春の章 多生之縁 13
王生家の家族会議。今回は何故か清隆と炎、そして…さくらも参加の予定。
登場人物紹介
王生 三世
降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。
実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。
10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。
職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。
烏丸 さくら
MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(通称M.C.H.)の学芸員。気分転換に訪れた山中で怪我をして三世に救われる。
偶然のいたずらなのか三世と会う機会が増え、その度に心惹かれていく。
藤原 后恵
さくらと同じM.C.H.の学芸員。以前は奈良国立博物館に勤務。剣とは面識がある。
酒豪。倹約家っぽい。そして、もう一つの顔…。
茶トラ猫、ヱビスを飼っている。
(名前の由来はお酒から)
各務 恵光
M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。
彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。
三世は「えこう」と呼んでいる。
増長 勝
以前は小笠原諸島の小さな島で動物病院を経営していたが、現在はS市で個人動物病院を開院している。
彼の正体は現在に目覚めた増長天である。
10年前、三世は増長の動物病院に勤務していた経緯がある。
ホウシャガメのチチリを飼っている。
佐伯 千世
降三世明王が143年前に体を借りていた人物。
優れた能力を持つ陰陽師。
今もなお降三世明王の意識に影響を与えているようだ。
御手洗 炎
現在に目覚めた烏枢沙摩明王。143年前に現れた時も同じ消防の仕事に就いていた。見た目はガタイもよく少し怖いが家庭では家事をこなす良き夫。
妻は天野病院の売店に勤務している明子。
倉橋 清隆
現在に目覚めた制多迦童子。陰陽師、安倍晴明の血筋。それ故に式神を操れる。
宝と同じ病院に小児科医として勤務している。
折り紙が得意。
増長の四王天動物病院の診察室では三世の助けもあり大型の秋田犬の採血が無事に終わった。
「じゃあ、貰うもの貰ったんで俺 帰りますね」
検査結果取りに来ただけなのに何時間ここに居たんだろう…。
「三世君すまない。50キロ超えると腕っ節が強くないと保定するのは流石に無理だわ」
「体力が衰えてるんじゃないですか?」
「失礼だな。天寿を全うするまでチチリの為に体力作りには余念がないぞ」
増長はその場で腕と脚を曲げ伸ばし始める。
「チチリって飼っているホウシャガメの?寿命100年はあるぞ。本気で言ってんの?」
「勿論」
「まぁ頑張って」
三世は目的の検査結果を受け取ると足早に病院を後にした。
「電話、電話」
駐車場に向かいながら、さくらへ電話を掛ける。
呼び出し音はずっと鳴りっぱなしだった。
「今 仕事中だし、出るわけないか」
案の定、さくらのスマホは机の引き出しに入ったままだった。
三世が諦めて電話を切った直後だった。
「やっぱり来たか…」
『明後日 18:00 家族会議』
剣が発信した 家族のグループLINEだった。
──クリスさんは小笠原で一体何を見たんだ?ま、詳しくは剣さんの口から聞くしかないか。
スマホを持ったまま暫し考える。
「一応聞いてみるか」
三世が素早くLINEに打ち込む。
「よし」
直ぐに既読になった。
「早っ」
剣からの返事は簡潔に二文字。「OK」とのことだった。
「さくらには後でもう一度電話するか」
三世が大きなため息をつく。
「千世、これでいいのか?」
降三世明王が意識の中にいる千世に話しかける。
「千世も知りたいんだろ?143年前から現在に至るまでの烏丸家の歴史を…」
右手にくっきり五芒星が現れる。
「答えはYESか。煌徳にも連絡しておかないとな」
M.C.H.では午後の上映会が無事終了した。
「烏丸さん、助かりましたよ。出張ですっかり今日の上映の事を忘れてしまって」
「いいえ。館長、間に合って良かったですね」
館長や他のスタッフもいたから良かったけど、本当はこの音響ルーム入りたくなかったんだよね。
だって主査と二人っきりになった時の出来事を思い出してしまう。それから前を通るのも避けていたのに…。
「ウィーヴプロジェクトの紹介映像は勉強になっただろ?」
「はい。絵画の修復技法には驚くことばかりでした」
「技術もさることながら、歴史的価値、作者が作品に込めた想いを感じて作業を進めていくんだよ」
胸に手を当て一人感動に浸る各務。
「かけがえのない美しい作品ですからね」
ウィーヴプロジェクトに携わるなんて夢のまた夢だよなぁ…。三世さんに知識で負けているようじゃね…。先ずは歴史の勉強から始めないと。
「さ、機嫌の悪い藤原さんのお手伝いに行きますか」
「今頃行って大丈夫でしょうか?」
「行かないよりは行った方がいいと思わないか?」
「そうですね。何としても10時には間に合わせないと」
「10時?」
仕事が終わったスタッフから順に音響ルームから退室する。
最後に出た各務がドアノブにかけれられた見覚えのない札に気が付く。
"入室しないでください"
──こんなのあったっけ?
各務は札に触れた瞬間、掛けてある理由に気が付く。
「これは!?」
さくらが事務室に戻ると藤原は何人たりとも寄せ付けないオーラを出しながらパソコンに向かっていた。
さくらは気を遣って小さな声で話しかける。
「藤原先輩、お疲れ様です」
「お疲れ様。電話来てたみたいだよ」
パソコンから目を離さず、キーボードを打つ手を止めず伝える。
「え?」
自分の椅子に静かに座り、引き出しを開けてスマホを確認する。
あっ三世さんからだ。
「チョットすいません」
直ぐに席を立ち電話を掛けに廊下に出る。
「彼氏からか…」
「藤原さん。お疲れ。音響ルームで何かあったの?」
えっ?館長いたの?全く気配を感じなかったんだけど。
仕事に集中しすぎたのかしら。
「何のことですか?」
各務はパソコン画面を遮るように藤原の目の前に札をちらつかせる。
「音響ルームのドアノブに掛けてあった。これ、札に見えるけど霊符だと思うんだよね」
「館長!メール送ったので直ぐ確認して電子決済お願いします。今日の17時期限なんで早く!」
藤原は各務の質問には答えなかった。
「は、はい」
完全に自分押されてる。一応上司なんですけど…。
取り敢えず今日は早く上がれるように協力してあげるか。
さくらは廊下で三世に電話を掛けていた。
「もしもし。三世さん、すいません出られなくて」
「いや、仕事中ごめん。今日は何もなかったか?」
「何も?」
「あーごめん。訂正。忙しかったか?」
「今日から館長が来ているので、午後からは滞っていたお仕事の手伝いをしていました」
──館長が。
「館長も」とは答えていないから在原は来てなさそうだな。
安心した。
もしかして恵光の奴、さくらを護ってくれていたのか?
「お疲れ様。急なんだけどさ明後日の夜、家来れる?」
さくらの顔がほころぶ。
「えっ?は、はい。突然どうしたんですか?」
「兄が休みでいるらしいから紹介するよ」
家族会議の日だから絶対家にいるだろう。
「頑張って仕事終わらせますね」
三世さん覚えててくれたんだ。
「じゃあ18時に迎えに行く」
「お願いします」
通話が終わる。
「一応大耶にもさくらが来ること連絡しておくか。おもてなしの料理作りたそうだったし」
明後日になった。
王生家のリビングルームには大耶が作ったと思われる豪勢な夕食が用意されていた。
「温泉旅行に来たみたいですね。夕食バイキングかと思いましたよ」
清隆は剣にT市総合病院の医師、"東 春世"に関する報告をするため、家族ではないが王生家の会議に参加していた。
「今日はお休みを頂いて朝から仕込んでいました」
珍しく大耶がエプロンを着けている。相当気合が入っているようだ。
「何で家族会議に清隆がいるの?」
宝はどこか釈然としない様子。
「剣さんに話があるんです」
「最近二人でこそこそ何か調べているみたいだったしね」
「こそこそじゃありません。正式な依頼です」
「T市総合病院への出向辞令も父さんが仕組んだんでしょうね」
「家族なんだから言わずともわかるでしょうに。今日は一応その報告も兼ねてここに来ているんです」
「で、三世に似てた?どっちがイケメン?独身?」
「あのですね…」
インターホンが鳴る。
宝と清隆のラリーが途切れる。
「多分、炎です」
大耶が側にある子機で応答するが、炎がデカくてモニターに映っているのは首の部分だった。
「御手洗です」
「どうぞ」
玄関ドアを解錠する。
「お邪魔します」
炎が賑わっているリビングルームに頭をぶつけないよう慎重に入って来る。
「こんばんは。大耶、これお土産です。明子から持たされました」
「ありがとうございます」
持って来た紙袋の中には白い箱が入っていた。
「あんみつだそうです。こしあんがトッピングされているのは宝さんの分です」
「気を遣って頂いて申し訳ない」
「このお店あんみつの専門店らしいです。私も明子も大の甘党ですから」
「気が合うんですね」
「夫婦ですから」
無表情のまま一瞬下を向く。照れている顔を見られたくなかったらしい。
「明子から聞いたんですけど、宝さんは 随分とこしあんへのこだわりがあるんですね」
「こしあんは平安時代からあったんですよ。当時の仁明天皇時代に我々五大明王が目覚めた時です。当時の宝、いや軍荼利明王には衝撃的な甘味だったんでしょうね。今で言うスイーツ男子ですかね…。以来現れる時は6月16日と決まってますから」
理由を説明できるのは恐らく大耶くらいだろう。
「6月16日?」
「和菓子の日です。因みに私は4月22日です。もう過ぎてしまいましたが」
「何か意味があるんですか?」
「ダイヤの原石の日です」
「なるほど」
炎が納得したところで三世の気配を感じないことに気が付く。
「ところで三世さんは?煌徳君の車は玄関前にあったけど」
「彼女を迎えに行った」
宝がビール片手に答える。
「彼女いたんですか?」
炎が目を丸くして驚く。
「え゛ぇぇぇ彼女??????」
清隆はどこから出しているのか突拍子もない声を出して驚く。
「別にいいじゃん。見かけは28歳、イケメンだからいつでもモテ期だし」
「そういう問題では…」
炎は遠慮気味に否定する。
「そういう宝さんは33歳でしたっけ?結婚適齢期過ぎたんじゃ…」
清隆は真っ向から宝に意見する。
既に缶ビール1本飲み干した宝が鋭い眼光を二人に向ける。
縮こまる大の大人二人。
「宝、これ明子さんから。あんみつです」
大耶が機転を利かせてこの場を収めようとする。
「これ、私が食べたかったあんみつ屋さんのじゃない?」
宝の機嫌がコロッと良くなったと思いきや、
「ところで大耶、スイーツ男子って?」
さり気に痛い所を付いてくる。
「す、すいません。スイーツ女王でしたね」
「今はね」
「ははは…」
大耶の引きつった笑い。
「ねぇ家族会議なのに何でこんなに豪勢な夕食なの?何かあったの?」
「アスパラが旬なので、ちょっと直売所巡りをしていたら買い過ぎてしまいまして」
さくらさんへのおもてなしとは言いづらい…。
三世から電話があってついつい気合が入ってしまった。
「そうだ宝。これ、菊芋を使ったサラダです。道の駅で見つけて買ってみました」
お皿には千切りにして外の野菜と和えた彩りキレイなサラダが盛り付けてあった。
「大耶…。やっぱ好き」
「もう酔ってるんですか?サラダにはNF町のミニトマトドレッシングがお勧めです」
「かけてかけて」
炎と清隆の目には二人は恋人か夫婦にしか見えなかった。
「この二人の関係が一番よくわからない…」
炎が聞こえないように呟く。
「ですね」
小さな声で清隆も同意する。
ウィーヴプロジェクト…主に特別展覧会の開催や文化財修理に力を入れているプロジェクト。剣は主力メンバーでもある。
読んでいただきありがとうございます。
書いてはいませんが炎は11月19日に現在に目覚める設定。
世界トイレの日だそうです。(烏枢沙摩明王はトイレの仏様として祀られています)
春の章 乾坤一擲 3 で三世が仁明天皇に触れてます。
丁度この時代に五大明王が目覚めていたのですらすら説明しています。




