春の章 憂来無方 7
清隆がT市総合病院に在籍している東 春世に関する情報を皆に話す。
剣も同じく仕入れた情報を皆と共有する。
春世と三世の関係とは?
登場人物紹介
王生 三世
降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。
10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。
職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。
王生 剣
王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。
職業は仏像学芸員。
王生 宝
剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。
名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。三世とは馬が合わない。
因みに男性として現れた時の名前は「宝」
王生 大耶
愛(現在の剣の奥さん)の連れ子。現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。
実父は警視総監の直江菱耶。
王生 煌徳
剣と愛の実子。現在に目覚めた大威徳明王。現在酪農大学の学生で三世の跡を継ごうと獣医師を目指している。愛くるしい顔をしているが怒ると家族の中では一番怖い。
各務 恵光
M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。
彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。
三世だけは「えこう」と呼んでいる。
阿達 金兜
王生家御用達のタクシー運転手。
正体は現在に目覚めた 阿耨達童子。
星、金、キラキラしたもの好き。
烏丸 さくら
MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(通称M.C.H.)の学芸員。気分転換に訪れた山中で怪我をして三世に救われる。
偶然のいたずらなのか三世と会う機会が増え、その度に心惹かれていく。
佐伯 千世
降三世明王が143年前に体を借りていた人物。
優れた能力を持つ陰陽師。
今もなお降三世明王の意識に影響を与えているようだ。
東 春世
T市総合病院の消化器外科の医師。
三世に雰囲気が似ている。
大内 美桜
D市立小学校の6年生。色覚異常で赤と緑が茶色に見える。
社会見学で訪れたM.C.H.で三世に色彩美の世界を体感させてもらう。
三世は2階の自室には戻らず、さくらが寝ているゲストルームの前で足を止める。
「クリスさんもういいぞ」
ゆっくりと目を開け、三世の顔を見てまた閉じる。
──今は降三世明王のようだな…。
クリスさんが見た三世の瞳は血紅色をしていた。
「そっか。お前は俺の監視役だもんな」
その言葉にカチンときたクリスさんがカっと目を見開く。
「怒るなよ。お前は信頼できる相棒だよ」
──本当に?
……本当。
二人は目で会話する。
クリスさんはその言葉を信じ、重い腰を上げてドアの前から移動する。
「ありがと」
三世は さくらの寝ているゲストルームのドアノブに手をかけ、静かに開ける。
足音を立てずフットライトの光の方向へと歩き出す。
ベットの上のさくらは高級布団にくるまれて爆睡していた。
三世はさくらの顔の前にそっと両肘をつき、無防備な寝顔をじっと見つめる。
「俺の気持ちは決まっている。共に生きていく。未来もずっと一緒だ」
足元から照らされた光の中の三世は、まだ紅い瞳のままだった。
ゆっくりと顔を近づけ、さくらの額に唇をつける。
ほんの一瞬のつもりが思いのほか長くなってしまった。
それでも さくらは気が付くことなく、心地良い眠りについていた。
「愛してる…」
さくらの頬に一滴の涙が落ちる。
──涙?あり得ない。いや、今ならあり得る。二人の感情が意識の中で一人の女性に思いを寄せているんだ。
涙が頬を伝い唇に到達する。
さくらの唇がその感触に反応する。
──ん?ちょっぴり甘い…。これ何だろう…。
「起きたかな?」
さくらは何かを感じたが目を覚ますことはなかった。
「さくら…」
もしかして143年前から千世も俺もずっとさくらを探していたのかもしれない。
"桜"の名と温もりを継ぐ"さくら"。
"千世"の想いを継いだ"三世"。
随分と時間がかかったけど、現在のさくらにやっと気持ちを伝える自信がついてきた気がする。
俺、今更だけど心から笑えるようになったし。
千世と違って俺は不器用だからな。
「ふぁぁ…」
三世が思わず大きな欠伸をする。
「ヤバい急に睡魔が襲ってきた…」
三世が隣のベットの掛布団をめくり、躊躇する。
「ま、いっか。別々の布団だし」
その時、クリスさんはドアの前にスフィンクスのように鎮座していた。
──そのくらいなら、ま、いっか…。
クリスさんも大きな欠伸をして、そのまま眠る。
さくらは丁度 夢を見ていた。
──舞い散る桜の花びら…。
今日は風が強いのね。
花びらの色がピンクじゃなくて真っ白…。桜の花って白だっけ?
この光景、前にもどこかで見たような…。
確かあの時は……花びらが一瞬で火の粉に変わった。
誰?
緑色の瞳の男性が舞い散る花びらの中から私の方を見ている…。
でも、どこか見覚えがあるような…。
──キョッキョキョキョキョ。
風で吹き上げられた桜の花びらの中から一羽の鳥が鳴きながら青空へ向かって飛んでいく。
雲より高く風に乗ってあっという間に見えなくなった。
──白、緑、青。これって平和を象徴する色だよね。
いい夢……。
剣は清隆に依頼した東 春世の人物像について話を聞いていた。
「清隆、どうだ?T市総合病院は」
「最新の白内障手術用機器があるそうです。あと、産休に入っている先生が無事女の子を出産したそうです」
「それは良かった。じゃななくて。東 春世の話だよ」
「はははは。わかってますよ」
詰め寄る剣をサラリと交わす。
「思うんですけど、降三世明王が意識を支配するには春世さんの方が相応しかったんじゃないかって」
「何故そう思う?」
剣が親指と人差し指だけで顎を支えながら清隆を見る。
「オッドアイもそうですが、ご両親があえて“はるとし”と読ませているのが どうも気になって…普通読めませんよ」
「オッドアイなの?」
「普段は色付きの眼鏡をしているのでわかりませんが」
宝はモニター越しでしか顔を見ていないので初めて知った。
「宝、オッドアイって何ですか?」
大耶が言葉の意味を聞く。
「虹彩異色症。左右の目の色が違うこと」
「犬とか猫も多いよね」
獣医師免許取得に向け勉強中の煌徳。
「初めて知りました」
「チラッと見せてもらいましたが裸眼は褐色と青緑。三世君と千世さんの瞳の色です」
剣の顔つきが変わる。
「本当は春世さんが…と思ってしまいます。でも、肝心の目印の痣が見つけられなくて」
「服を着ている部分にあるかもしれないわよ。でも…流石に脱がすわけには…」
全員が宝から目を背けていた。
金兜は空き缶を並べ直し始める。
その配置を目で追う煌徳。
「これは?」
「いるか座」
各務が手のひらいっぱいにポテチを掴む。
「大耶、ポテチまだある?」
「太りますよ」
「そうですよ。脂質が多いんですから」
清隆も同調する。
「何で全無視すんの!?」
宝は勢いで35缶のプルタブを勢いよく開ける。
「あー!これノンアルじゃん」
全員、無視。
「直感ですが春世さんは何か不思議な能力を持っていそうな気がします。何度か遭遇したのですが、見ただけで病を診断できるような…」
「透視か?」
剣だけは冷静に聞いていた。
「上手く説明できないんですが、心の透視、物質の透視…降三世明王のように万物を見ることができる。僕はそう感じました」
「彼には元々特殊な能力があるとでも?」
清隆が唾を飲み一呼吸おいて話を始める。
「実は先日…」
T市総合病院
「ありがとうございました」
診察が終わり母親と一緒に診察室から出てきたのは三世がM.C.H.の特別展を案内した美桜だった。
「美桜、お母さんお手洗い行って来るから、いつもの席に座って待っててね」
「はーい」
母親が離れて間もなく看護師が美桜を呼びに来た。
「大内 美桜さーん」
美桜が看護師の方を向いて元気よく手をあげる。
「はい」
「今そっちに行きますね」
美桜を見つけた看護師が色違いのクリアファイルを2枚手渡す。
「この緑のファイルの方を会計に出してください。赤い方は受付の方にお願いしますね」
この看護師さん初めて見る顔だわ。きっと私が緑と赤を識別できないこと知らないのね。
美桜は子供らしく口を尖らせてむすっとする。
「この患者さんは緑と赤を識別できませんよ」
「え?あっ東先生。失礼しました。美桜ちゃん、そうだったの?ご、ごめんなさい」
あっ!三世さんのそっくりさん。確か消化器外科の先生だったよね。
東先生って言うんだ。覚えておこうっと。
「東先生、どうしてわかったんですか?」
「いつも座っている椅子。決まっているよね」
美桜はボーっと春世を見て頷く。
「ここの待合の長椅子は緑色とオレンジが交互に配置されている。だけど、この椅子だけは数年前買い替えたので水色。いつも意識して座っているんでしょ?」
「は、はい」
ど、ど、どうしよう。話かけられちゃった。しかも美桜の目のこと知ってる。前から?嘘…。私 無意識にジロジロ見てたのかな?
美桜は気が動転していた。
気が付いた春世が美桜の肩にそっと手を置き気持ちを落ち着かせる。
「大丈夫?」
あっ…。これって三世さんもしてくれたやつ。
でも先生のはちょっと違う。ほんわかしていてヒーリングみたい。
「あ、ありがとうございます。三世…さん。じゃない先生」
「三世?」
「ご、ごめんなさい」
母親が戻って来た。
「美桜、どうしたの?」
「な、何でもないよ。お母さん、行こ」
美桜は母親の手を引っ張り、二人の前から立ち去った。
「三世ね…」
春世は三世を知っているような口ぶりだった。
「東先生。一緒にお昼どうですか」
一部始終を見ていた清隆が声を掛ける。
「もうそんな時間でしたか。じゃあご一緒に。確か今日のA定食は野菜炒めでしたよね」
「定食ランキング堂々の一位ですよ。急がないと」
「ってことがありまして。食堂で野菜炒め定食を二人でいただきました」
「それってさ、洞察力が優れている有能な医者ってことじゃないの?」
言われてみればそうかもしれない宝の解釈。
「確かに」
全員が首を縦に振る。
「何で皆納得するんですか。僕、落ち込みますよ…」
剣は春世の確たる証拠を教え、落ち込んだ清隆をフォローする。
「痣はあるよ」
「え?」
「小さくて見つけづらいんだ」
「剣さん、何で知ってるんですか?」
「実は私も気になってな。先日久々にD市にある東家を訪ねたんだ」
「そういうのは早く言ってくださいよ」
清隆が声を大にして言う。
大耶が人差し指を口に当てて静かにするようジェスチャーで伝える。
「すいません」
「僕のタクシーを貸し切りでね。なんと、あの日の売り上げトップでした」
「金兜、良かったな」
「はい。ありがとうございます」
同じ現在に目覚めた童子として阿耨多童子こと金兜を侮れないと制多加童子の清隆は思った。
「剣さん、もったいぶらずに教えてください」
清隆が急かす。
「あぁすまん。右耳。丁度ピアスを開ける辺りだ。人目につかない場所だよ」
「そういえば彼はいつも人を立たせるのは左側でした」
「髪で耳を隠してるとはいえ、星の形は目立つしな」
そこまで徹底しているとは…まさか本人が降三世明王に仕える事を知っている?
両親は三世がいるのに 何故名前に目印の"世"の文字をいれたんだ?
──まさか弟の方だったのか!?となると…三世は降三世明王が春世を見つけるまでの繋ぎだった?
「その東 春世って一体何者なんですか?東家といえば代々、降三世明王の宿主を輩出している家系ですよね」
15年間も北海道から離れていた各務には初めて聞く名前だった。
「春世は三世と10歳も年が離れた実の弟なんだ。名前は季節の“春”に世界の“世”」
「ということは彼も降三世明王の?」
「三世にはくっきりと生まれた時から右手に痣があったので東家当主から直ぐ私の元に連絡があった。
しかし、時を暫く置いて また星の痣がある子が東家に生を享けた。小さな痣だったので生まれた時は目立たなくてわからなかったそうだが、成長するにつれて大きくなり気が付いたらしい。既に三世が生を享けていたので両親は私に連絡しなかったとのことだ」
開けた缶がノンアルだったので、さほど酔っていない宝が急にシリアスな表情になる。
「兄の"東 三世"は10年前に水難事故で生死をさまよっている。彼が一命をとりとめたのは咄嗟に降三世明王が意識を支配したから。
体はかなり限界にきていると思う。さっきの見たでしょ?回復が遅くなってる」
全員が心配そうな表情を浮かべ口をつむぐ。
「父さん知ってたの?本当は弟の春世が降三世明王に相応しい人物だったってこと」
宝が剣に厳しい視線を向ける。
読んでいただきありがとうございます。
悲しいとき、嬉しいときはちょっぴり涙は甘いらしいです。全部しょっぱいと思ってました。
辛い時が多いので…。
早朝に防災無線で起床。初めて聞きました。河川の氾濫なんちゃらとか…ハウリングしてて聞き取れなかった。
国土交通省北海道開発局の河川監視カメラでは大丈夫だったのですが、二度寝できなかった…。眠い。




