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春の章 多生之縁 9

 剣の裏工作?それとも偶然?倉橋は辞令が出たT市総合病院の

あずま 春世 という医者に接触する使命を帯びた。

そこで彼の調査を開始する。


登場人物紹介


王生いくるみ 三世さんぜ

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。

実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。

10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。

職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。



王生 大耶だいや

愛の連れ子。現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。

実父は警視総監の直江菱耶。



倉橋 清隆きよたか

現在に目覚めた制多迦童子。陰陽師、安倍晴明の血筋。それ故に式神を操れる。

宝と同じ病院に小児科医として勤務している。

折り紙が得意。



あづま 春世はるとし

T市総合病院の消化器外科の医師。

三世に雰囲気が似ている。



大内 美桜みお

D市立小学校の6年生。色覚異常で赤と緑が茶色に見える。

以前、社会見学で三世に色彩美の世界を体感させてもらう。

T市総合病院に通院している。


 三世がさくらを自宅まで送って帰宅した。

車庫を開けると何故か大耶の車があった。

「何で大耶が居るんだ?仕事は?」

車庫入れが終わると重たい足取りで玄関に向かう。

「はぁ~さくらと食事した事、聞かれるの面倒だなぁ…」

三世は暫く玄関ドアの前に立ち、顔を伏せていた。

王生家の玄関ドアは顔認証システムなので下を向いたままでは当然開かない。

その時、玄関ドアが解錠された音がした。

三世が反射的に一歩下がる。

「あっ、三世。おかえり」

「た、ただいま」

大耶が私服に着替えて丁度外出するところだった。

「大耶、仕事は?」

「午後から休みを取りました。明日の夜、剣さんが帰って来るから食材を買いに行かないと」

大耶は手にマイカゴを2個持っていた。

「ご苦労様」

そんなんで休み取ったのか?まぁいいや。根掘り葉掘り聞かれなくて済むし。

願わくば少し疲れたので仮眠したい。早く出かけてくれ。

「三世、デートはどうでした?」

「デートじゃないから。これ、お土産」

三世が大耶に小さな手提げの紙袋を見せる。

「何ですか?」

大耶が袋の中を覗き込む。

「キッシュ。さくらが美味しそうに食べてたからテイクアウトしてきた」

「ありがとう。帰って来たら頂くよ。ダイニングテーブルの上に置いといてください」

「OK」

"さくら"さんね…。

詳しくは聞きませんが、三世の様子を見る限り、お付き合いは()()()()()順調のようですね。

「さくらに一応兄がいるって言ったら、見てみたいだってさ」

「私も会ってみたいですね。連れて来る日が決まったら教えて下さい。おもてなしの料理を作らないと。アスパラが旬ですから肉巻きとか天ぷらとか」

「気が早いって…」

──料理上手な刑事デカ。しかも細マッチョ。いや中太かも…。

「買い物のあと、宝を迎えに行って帰ってきます。18時前には帰りますから」

「了解」

──あの二人夫婦みたいだな。



剣から清隆に連絡が来たのはT市総合病院出向初日の前々日。早朝5時。

しかも文の出だしは弁解から。

『すまない。電波が繋がりにくくて連絡が遅れた』

本当かどうかわかりませんがよくある理由ですね…。

『T市総合病院の"東 春世"という医師とコンタクトをとって欲しい』

もう少し具体的に説明して欲しいんですけど。

恐らく剣さんの裏工作…依頼とは言え、片道70キロの通勤は遠すぎますよ。

まぁ高速代もでることですし、いいっちゃいいんですけど。

『頼りにしている』

「それはそれは、ありがとうございます」

スマホに向かって頭を下げ礼を言う。

剣さん、勝手に意思疎通してると思ってますね。

"東 春世"…。はるせ?はるよ?あれ?今気が付いた。名前に"世"が入ってる…。

「何となくわかりました。三か月間入念に調べればいいんですね」


そして、

T市総合病院 出向初日。

午前8時50分。約束の時間の10分前。

「高速使って1時間もかからなかったな。だけど帰りは疲れて運転の自信がない…しかも高速乗ったの何年ぶりだろう」

清隆が院内に入ると自動受付機には既に多くの人が並んでいた。

──この管内では中核を担っている病院ですからね。しかも今日は月曜日。

受付横の施設・病棟案内のパネルを眺める。

一階、二階、三階、四階、五階…流石に院長室は書いてないか。受付で聞いてみよう。

「すいません。天野病院から来た医師の倉橋と言います。9時に院長とお会いする約束をしているのですが」

「少々お待ちください」

受付で直ぐに確認してくれた。

「すぐ横のエレベーターを上って二階になります。降りて右にお進みください。突き当りを左に曲がると院長室がございます」

清隆が吹き抜けの天井を見上げ院長室の方向に目を向ける。

「倉橋様、院長には来訪をお伝えしましたのでインターホンを鳴らしてお入り下さい」

「ありがとうございます」

早速エレベーターに乗り二階へ上がる。

右に曲がって、突き当りを左っと。

「ここか」

少し緊張してインターホンを鳴らす。

「はい」

中から応答があった。

「天野病院から来ました倉橋と申します」

「どうぞお入りください」

「失礼します」

ドアを開けると、応接用の椅子の前に立って出迎えてくれたのは白衣を着て眼鏡を掛けた背の高い医師だった。

動線の奥にある重厚感のある机に座っていた院長がゆっくりと立ち上がり挨拶をする。

「この度はご協力いただきありがとうございます。院長の神田です」

「消化器外科所属のあずまです」

──あずま

「天野病院から来ました小児科医の倉橋 清隆きよたかと申します」

前傾約30度の会釈をする。案外きちっとしている清隆。

上体を起こした時に目に入った胸ポケットの名札に書かれていたのは、

『消化器外科 あずま 春世』

もしかして、いきなり本人!?ひがしじゃなくあずまって読むんだ。名前は春世…。

残念。フリガナがふってない。

「院長、今回のご縁は以前リモート会議でご協力をお願いしていたところ、天野病院の王生先生から唯一ご連絡をいただきまして」

ははは…親子でグル?

「小児科の医師が産休に入りましてね。倉橋先生には三か月ほど週2回、外来診療を担当して頂けますでしょうか」

「はい。お引き受けいたします」

快諾に院長もほっと肩をなでおろす。

「では、水曜日からよろしくお願いします。倉橋先生」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「東先生、病院内を案内してもらっていいかな」

「かしこまりました」

清隆がさり気に横顔をチエックする。

年は三世君と同じくらいか少し上かな。

髪型は違うけど何となく雰囲気が三世君に似ているような気が…。

三世君は確か今はツーブロックだっけ?東先生は医者だけにナチュラルだよね。

気になるのは何故色付きの眼鏡をかけているのか…。

二人は院長室を出て二階のフロアを歩きだす。

──おや?

清隆は直ぐに気が付いた。

エスカレーターの辺りからずっと車椅子の患者さんが後ろについてくるけど、同じ方向なのかな?

でもこの先は小児科、産婦人科、眼科、皮膚科しかないはず。

しばらくはこのままで。

「失礼ですが、色付きの眼鏡をしているのには何か理由が?」

「医者なのにって思ってます?カラーコンタクトの時もありますが眼鏡の方が楽なんです。コンタクトだと洗う時間がなくて」

東が眼鏡を少し下げる。

「オッドアイなんです。好奇な眼で見らるので…」

「そうでしたか」

透明感のある褐色と青緑。珍しい組合わせだな。今の三世君と昔の千世さんを足して2で割った感じ。

だけど近くで見れば見るほど三世君に似てるなぁ。

二人は二階で一番広い小児科の待合スペースの横を歩いていた。

待合の席は既に埋まっていた。

ベビーカーに乗った赤ちゃんをあやすお母さんの姿もある。

「ここの小児科の体制は?」

清隆が質問する。

「この管内でも病院の規模は大きいんですが小児科医は2名しかいないので入院となると もう一つの基幹病院になります」

「私の病院は外来3名、病棟2名、心臓外来1名の6人体制ですがそれでもギリギリです」

「課題は色々ありますよね」

「その通りです」


「東先生。おはようございます」

会話が途切れたタイミングで車椅子に乗った患者さんが後ろから挨拶をしてきた。

「おはようございます。今日の調子はどうですか」

東が優しく問いかける。

「ちょっとお腹の調子が…」

抗がん剤の影響か…。

「お手洗いの回数と症状はちゃんとチエック表に書いていますか?」

「あぁ一応」

曖昧な返事。恐らく記入していないな…。

「脱水症状はありませんか?」

「少し乾いているかも」

正直に話していない。そこの自販機で飲料を2本買って手に持っているじゃないか。

「後で病室に伺いますね」

「東先生、ありがとうございます」

清隆には分かった。

なるほど。一刻も早く自分の病状を東先生に診てほしかったのだろう。

察するに不安を感じる病。

「今の患者さん、化学療法を行っているんですね」

清隆は後ろ姿を見守っていた。

「えぇ」

冷静沈着。表情を変えない。流石というべきだろうか。

「あの患者さんは私でないと口も心も開いてくれなくて…」

パニック発作にならないよう細心の注意を払わないとならない患者さんか。

「わかります。病棟の子供たちも心を開くまで時間がかかりますから」

「そうですね」

「私は得意の折り紙でアニメのキャラクターや動物、恐竜を折って話すきっかけを作ることからスタートしています」

「折り紙ですか?」

「子供たちの名前を書いて、一人一人に元気になれるメッセージを添えてプレゼントもしています。私は勝手にお守りみたいな物だと思っていますけど」

「倉橋先生、子供たちにモテそうですね」

「ははは。ところで先生のお名前はあずま 春…、 何とお読みするんですか?」

「"はるとし"です。なかなか読めませんよね」

「"はるせ"か"はるよ"かと思いました」

"世"を敢えて読みづらくしているのか?

それとも"世"を意図的に隠してる?

そうだ。どこかに五芒星の痣はないかな。

手とか見えるところにあればいいんだけれど…。

「どうかしましたか?」

「い、いえ」

「今いる二階フロアには小児科、産婦人科、眼科、皮膚科と透析室があります」

産婦人科の待合の前を通り過ぎる。

「分娩できる病院も少なくなってきているので当病院は重要な役割を担っています」

確かに天野病院にも近郊の市町村から妊婦さんがいっぱい来ているもんなぁ。分娩予約も常に埋まっている状態だし。

「先生にはご家族がいらっしゃいますか?」

清隆の唐突の質問にも東は動じることなく答える。

「まだ独身です。運命の女性にまだ巡り合っていないみたいで」

「実は僕も独身でして。仕事が忙しいのを理由にしています」

「同じですね」

運命の女性?何だろう…何か引っ掛かるんだけど…。



フロアを一周して眼科の待合の横を通る。

「当病院には小児眼科の医師が在籍してます」

「珍しいですね」

「眼科は最新の白内障手術用機器を導入していて日帰りの白内障手術もできます」

「なるほど」


眼科の待合のモニターに『39』の番号が表示される。

「受付番号39番の方、診察室へどうぞ」

受付番号39番の紙を手に持った女の子が側を歩いている東に気が付く。

「あっ!」

三世さんに似てる先生だ。名前わからないけど…。

やっぱりそっくりだよね…。三世さんを見てから私の中でイケメン度確実にアップしてるんだよね。

一緒にいるのは新しい先生かな?

優しそうな感じの先生だけど、うーん…イケメンじゃない。残念。

「美桜、早く!呼ばれたわよ」

「はーい」



午後17時45分

18時前に大耶と宝が帰宅。

「ただいまー!」

宝が玄関から大声で叫ぶ。

いるはずの三世から返事がない。

「疲れていたみたいだし寝てるんじゃないですか?」

「何でデートで疲れるの?」

「気を使うんですよ。迂闊に言えないこともあるし。もしくは告白するのに全てを出し切ったとか」

「なるほど」

宝のお腹が鳴る。

「胃の収縮運動が…」

「夕飯ができるまで時間がありますから三世が買って来たキッシュを食べてて下さい」

「え?キス?三世もうキスまでしたの?」

「してません。キッシュです。タルト型のパイ生地の中に卵、生クリーム、ベーコンやほうれん草を入れてオーブンで焼いたフランスの郷土料理です。宝も疲れてますね…」

「説明聞いて余計疲れた…着替えてくる」

宝が急いでリビングの階段を駆け上がり二階に上がる。

三世の部屋の前で一度止まる。

「匂う…」

最近お香きつくない?廊下まで香りがするんだけど。

やっぱり何かを隠してる?

「……」

さくらさんとの事もあるし、しばらくは気づかないふりをした方がいいのかな…。

中にいるのは恐らく三世でも千世でもなく、降三世明王…。

宝のお腹が再び鳴る。

──何でこんな時に鳴るかなぁ。

一瞬暗い部屋の中で 紅い光が灯る。


読んでいただきありがとうございます。

桜の開花宣言が昨日出ました。

早いです。例年だとゴールデンウイーク直前なのに…。

この小説の舞台も5月前後なんですけど…。


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