろん!」

それは、アネットへの精一杯の強がり。

「ソフィア、今からここでもう一度私達だけの時間を始めませんか?」

「ええ、それもいいかもしれませんね。」

あの日と変わらないアネットの優しくやわらかい声に、私はつい、本心をこぼしてしまった。


「アネットお母様……ソフィアお母様。本当にもう一度お二人だけの時間をやり直したいですか?」

あの子の声が聞こえた。よく知っているけど見たことも無いあの子。

「……もしも……そんなことができるのなら……許されるのなら……私はアネットとの時をやり直したい……」

それは私の声。言った記憶の無い、魂から絞り出すような呟き。

アネットが私の手を取り言った。

「そんなことがあったら、絶対にこの手は放しませんよ!覚悟なさいソフィア!」

「アネット、その時は私の手をしっかり握っていて下さいね」


「おやすみなさい、アネットお母様、ソフィアお母様。良い目覚めを……」

あの子の声が遠く響きます。


視界が真っ白になって……私に巻き付いた因果の糸がこの身に馴染んでいって……


私は、お昼なのにいつの間にか眠ってしまっていたことに気づき、慌てて飛び起きました。

「アネット!万魔節の着替えの準備をなさい!もうこんな時間!私もアネットも寝てしまうなんて!」

「二人とも!ご結婚の儀まで時間が無いんですよ!遊んでいるとは何事ですか!?

 それにセラルド陛下のお仕事のお手伝いも始まるんですからしっかりして頂かないと!」

それは懐かしくも切ないシャーリーのお小言でした。


06-05 現状転回 その後

ローナ王国王太女、ソフィアです。

「私達の一夜限りのセックスがどうなったか、ですって?

 一時の気の迷いで、私達魔族の王女が、属国メルデオラの街で人間相手に娼婦の真似事なんてするはずがありません!ねえお姉さま!」

「ええ、私達はそれ程愚かではありませんよ。あれはちょっとした冗談、あれっきりのお話でした。」

(……ええ、同じことを繰り返したりしません)

ーーーーーーーーーー

???「エルナ知ってるよ!じごうじとくっていうんだよね!」

???「エリスも知ってる!いんがおうほうっていうんだよね!」

リマド「待ちなさいあなたたち!」

???「エリス!にげるの!」

???「エルナ!待って~!」

ーーーーーーーーーー

【お知らせ】

拙作「ローナ王国物語」をお読みいただきありがとうございます。

というわけで、未来のソフィアからの因果の糸が現在のソフィアに繋がれました。

(その後騒々しい二人組が乱入していましたが、誠に申し訳ありません)

次回以降は書き溜めた分とは別展開になるので、週刊連載になると思います。日曜の0時10分ごとに投稿予定です。少々お待ちいただければ幸いです。

作者拝

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