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春の章 憂来無方 4

 洞窟の秘密が明らかになる。

そして千世の意識が表に現れ意外な事実を打ち明ける。


登場人物紹介


王生いくるみ 三世さんぜ

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。

10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。

職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。



佐伯さえき 千世せんぜ

降三世明王が143年前に体を借りていた人物。

優れた能力を持つ陰陽師。

今もなお降三世明王の意識に影響を与えているようだ。



在原ありはら 朝臣ともおみ

旧姓は九条。現在は母方の姓を名乗っている。

悲運なのか不運なのか運命なのか、彼の血筋には代々運ばされている「恨」があった。

父は九条忠。元統合幕僚長。10年前に謎の死を遂げている。

母は在原高子。小笠原のとある島で療養中に行方不明になる。

大自在天に意識を支配されている。



九条 道隆みちたか

143年前、大自在天が意識を支配していたと思われる人物。

表向きは陸軍省総務局少佐。実は大日本帝国陸軍の諜報員だった。

在原の家系図を辿ると彼に行きつく。

父は 九条 幸恒こうこう。陸軍省大臣。



王生 大耶だいや

愛(現在の剣の奥さん)の連れ子。現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。

実父は警視総監の直江菱耶。



各務かがみ 恵光しげみつ

M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。

彼は現在に目覚めた恵光えこう童子。剣に仕える立場の人物である。

三世だけは「えこう」と呼んでいる。




阿達あだち 金兜かなと

王生家御用達のタクシー運転手。

正体は現在に目覚めた 阿耨達童子あのくたどうじ

星、金、キラキラしたもの好き。



王生いくるみ たから

剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。

名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。三世とは馬が合わない。

因みに男性として現れた時の名前は「たかし


「それは在原朝臣が自分の先祖が代々隠していたものを全て知ってしまったからだ」


「それ」とは143年前の明治時代、未遂とは言え九条家の当主が企てたクーデターが過去に実在したことだった。

「でも、クーデターは未遂なんですよね?史実にも残っていないなら、そんな昔の事を本人がさほど気にするようなことでもないのでは?」

大耶は些細な事だと思った。

「父方を名乗れば九条 朝臣。母方を名乗れば在原 朝臣」

剣は大耶を宥めるように静かな口調で話しを続ける。

「大自在天像の銘文の中には平安時代から結縁けちえんした九条家一族の名前が記されていた」

とうの昔から続いている縁に全員が驚いた。

「九条家の祖は確か藤原家だったような…」

各務の曖昧な記憶。

「『帰命せよ』私が堅国寺で感受したものは在原が大自在天と何かを約諾したのではなく、彼の父、九条 忠が息子を大自在天に捧げ、受け入れられた場面だったんだ。現に銘文の一番最後には九条 朝臣の名前が記されていたのをこの目で確認した」

「捧げる?何故?自分の子供だよ!大切な命だよ!」

「煌徳、冷静に」

剣が注意する。

三世は会議に参加しているが話を聞いているだけで急に物静かになっていた。

「実父の忠は九条家でも分家にあたり相続にはほど遠い順番にいた。これで天下を取り見下すことが出来ると内心思ったのだろう」

「他力本願、功名利禄こうみょうりろく。人生の成功を夢見たのでしょうか…。それは貪欲です。彼の目論みが成功するはずありませんよ」

大耶も少し興奮気味になる。

三世は少しうつむき加減で じっと話を聞いていた。

「銘文によると九条家では何百年に一度、大自在天の支配をする手助けとして最も相応しい子を捧げる。それと引き換えに九条家は絶やすことなく己の名望を永遠に継続できる構図らしい」

「使いたくない言葉ですが現代社会ではそれを生贄と言うのでしょうね」

清隆が悲しい表情を浮かべる。

「九条家にそんな秘密があるとはね。母方の在原家も何か関係しているのか?」

記録として残されている歴史上の事は勉強すればわかる。しかし、世界を揺るがす一族の闇までは知り得ない。

長年学芸員に携わってきた各務の私見だ。

「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」

剣が詠む。

「在原業平の有名な歌ですね。僕でもわかります」

清隆にも在原家をわかってもらえるよう剣が示唆する。

「平安時代末期より続く九条家の中には時に意志の強い者が生を享けることがある」

剣の話が続く。

一瞬三世の口元が開いた感じがした。

「九条 忠の妻であり朝臣の母親。旧姓、在原ありわら高子。朝臣は九条家と在原家の血統を持つ貴重な子どもだった」

「散ればこそ いとど桜は めでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき」

三世が詠み返す。

「それは詠み人知らずの返歌だな。無常の世で一体何がいつまでも変わらずに長くあり続けることができるだろうか…そのようなものなど在りはしない」

「道隆は散ってしまった…」

三世が俯いて口から空気が漏れたような小声で呟く。

()()、そろそろ話してくれないか。そうやって降三世明王の意識に潜んでいても守りたいものを守れないだろう」

──守りたいもの。

安寧秩序の世の中と現在のさくら、全ての未来を意味していた。

「大自在天が永年貯めこんだ恨の塊。あれが世に放たれれば暗黒、闇と化す。夢、希望が消滅する。奴の支配する世界へと変わってしまう」

千世の存在に気が付いた剣は語気を強め問題の核心に触れる。

三世は両手を握りしめ何かを必死に堪えているようだった。

「私が島の洞窟、奴の棲家で見たのは人間の心臓のような恨の塊だった。

その中には人間の呻く顔が見えた。恐らくそれは奴が貯めこんだ膨大な人間の恨。

一瞬だがその塊からは血管のようなものが地中に染み入り、それを伝って地上に流れ出ているように見えた。

その恨の流量が多くなると膨張し地表を揺らすのだろう。故にあの島周辺は群発地震が絶えない」

「恨の呻きは磁場をも狂わしているのか?まぁ移動基地局車があったくらいだからな。あの島に滞在していた時は電波が悪くて困ったよ。休暇の延長どうしようかと思いましたよ」

各務が一つの議題を上げる。

「大耶、そっち方面に詳しいだろ?気象庁が第一志望だったんだから。分かりやすく頼む」

──剣さん。一言多いです。雷落としますよ。

大耶の心の声。

「活断層のある場所では異常伝搬を観測することがあります」

「つまり?」

「活断層により強力な電界が発生すると、ある一定の周波数の電波はその中を飛ぶ事ができません」

「電波が飛ばない?」

「その協力な電界で電波が消えてしまうんです。つまり地上では通信障害、一時的にスマホ等が使用できなくなります。因みにこの異常伝搬を観測した前後には地震が発生するとの報告もあるようです」

全員が感心して一斉に大耶に注目する。

「あ、あの…分かりやすいように説明したつもりですが…」

「大丈夫。凄く分かりやすかった」

各務が小刻みに拍手をして絶賛する。

剣が洞窟の話に戻る。

「直江の捜査報告によると在原はありとあらゆる方面からその洞窟について調査をしていたらしいことがわかった」

「洞窟の存在を知っていたのか?地元の人でも命を落とすって言ってた場所だぞ」

各務はその洞窟が硫化水素で充満していて人間は死んでしまうと聞いていた。

「知っていたさ。大自在天の意識の時に連れられて来たのだろう」

「どうして記憶があるんだ?」

「言っただろ?時に意志の強い者が生を享けることがあると」

各務がおとなしくなったところで剣が続ける。

「今はネット社会だが、地元の資料館やかつて首長を務めていた人物の個人のお宅には世間では知られていない些細な事が記録に残っていることがある。彼は支配されつつある意識と闘いながら、必死に調べていたのだろう」

「執念だね」

金兜は話を静かに聞いて頭の中で集約していた。

「得たのはその洞窟は かつて陸軍省が銃を密造していたのではないかという情報だった。それは九条家がクーデターで政権を取るために必要な銃を大量製造する秘密工場。そして働く人間たちは大自在天にとって莫大な恨のエネルギーを貯めるための糧だった」

「利害の一致かぁ」

金兜が一言で終わらせる。

「しかし、その洞窟の入口は崩落して海からも陸からも閉塞していた。島の港湾工事をした時の地質調査報告書を直江に見せてもらったんだが、この洞窟は地元では有名な島の東側にある奇岩、通称「磁石岩」と同じもろくて崩れやすい性質の蛇紋岩だそうだ」

「蛇?」

大の蛇好きの宝がそこだけは食いつく。

「表面が蛇の鱗のような模様をしているからそう言うらしい」

「蛇紋岩土壌で栽培されたお米はミネラルが豊富な土壌で育まれたのでとても美味しいそうです」

「大耶、脱線しすぎ」

「つい…すいません」

「洞窟は火山性ガスも噴出していて危険だ。隣の島は現に立ち入ることができない」

「硫化水素、二酸化硫黄…ラドンガスの放出があるようであれば地震の前触れですね」

本筋に戻る。

「私は近い将来、恨が水脈、地脈を伝わり心臓のような本体が大自在天と共に地上に現れた時、人間は世界を譲ることになると思う」

鬼気迫る剣の表情。

一気に空気が変わる。

「わかりました。私が知っていることを話せばいいのですね」

煌徳が別人のような三世の口調に思わず腰が飛び上がる。

「もしかして…千世?いきなり現れるなんて、どういう神経してんの?」

千世が軽く叩く。

「そこは三世と変わらないんだね…」

「千世。頼む話してくれないか」

剣が頭を下げてお願いする。

俯いていた三世が顔を上げると、翡翠色の瞳に変わっていた。

髪をかき上げる右手には五芒星の痣。間違いなく千世だった。

「諜報員でもあった道隆は父であり陸軍省大臣、九条 幸恒こうこうが小笠原諸島への派遣船の船荷に紛れて火薬や罪人を大量輸送している情報を得た」

千世が重い口を開く。

剣が感じた違和感。

千世が九条の事を親しげに道隆と呼んでるように聞こえたのだ。

「道隆は陸軍省総務局少佐 の身分を隠し調査員として政府の派遣船と灯台の見回り船の役目を負った『明治丸』に乗船し海岸から断崖絶壁の一箇所に開いた洞窟を見つけた」

「それが例の洞窟か」

何故、誰も知り得ない事実を何故千世が知っているんだ?とりあえず話を聞くか。

「島に上陸した道隆は陸路から洞窟の入口を見つけた」

「当時はまだ外部との出入口があったのか」

「入口には鳥や小動物の死骸。当時は検知器といった測定するものは無かったので察するに硫化水素であったと。

間違いなくここに何かがあると確信した道隆は、恐る恐る洞窟内部に潜入した。

そこでは大量の銃、火器類が製造されていた。剣さんたちが言う明治政府討伐のために…。労働を強いられていたのは足枷や手錠をはめられていた罪人たちだった。彼らは常に恨の塊を目にしながら怯え、寡黙に作業をしていた。既に恨は地脈をめぐり地中深く入り込んで現在に至っていると思われる」

千世の口から初めて語られる真実に皆が驚愕した。

剣は千世と九条 道隆の関係に疑問を持っていた。

「ある日、洞窟内で爆発が起き双方の入口は崩落した。巨大な岩で閉ざされ、全てが封印された。故にクーデターは起こせない状況になった。史実にも残ることなく。歴史に記されることもなく。闇の中だ…」

「それで未遂だったのか」

「剣さんも見ただろ?無傷の恨の塊を…。中にあったのは加担していた研究者、働かされていた罪人の恨だろう。崩落により閉じ込められ洞窟内で死を待った人々だ。死人に口なし。とは言うが彼らは呻いていた。143年間洞窟の中で恨の塊の鼓動は止まることはなかった」

「爆発の原因は分かっているのか?」

「硫化水素は引火性が高いですし、当時は紙製の薬莢だから引火しやすかったのかもしれませんね」

大耶は偶然の可能性を説いた。

「大自在天が大量の恨を集めるのに必要だった人間たちだ。手っ取り早く貯めるなら必然の可能性が高い」

千世は逆の可能性を説く。

千世の凍てつくような視線に大耶は一瞬固まった。

「千世、何故当時の私たちに秘密にしていたんだ?」

剣が切り出す。

「……」

「怒っていないよ。143年前だってお前は私の息子だった」

「道隆との約束だったんだ。二人で解決しようって…」

「九条 道隆とはどういう関係だったんだ?」

「道隆は唯一話せる友だった。珍しい色の瞳のせいで奇異の目で見られる私に普通に接してくれた。身分の高い道隆も私と同じ境遇だったんだろう…」

「我々は道隆に隠れて桜さんと付き合っていたのかと…」

千世が思わず笑いだす。

「我々?まぁいいや。私は道隆に陰陽術を使えることを打ち明けた。何故なら彼の心の中に巣食うものが見えたからだ。すると道隆もある事を私に打ち明けた。大自在天に意識を支配されつつあると」

「まさか、あの体に書いてあった除霊の文字は…」

「私が書いた」

──千世の目が赤くなってきた。泣いてるのか?

「唯一の誤算は式神の使い方を大自在天に知られてしまい、逆手に取られてしまったことだ。現在でも頻繁に…使っているよう…だ…し…」

──話すのが辛そうだ。

剣が察する。

「千世、ありがとう。また日を改めて聞かせてもらっていいかな。三世の体がもたない」

千世が頷いて目を閉じると目尻から涙が流れた。

「うわっ」

三世の体が意識を失って煌徳にもたれ掛かる。

「重たい…」

宝は三世の体を心配していた。

やっぱりね…。脳波は異常なくても体がね…煌徳が後を継ぐのもわかる気がする。

──ちょっと待って。さくらさんは?また一人になるの?これって143年前と同じ状況じゃん。

千世の意識が現在に現れたのはもしかして桜…さくらさんを追って?

烏丸さくらさんって一体何者なの?

宝が一気に缶ビールを飲み干す。


読んでいただきありがとうございます。

やってしまいましたギックリ腰。

パソコン打つ姿勢が辛いです。もうグダグダ。

最近思う事。地震が多い。中学生は体がデカく机の下に入れない。


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