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春の章 多生之縁 12

 煌徳は大学で白石が行方不明になっていることを聞かされる。

一つの憶測。いや、強ち事実。

白石が撮影した写真がそれを裏付けていた。



登場人物紹介



王生いくるみ 煌徳あきのり

剣と愛の実子。現在に目覚めた大威徳明王。現在酪農大学の学生で三世の跡を継ごうと獣医師を目指している。愛くるしい顔をしているが怒ると家族の中では一番怖い。




王生いくるみ 三世さんぜ

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。

実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。

10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。

職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。



佐伯さえき 千世せんぜ

降三世明王が143年前に体を借りていた人物。

優れた能力を持つ陰陽師。

今もなお降三世明王の意識に影響を与えているようだ。



増長ますなが まさる

以前は小笠原諸島の小さな島で動物病院を経営していたが、現在はS市で個人動物病院を開院している。

彼の正体は現在に目覚めた増長天である。

10年前、三世は増長の動物病院に勤務していた経緯がある。



各務かがみ 恵光しげみつ

M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。

彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。



藤原 后恵きみえ

さくらと同じM.C.H.の学芸員。以前は奈良国立博物館に勤務。剣とは面識がある。

酒豪。倹約家っぽい。そして、もう一つの顔…。

茶トラ猫、ヱビスを飼っている。

(名前の由来はお酒から)



烏丸からすま さくら

MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(通称M.C.H.)の学芸員。気分転換に訪れた山中で怪我をして三世に救われる。

偶然のいたずらなのか三世と会う機会が増え、その度に心惹かれていく。


E酪農大学 教育、研究のための牛舎。

「おはようございます」

煌徳が日課になっている牛舎の水槽の清掃に来た。

「おい、煌徳。聞いたか?白石の件」

同期の南郷が神妙な顔つきで話しかける。

「白石さんがどうかしたんですか?確か今日帰って来るんだったよね」

「それが…彼女、行方不明なんだよ」

「行方不明?」

電波が悪いって言ってたから連絡が来ないだけだと思ってた。

「王生君、ニュース見てないの?」

同じく同期の美園もどこか落ち着かない様子。

「白石たち調査員が乗っていた東京行きのフェリーの乗客1名が行方不明。それが彼女らしいんだよ」

南郷が説明する。

「事件か事故かまだわからないって」

美園は今にも泣きそうな声だった。

「事件か事故か…」

行方不明になったのは島を出てからか…。

煌徳が慌ててスマホを確認する。

「あっ」

白石さんからLINEが来てた。

『月曜から大学に行きます。お土産に星の砂を買いました。願いが叶うといいな♡』

──星砂…幸せ…願いが叶う…。

「ごめん。LINE来てたの気がつかなかった…」

煌徳は指でスクロールし送られてきた写真に戻る。

「……何で!?」

煌徳の声は少し震えていた。

──在原あいつが写真の中から消えてる…存在していない!?

そこに写っていたのはかなたに飛んでいる小さな黒いアホウドリだけだった。

間違いなくここに写っていたのに…。

もしかして大自在天が今までの在原あいつの存在を完全に消しにかかっているのか?

そして、満を持して大自在天として現在に君臨するつもりなのか?

その野望のために自分と自分に関わった全ての人間をこの世から消すつもりじゃ……。

──ということは、烏丸さくらさんも命を奪われる可能性が……。

早く三世に知らせないと!

「ごめん、南郷、水槽洗っておいて」

「えっ?あ、煌徳?」

煌徳は血相を変えて牛舎の外に出る。

「王生君どうしたんだろう」

取り残された南郷と美園は煌徳の慌てた様子が気になった。


煌徳は早足で歩きながら三世に電話をかける。

「三世?今どこ?電話に出て!」


三世は増長の四王天しおうてん動物病院に用事があり訪れていた。

「増長先生ごめん。煌徳から電話だ」

三世が一旦席を外す。

「煌徳、どうした?」

「さくらさん、烏丸さくらさんの安否を今すぐ確認できる?」

「いきなり何だよ」

煌徳、最近テンパること多いな。勉強し過ぎてストレス溜まってるのか?

煌徳はつばを飲み込み、一呼吸おいて話し出す。

「在原の…大自在天の写真を撮った後輩が行方不明になった」

「は?写真?どういうことだ?」

「たまたま後輩が撮った写真に在原…大自在天が写ってしまったんだ。だから彼女が…その…奴に殺されたんじゃないかって」

「煌徳、心落ち着け。整えろ」

煌徳は早足を止め一歩一歩ゆっくりと歩く。

三世が続ける。

「安、心、立、命」

煌徳が言葉に合わせて大きく深呼吸をする。

「スーッ   ハー」

吸って、止めて、吐く。

「どうだ、落ち着いたか?」

「うん。三世、ありがとう」

三世も息を吐き胸をなでおろす。

「話せよ」

「大自在天は人間の在原の存在を消してる。間違いなく在原あいつが写った写真を見たのに、今それを見たら姿が写っていないんだ」

「で、その写真を撮った彼女が行方不明…奴に消された可能性があると」

「うん。彼女はこの世から消された…と思う」

写真の中の自分だけじゃなく、何故彼女まで?

「彼女と大自在天の接点が分からない。彼女はどこで消息を絶ったんだ?」

「小笠原から本土に向かっているフェリー」

──小笠原?

剣さんとクリスさんなら何か掴んでいるかもしれないな。

今日あたり家族会議招集されそうだし。その時に聞いてみるか。

「在原じゃない、大自在天と関わったさくらさんも危ない!」

「……」

後をつけられたりはしていたが、一度も命の危険を感じたことはなかったぞ。

一つの可能性として考えられるのは、かろうじて人間である在原の本来の意識が 、さくらに危害を加えないよう守っているのでないかという事。

以前さくらは在原に憧れていたって話していた。もしかして在原も…さくらのことを?

奴にとってさくらは大学の後輩、職場の同僚だけじゃなかったのかもしれない。

「おい、千世。俺の心の声 聞いてただろ?」

三世の右手に薄っすら五芒星の痣が浮かんできた。

「さくらが瑪瑙のピアスを付けている間は大丈夫だよな?お前、初対面であのピアスに触れた時、こっそり九字の護身法を唱えていただろ?」

五芒星がはっきりと浮き出てきた。

「答えはYESか」

──一応さくらに電話してみるか。

「三世、さっきから誰と話しているの?」

僕、何か取り残された感が否めないんだけど。

「えっ?えっと…」

「おーい三世君、ちょっと手伝って。重い、重い!」

増長の呼ぶ声が遠くで聞こえる。

「三世、今どこにいるの?」

四王天しおうてん動物病院。い、いま、その…増長先生と話してたんだ」

「三世君、保定!早く!」

「連絡サンキュ。多分 待合室にいた秋田犬の採血だ。ごめん。切るぞ」

俺、検査結果取りに来ただけなんだけど、気がついたらずっと看護師やってる…。

二人の通話がここで終わる。

「三世、僕の聴覚で聞こえないものはないからね」

煌徳がぽつりと言う。

間違いない。千世が生きてる。降三世明王の意識の中で…。

そして、さくらさんを護ってる。

烏丸からすまさくら…烏丸からすまる桜…。

千世は現在、彼からしたら143年後の未来。さくらさんとの出会いを予知していたのかも…。

という事は、やっぱりどこかで血が繋がっているのかな?

──それはそうと、在原、いや大自在天。その罪は重いぞ。

温厚な僕もそろそろ限界。

激昂スレスレ。

抑えろ。抑えろ。抑えろ。静まれ。静まれ。静まれ。

煌徳が怒りを静める6秒ルールを唱える。

「よし。顔、怒ってないかな?いつも通リの優しい顔かな?念のためトイレで確認してこよう」



M.C.H.の奥の雑木林がざわついている。

鳥たちは何かを感知したのか落ち着かない様子だ。

建物内まで鳥の鳴き声が聞こえてくる。

──鳥たちが騒いでいる。今日も明日も天気予報は晴れ。降水確率はゼロ。餌の蟻塚は既に駆除した。

「求愛?それとも何かの前触れ?」

藤原はM.C.H.のエントランスの窓から外を見つめる。

「不穏な印象…。求愛ではなさそうね」

事務室に戻ろうとエントランスを背にした時だった。

「藤原先輩。ここにいたんですか?文化庁から書類の提出期限が迫っているって電話が来てましたよ」

どうやら さくらは藤原を探していたようだった。

「さくらさん。丁度いいところに来た」

「え?」

「今猫の手も借りたい気分なのよ。忙しいのは分かっているんだけど、絶対10時までには帰りたいの。お願い、手伝って」

藤原が手を合わせてお願いする。

「いいですよ。何をお手伝いしたらいいですか?」

10時に何か意味があるのかな???

「烏丸さん」

久々に聞いた館長の声。

「館長、出張お疲れ様です」

「ただいま」

上司であることはさておいて、藤原は間もなく提出期限を向かえる申請書類を溜めこみ、残業の要因である張本人をジロジロ見る。

「館長、日焼けしてませんか?」

いきなり意表を突く質問。

「え?そうかな?もともと地黒だよ」

「出張どこでしたっけ?」

今日の藤原は とことん追及。詰め寄る。締め上げる…。

「と、東京だけど」

小笠原諸島も間違いなく東京だよなぁ…。

「そういえば昨日のニュースで東京が梅雨入りしたって言ってました。日焼けするような天気じゃないですよね」

「紫外線が強かったのかも」

「皮がむけ始めるのは紫外線を浴びて3~4日」

執念すら感じる藤原の質問攻めに遭う各務。

「因みに東京都の3~4日前の天気はずっとぐずついてました」

スマホの画面を印籠のように各務の目の前に差し出す。

『雨、降水確率100%。曇り一時雨、降水確率60%。曇り時々雨、降水確率70%』

どうしたんだ?今日の藤原はいつもと違うぞ。

思わず見せつけられたスマホ画面から顔ごと逸らす。

「か、烏丸さん、至急手伝って欲しいんだけど」

「あ、はい」

どうしよう…。部下なのに名前を呼ぶのも少し怖い。

「ふ、藤原さん」

「はい」

ダメだ…完全に声が怒ってる。目も怖いって。

「い、王生学芸員からお土産預かっていたんだ。はい、これ」

渡されたのは2本の瓶。

貼られているラベルには『小笠原 島 レモン チューハイ』 

「……」

「ちゃんと酒豪…お酒好きなの覚えていたんだね」

ヤバい。言葉には気を付けないと更に機嫌を損ねてしまう。

『小笠原 島 レモン チューハイ』

「確かに東京土産ですね」

「はははははは」

なるほど。王生さんに同行していたのね。

付き従っていた…。その方がしっくりくるかしら。

小笠原に行った目的は何?主査と何か関係が?

そういえば最近海底火山の噴火があったわね。

何かの予兆?

「じゃあ烏丸さん。講堂で午後から上映会をやるからその手伝いを」

「はい」

各務とさくらが申し訳なさそうにその場を後にする。

「今日も遅くなりそうね…今日は35缶の代わりに、このチューハイにしよう」

アルコール度数8%

「楽勝、楽勝」


読んでいただきありがとうございます。

長かった16日間が終わった。(主人のゴールデンウイーク(笑))

疲労困憊。

夜寝してました…。


藤原の登場人物紹介 加筆しました。彼女にも何か秘密があるかもです。

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