春の章 憂来無方 6
チョコからバレンタインデーの話になり
何故か宝と三世の口喧嘩に発展する。
登場人物紹介
王生 三世
降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。
10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。
職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。
王生 剣
王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。
職業は仏像学芸員。
王生 宝
剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。
名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。三世とは馬が合わない。
因みに男性として現れた時の名前は「宝」
王生 大耶
愛(現在の剣の奥さん)の連れ子。現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。
実父は警視総監の直江菱耶。
王生 煌徳
剣と愛の実子。現在に目覚めた大威徳明王。現在酪農大学の学生で三世の跡を継ごうと獣医師を目指している。愛くるしい顔をしているが怒ると家族の中では一番怖い。
各務 恵光
M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。
彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。
三世だけは「えこう」と呼んでいる。
阿達 金兜
王生家御用達のタクシー運転手。
正体は現在に目覚めた 阿耨達童子。
星、金、キラキラしたもの好き。
在原 朝臣
旧姓は九条。現在は母方の姓を名乗っている。
悲運なのか不運なのか運命なのか、彼の血筋には代々運ばされている「恨」があった。
父は九条忠。元統合幕僚長。10年前に謎の死を遂げている。
母は在原高子。小笠原のとある島で療養中に行方不明になる。
大自在天に意識を支配されている。
「三世、私もその高級そうなチョコレート頂戴」
宝が職場で大耶が貰った義理チョコを顎で指す。
「2、3粒にしておけよ。食べすぎると太るぞ」
「うっさいなぁ。高カカオなら脂肪つきにくいから大丈夫だって」
次々と手に取り頬張る。
「宝さん、なんか超機嫌悪くない?」
清隆がやけっぱちになっている宝を見て心配する。
「単なる飲み過ぎだと思うけど」
金兜が宝の飲み干した空き缶5本を順番に並べる。
天辺、右下、左上、右上、左下。
「上から見ると星に見えない?」
「金兜 飲んでるのノンアルだよね?」
「そうだよ」
「この後 運転大丈夫?」
──金兜の事も心配になって来た。
三世が席を立とうとして中腰になった時、
すかさず宝が三世の左手を引っ張り引き留める。
「離せよ。俺、水取りに行きたいんだけど」
「ちょっとぉ三世 聞いてよ。大耶にバレンタインデーあげられなかったのよ。何で出張なのよ…。しかもアンドラ公国。空港ないのよ。直ぐに帰って来れないじゃない」
酔うと涙もろくなる宝。
「チョコの話かよ…」
清隆が宝に箱ごとBOXテッシュを渡す。
「はいテッシュ」
「清隆、ありがと」
「おい清隆、アンドラ?アンゴラ?それどこ?」
「世界で最も医療の質が良いとされている国です。確かフランスとスペインの間にあったと思います」
「遠いな…。帰って来るのは流石に無理だな。それ以前に兄弟で要らんだろ。ついでに言うとセンスの悪いお土産も要らないから」
宝が目の前に合った三世の左手を引っ掻く。
「痛ってーな、何すんだよ!」
「どうせ直ぐに回復するんでしょ」
「あのなぁ…」
三世が左手をじっと見つめる。
──1、2、3……。
あれ?全然戻らない。赤く盛り上がったままなんだけど…。回復力が落ちてきてる?
「大丈夫。人間なら2時間以内に症状が消えるはずだから」
「引っ搔く習性はアライグマ科アライグマ属のアライグマとそっくりだな」
「3回繰り返さなかくてもいいでしょ!」
毎度毎度の宝と三世の応酬。
「アライグマって宝が大切にしている お母さんの形見のぬいぐるみだよね?僕見せてもらったけど、まだ綺麗だったし可愛いかったなぁ」
煌徳が三世のストッパーの役目を果たす。
「煌徳、勉強しておけ。奴は子供の時は可愛いけど大人になると気性が荒くなる」
三世がアライグマの生態をレクチャーする。
「なるほど。お母さんはこうなること分かっていたんだね」
「煌徳、それは言ったらダメだろう」
「煌徳!三世!」
宝が吠える。
「すまん。それは私が宝の母、智慧に買ってあげたものだ…。初めて動物園でその…デートの時にだな…」
剣が恥ずかしそうにカミングアウトする。
「それ初めて知ったんだけど…」
宝はぬいぐるみの背景を知らなかったらしい。
──やっぱり親子だな…。
三世と煌徳は心の中で同時に思った。
チョコの箱にはホワイトチョコが1粒だけが残っていた。
「よし!カフェイン摂取で目が覚めた」
宝が背筋を伸ばして急にシャキッとする。
──絶対口げんかで目が覚めたと思う。
話についていけない大耶は思った。
煌徳が金兜の並べた空き缶を並べ直す。
「先ずは四方に、そして真ん中に一つ」
自分が飲み終えた空き缶1本を右手前に置く。
その配置はM.C.H.の五大明王像と大自在天像の配置を意味していた。
「父さん、何で大自在天像はわざわざ北海道に来たの?国宝の五大明王像だけでも必見でしょ」
「それなんだが…」
答える時間も与えず矛先を各務に向ける。
「何で今回の特別展はあーいう配置になったの?恵おじさん。わざと?」
二人が煌徳に責められ小さくなる。
「仏像が元々あった場所には誰かが狭小な結界を張っていた。大きさからして恐らく胎内仏が人間界に出ないように張ったのだろう。床の色も違っていたので相当昔からだと推測する」
「結界から出るためにM.C.H.に運んだの?」
「物理的に移動させるのは苦労しないからな。時間とお金はかかるけど」
「頭いいね」
「その前は転倒させて京都に移動させたから流石に同じ手は使えなかったんだろうな。大震災も大空襲も免れたお寺だ。二度も転倒、修理となると流石に大問題になる。仏像学芸員の私の仕事も増える。北海道に帰って来れない。愛さんの千秋楽も見に行けない」
「父さん…」
──母さんの舞台は配信してるからいつでも見れるのに…。有料だけど。
「そんな昔から一体誰が結界を?」
三世が質問する。
「わからない」
仏像が戻った時の事を考えて私も結界を張ってきたが、いともたやすく胎内仏が強奪されてしまい無意味だった…。住職の目を盗み下手な芝居をして結界張るのに緊張したのに…。
──目を盗む?見つからないようにこっそりと?
もしかして代々誰かが継いでいるのか?
安倍…安倍…阿倍野……。
「そういえば、こっちでも誰かショボい結界張ってたぞ。簡単に一歩入れた」
三世は内覧会の時に悠々と結界を跨いでいた。
「大自在天像が祀られていた本堂は一般開放されていない」
「参拝客は不可能ってことか」
「今回の特別展の為に在原は堅国寺に足を運んで実際に大自在天像を見ている。住職に名刺を見せてもらった」
「本人が結界張るわけないだろ。他に心当たりは?」
「住職は年上の女性と来ていたと言っていた」
「仕事絡みだと同行していたのは藤原さんかもしれないな。彼女は在原君より年上だし」
各務は前任者が急逝したので、たまたま改修工事で休館中の和歌山県の博物館から緊急で着任しており、数年前から計画されていた特別展に関して全て把握しきっていなかった。
──やはり阿倍野…まさかとは思うが調べてみるか。
「転倒したのは確か5年前だったよな?」
「あぁ。転倒の原因はわからずじまい。わかったのは胎内仏の存在。挙句にその拍子に割れた玉眼は修理中に保管場所から無くなった」
剣がため息交じりに話す。
「その無くなった玉眼は見つかってないのか?」
「だから未だに人口水晶なんだよ。天然水晶は脆いからな」
「私、首絞めれられた時、アイツの目を見たのよ。薄気味悪かった」
宝が首を絞められたジェスチャーを交えて話す。
「その眼が見つかっていない玉眼だとでも?在原君は列車事故の直前までなんともなかったぞ。普通の目をしてた」
「でも炎は 列車事故で運ばれた時は既に無理矢理はめ込まれた感じだった。って言ってた」
「じゃあ、やっぱり無くなったやつか…」
「遺失物届オンラインでもできるんですけどね。奈良県も対応してますよ」
刑事の大耶らしい冗談ではなく本気の意見。
「目の構造…」
「構造?」
ほろ酔い気分から脱出した宝が急に何かを思い出す。
「羽黒先生にチラッと聞いたのよ。網膜震盪症の外に水晶体が脱臼してるようにも見えるって」
「羽黒?」
宝をディナーに誘った眼科の羽黒か?
小学生の子供がいるのに不謹慎な男…。
「大耶、どうかしたのか?」
剣が大耶の異変に気が付く。
「いえ。何でもありません」
「そっか」
宝が丁寧に説明する。
「像に残っているは角膜部分。つまり一番表面。次に虹彩。三世がコロコロ色を変えるやつね」
「はぁ?」
「三世、とりあえず話を聞こう。ね、ね」
煌徳が両肩を抑えて宥める。
「現在の五大明王、めっちゃ和気あいあいですね」
金兜から見た王生家。
「そう見えます?」
清隆は疑問形で返す。
「そして虹彩の次に水晶体がある。かなり前に水晶体、魂の籠った玉眼の水晶が在原の右目に埋め込まれていたのかもしれない。多分事故以前。奈良で無くなった時かも」
珍しく説得力のある話に全員が静かに聞き入る。
「羽黒先生の話だと水晶体は外傷が原因で若干元の位置からずれてたみたい。事故で打撲した時にずれたのかなぁって、言ってた」
──かなぁ?職場ではそんなに親しい話し方をしているんですね。
一字一句大耶のチエックが入る。
「それが表に出てきた。事故の衝撃で在原の意識が薄れた時に…。ずっと在原は抑えていたんだと思う。そう…五年間も…。だって強い意志の持ち主なんでしょ?」
「在原自身は本当にいい奴だと思う」
三世もフォローする。
その言葉を聞いて各務も納得していた。
「もしかして、もしかしてだけど水晶は逃げ出さないよう烏摩妃にマイクロチップみたいに埋め込まれたのかもね。あーこわっ」
「GPSみたいなものですか。そこに愛があるかは微妙ですね。ストーカー規制法で処罰したいくらいです」
常に職業を意識する大耶。
「魂が籠った玉眼…。完全に意識を支配されたってことか。でも…救いたい。必ず在原を救いたい」
三世が悔しそうな表情で拳を握る。
「現在に在原 朝臣は存在していない。きっと洞窟の恨の塊の中にいる。手遅れだよ」
剣が残酷な事実を告げる。
「寝る。おやすみ」
三世が勢いよく立ち上がる。
「さ、三世」
煌徳も立ち上がる。
「煌徳、そっとしておけ。今、降三世明王は苦悩している。わかったな」
在原を救うために必死なのはわかる。しかし今は冷静になれねば。現在が混沌の世となってしまう。
「……わかった」
三世は顔を見られるのを避けるように皆に背を向け足早に階段を上り二階に向かう。
「触らぬ神に祟りなし」
金兜の一言で一旦この場が収まる。
読んでいただきありがとうございます。
夏風邪。子供からもらいました。
究極の喉の痛み、吐き気、微熱、頭痛、下痢…。
書いていてこんなに辛いの初めて…。
美味しいのはバニラアイスだけの状況です。




