春の章 凶事待伏 7
三世の体に千世の意識が現れると体力消耗するらしい。
そろそろ体の限界が近づいているのを実感する。
登場人物紹介
王生 三世
降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。
実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。
10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。
職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。
烏丸 さくら
MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(通称M.C.H.)の学芸員。気分転換に訪れた山中で怪我をして三世に救われる。
偶然のいたずらなのか三世と会う機会が増え、その度に心惹かれていく。
藤原 后恵
さくらと同じM.C.H.の学芸員。以前は奈良国立博物館に勤務。剣とは面識がある。
酒豪。倹約家っぽい。そして、もう一つの顔…。
茶トラ猫、ヱビスを飼っている。
(名前の由来はお酒から)
各務 恵光
M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。
彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。
三世だけは「えこう」と呼んでいる。
藤原たち職員は非常時対応マニュアル通りM.C.H.の前庭に集まっていた。
その中には一目散に退避した新人監視員の姿もあった。
──おっ、新人君もちゃんとここが退避場所だって分かってたんだ。偉い偉い。
藤原が周囲を確認する。
人も車の流れもいつも通り。
──ヒィーヨヒィーヨ、ヒィーヨヒィーヨ
建物奥の雑木林から聞こえる鳥たちの変わらぬさえずり。
そもそも あれは地震の揺れだったの?
スマホを取り出し確認する。
地震情報はなし。
どういうこと?揺れていたのはピンポイントで五大明王像だけ?
「猫毛か…」
三世が藤原の背後から気配を消して近づき、親指と人差し指でそっと髪の毛に触れる。
「ちょっと!!急に後ろから髪の毛触らないでよ!!女性の髪を触るなんて失礼でしょ!!」
流石、勘のいい藤原さん。一瞬、殴られるかと思った。
「失礼しました。随分ぺったんこだから気になって」
「気になっているのは今日の湿度ってことですか?仕方ないでしょ ヘアオイルつけても猫毛って湿気を吸収しやすいんだから。どうせ湿度のバロメーターですよ!」
三世はヒートアップしている藤原と会話をしながら彼女の心の中を探ろうとしていた。
「普段はヘアオイル使ってるんだ」
流石 現在。143年前とは大分違う。ヘアオイルなら多少の雨ならはじきそうだ。記憶を消す雨の効果があったのか怪しいな。
「ローヤルゼリーエキス、コラーゲンも成分に入ってるんだから。高いのよ」
ガードが固くて心の中が読めない。というか完全に圧倒されてこっちの心の余裕がない!
「猫も体を覆っている毛に皮脂と湿気が蓄積されやすくて、べたっとするんだ」
──やっぱ 女性と話すの下手だな…俺。
「流石獣医さん。だから?」
かなりご立腹の様子の藤原。
──完敗。俺、藤原さんみたいな気が強そうな女性 超苦手かも…。
だけど彼女の事、確かめたいんだ。
藤原姓、奈良、和菓子屋、猫毛…。
気になる点は幾つもあるんだが…これっていう決定的なものがないんだよなぁ。
「あれ?藤原さん。烏丸さんと一緒じゃなかったの?」
一番最後に館長の各務がM.C.H.から出てきて合流する。
「それが途中ではぐれてしまったみたいで」
「心配ですね…」
──館長、それだけ?その余裕は一体どこから?
「ところで館長、この緊急事態に私たちを追い払って二人で何してたんですか?」
「あ、あの…王生さんに何か良い方法がないか、三世君に聞いてもらってたんだよ」
「例のコネですか?しかも息子さんを使って。信じられない」
「い、いや…その…」
三世が二人の間に挟まれる。
目を左右に動かして二人の様子をうかがう。
「俺、さくらを探してきます」
脱兎の如く駆け出す。
「あっ、ちょっと!」
藤原が手を伸ばし引き留めようとするが、三世はその手をかわしてM.C.H.に向かう。
「三世君!正面は開かないから裏の非常階段から頼むよ」
三世は親指を上に立ててグッドサインで返す。
「館長、何かあっても知りませんよ!」
藤原が言い捨てる。
「だ、大丈夫よ。地震じゃなさそうだし」
「えっ?」
──館長、今何て言いました?
三世は非常階段の下に隠れて さくらと自分の式神が出てくるのを待ち構えていた。
さくらが背負われてゆっくり階段を下りてくる。
──このまま前庭まで頼む。皆が心配している。
三世の命に式神が頷く。
それを確認した直後だった。
三世がふらついて壁にもたれかかり心臓の辺りをさする。
──うっ…一瞬目眩が…千世の意識のせいか…。式神を頼んだ
だけで こんなに体力消耗するのかよ。
これからはチョコレートを常備しておかないと。
「三世の体、もう少し頑張ってくれないかな…」
「おっ、二人が戻ってきたぞ」
各務が三世とさくらに気が付き、わざとらしく手を振る。
「さくらさん…どういう登場の仕方なの?」
藤原が驚くのも無理はない。
さくらは三世に背負われて堂々と前庭までやって来たのだ。
「すいません。足がすくんじゃって…。ハハハハハ」
「ハハハハハって、また怪我したのかと思ったわよ」
藤原の口調は強いが本心ではさくらの事をすごく心配していた。
「自分で立てるか?」
「多分」
三世がゆっくりと膝を曲げてさくらを下ろす。
「倒れるなよ」
「はい大丈夫です」
さくらはしっかりと地面に足をつける。
「じゃあ俺、この後用事あるから帰るわ」
「え?あの三世さん?」
任務を終えた式神は直ぐに回収された。
「で、さくらさん。今までどこにいたの?」
藤原が頬を膨らませてさくらを聴取する。
「すいません、えっと…その…ちょっと忘れ物を」
「あなたの身に何かあったらどうするの!!バイト初日の彼だってちゃんと退避場所に集合してるのに」
「す、すいませんでした」
さくらは藤原の物凄い剣幕に思わず縮こまり、背筋を伸ばし腰から45度倒して心底謝る。
「あの…皆さん。地震ではなさそうなので館内に戻りましょうか」
各務が気まずい雰囲気の収拾を試みる。
「館長、地震じゃなかったら、何ですか?」
藤原が冷ややかな目で各務を見る。
「一丁先で道路工事をしているみたいだから、きっと何かあったのかも」
「何かって?」
「さぁ…そこまでは…」
──藤原さん、第六感でもあるの?怖いなぁ…。
「あの…すいません。僕、今日は上がってもいいですか?」
新人監視員はずっと言えずに立っていた。
訂正。言い出せるような状況ではなかった。
「あぁ、ごめん。そうだね。今日は上がってもいいよ。お疲れ様」
「はい。ありがとうございます」
彼は急ぎの用事があったのか前庭の側にある駐輪場へ走って向かう。
読んでいただきありがとうございます。
藤原は果たしてどこまで知っているのでしょう。
三世が思っているように
決定打とはいきませんが今までのエピソードの中にいくつか書いています。
『SMALLVILLE』の配信が終わってしまう…。
石とか、小説を書くのにかなり影響受けています。




