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春の章 多生之縁 8

 三世とさくらの楽しいひと時。

のはずが、三世にとっては緊張の連続。

突然千世の意識が現れ動揺してしまう。


登場人物紹介


王生いくるみ 三世さんぜ

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。

実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。

10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。

職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。



烏丸からすま さくら

MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(通称M.C.H.)の学芸員。気分転換に訪れた山中で怪我をして三世に救われる。

偶然のいたずらなのか三世と会う機会が増え、その度に心惹かれていく。



クリスさん

王生家で飼っている白毛のアイヌ犬。三世のお目付け役でもある。

ベアドッグ、セラピードッグ、レスキュードッグ、医療アラート犬。

正体は俱利伽羅竜王。

143年前は剣の愛馬として登場。



王生いくるみ けん  

王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。

職業は仏像学芸員。



各務かがみ 恵光しげみつ

M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。

彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。



直江なおえ 菱耶りょうや

大耶の実父(現在の剣の妻、愛の元夫)。警視総監。

何故か剣の良き理解者。


 楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。

三世とさくらは食事も終わり一息ついていた。

──クリスさん無事に着いたかな?

剣さんに送ったLINEは既読になっているけど、電波の影響なのか返事がまだ来ない。

「三世さん、どうかしました?ずっと空見てますけど」

「あぁ…何でもない。いい天気だなぁと思って」

クリスさんなら大丈夫だろう。

逆に久々に本来の姿になって調子に乗りすぎないといいけど。火炎の弾ぶっ飛ばして口の中火傷しないかそっちが心配だ。

「私、食後にケーキ頼んでもいいですか?」

「え?さくら、まだ食べるの?」

「別腹です」

三世がさくらを見て微笑む。

「笑わないでくださいよ」

三世は口を噤んで堪える。

「すいません。注文お願いします」

店員さんを呼ぶのも二回目は緊張しなかった。

「今 お伺いします」

同時にドアベルが鳴る。

奏でていたのは真鍮製のレトロな番犬のベルだった。

お店のこだわりだろう。

年配のご夫婦と可愛い真っ白なトイプードルが一緒にご来店。

「いらっしゃいませ。今 お席にご案内致します」

さくらが店内を見回すと平日にもかかわらず、ほとんどの席が埋まっていた。

愛犬と一緒に食事ができるカフェって数少ないしね。

今度はクリスさんも絶対連れてきてあげよう。

犬用のメニューもあったし。喜んでくれるかな?

「ご注文はお決まりですか?」

「Y町産のブルーベリーソースがかかったチーズケーキをお願いします」

さくらが目を輝かせて注文する。

「俺はコーヒーをもう一杯。今度はホットで」

「はい。かしこまりました」

何故かさくらが三世から目を離さない。

「今、『本当に食べるんだ』って思ったでしょ」

「え?」

「三世さんだって私が心の中で思っていることわかるでしょ?」

嘘?嘘?バレてる?冗談…だよな。自分でも気を付けていたつもりなのに…。

「さくらの事なら聞かなくてもわかるよ」

やばっ。思わず口走った。流石に今のはカッコつけすぎだろ。自分で言っておいて段々恥ずかしくなってきた。

さくらはそんな三世の心情を察することなく、真剣な顔で話す三世の言葉を聞いて素直に嬉しく思っていた。

三世さんってもしかして私のこと…そ、それって相思相愛?何でその四字熟語が浮かぶの?ということは私も三世さんのこと…ダメダメ。今、心の中で思っちゃダメー!

勝手に想像してすいません!

衝動的に軽くお辞儀をする。

「じょ…冗談です」

「???何が?」

さくら、今、何を思ってたんだ?

「な、なんでもないです」

良かった…。三世さんに読まれてない。

暫しの沈黙。

三世の頭の中は手詰まり状態だった。

ケーキが来るまでこのシチュエーションは流石に辛い。

何とか間を持たせないと。

とは言え会話は慎重に。

「知ってる?別腹って本当にあるんだよ」

「え?デザート用の別のお腹ですか?」

さくらがさりげなくお腹に手を当てる。

三世はそれに気が付き、思わず声をあげて笑ってしまう。

「三世さん。シーッ」

さくらが人差し指を唇に当てる。

「あっ…」

お客さんのトイプードルが楽しそうな二人の会話にじっと耳を傾けていた。

「違うよ。例えば甘くて美味しそうなケーキを見ると脳がその情報を察知して神経伝達物質を分泌する。それが美味しそうなケーキの為に胃を広げたり胃の中の物を小腸に送りだす運動を促すんだ」

「三世さん…やっぱりお医者さんになりたかったんですね」

「え?」

──軽率だった…すらすらと喋ってしまった。

「人間の体についてもすごく勉強してるなぁって思って。頭の中すごいメモリを積んでそう」

ありきたりだけど、この答えでしのげるか…。

「実は、将来は医者に…」

三世のスマホが内ポケットの中で振動する。

ナイスタイミング!

「ちょっとごめん」

ポケットから出し画面を確認する。

「お仕事の電話ですか?」

「いいや。剣さんからのLINEだ。写真が届いてる」

タップして開く。

届いたのは小笠原諸島へ調査に行った三人とクリスさんの集合写真だった。

サングラスを掛けた剣、眠そうな菱耶、誇らしげに自分の身長ほどある細長い魚を抱えている恵光。

そして一番前に白毛のクリスさん。

「ふぅ…。一安心」

「何がですか?」

「剣さんとずっと電話が繋がらなくてさ、出張先も聞いていなかったから心配してたんだよ。でも、今写真が届いたから安心した」

さすがに恵光が大物釣って堂々と立っている写真なんて見せられないよなぁ。M.C.H.では出張扱いなんだろ?

剣さんがサングラスを掛けてた。

恐らく俱利伽羅竜王の目とリンクしていたんだろう。

まだ光に過敏に反応しているのか?

「あっ、また来た」

おいおい、真昼間っから宴会かよ……。

そこには恵光が釣った魚の船盛がテーブルの上にドーンと置かれ、ペットボトルに紛れて酒瓶も数本見えていた。

クリスさんの前にはあっさりした色の魚介系スープと新鮮トマト、焼き魚、デザートはスターフルーツとハイプレミアムなコース料理が用意されていた。

『恵光が釣り上げたオキサワラという魚。刺身、づけ、フライ最高!』

心配して損した。クリスさん、やっぱりスープには口付けてないな…。絶対口の中 火傷してるな。切り口が星型だ…。スターフルーツ?

よかった。今日は電波状況がいいみたいだ。急いで伝えないと大変なことになる。

『クリスさんにスターフルーツは絶対食べさせるな!嘔吐する!』

直ぐ既読になり返信が来る。

『OK!』

『早く帰って来いよ。小笠原コーヒーお土産によろしく』

「お父さんに何て返信したんですか?」

「ん?早く帰って来いよって」

「お父さんのこと心配してるんですね。家族を思う気持ちって大切ですよね」

「剣さんのこと?」

「もちろん」

気になるのは「さん」付けしてること。

敢えて聞かないことにしよう。

だって二人一緒にいると仲のいい親子にしか見えないもの。なんなら兄弟でもいけそうじゃない?

「コーヒーとケーキお持ちしました」

「来た来た♪」

さくらの嬉しそうな表情を見ているだけで俺は幸せだ。

──このまま…時が止まってほしい。

何故そう思うんだ?

俺は143年前を"さくら"とやり直したいのか?

名前が似ているだけで彼女は"桜"じゃない。なのにどうして…。

痛っ…。頭が急にズキズキしてきた。誰かが頭の中でノックしているみたいだ。

千世か?こんな時に出てくるなよ。

ヤバい。右手に五芒星が薄っすら出てきてる。

千世、お願いだ今は二人だけにしてくれないか。頼む…。

強く心の中でお願いする。

三世は隠すように右手を膝の上にそっと置く。

「三世さん。コーヒー冷めますよ」

「あ、うん」

隠した右手をこっそり見てみる。

──消えてる。願いを聞いてくれたのか?

眼、眼は?

コーヒーについてきたスプーンで確認する。

何ともない…。

「三世さんってカラーコンタクト入れてます?」

「え?」

「右眼だけ色が違いますよ」

しまった!スプーンで見たのは左眼か!

「そ、そうなんだ。笑った時に落としたのかも」

千世の奴…。何がしたいんだ?さくらとの関係に嫉妬してるのか?

白いトイプードルが三世の足元にトコトコやって来た。

「すいません」

慌てて飼い主が席を立ち、三世たちのテーブルに連れ戻しに来る。

「大丈夫です。獣医なんで慣れてますから」

三世は慣れた様子で手の臭いを嗅がせ耳の付け根を軽く撫でる。

「ありがとう。コンタクト見つけてくれたんだ」

手のひらで何かを受け取った仕草をする。

よし。危機一髪。誤魔化せた。

「ん?流涙症ですか?」

三世が直ぐにトイプードルの異変に気が付く。

「えぇ。最近目の周りが気にはなっていたんですけど。病院にはまだ行ってなくて、毎日拭いてはいるんですけど」

白いはずのトイプードルの目元の毛が茶色に変色していた。

──涙やけか…白いから目立っちゃうんだよな…。

「すいません。抱っこしてもらっていいですか?」

「は、はい」

飼い主の奥さんが抱き上げ三世にトイプードルの顔を近づける。

「逆さまつ毛だね。眼球に当たってしまっている」

「飼って5年目だけど初めて知ったわ」

「一応受診した方がいいかもしれませんね」

「ありがとうございます」

「自分、移動動物病院をやっていて、そこの会館でも月に1回だけですが開院してます。一応名刺お渡しておきますんで」

何事かと駆け付けて来た店員が安堵する。

「トイプーちゃん、原因がわかって良かったですね」

若い女性の店員が名刺を横からチラっと見る。

「もしかして、すぐそこの町内会館の駐車場でやってる人ですか?」

「は、はい」

「えー!!先生ご本人ですか!」

店員が両頬に手をあてて感動する。

見るからにオーバーリアクション。

「お客さんからも噂は聞いてます。すごく評判いいんですよ。診断は的確で早いし、なんてたって先生が超イケメンだって!」

「恐れ入ります」

そっちかい…。ま、評判がいいならいっか。

「本当に素敵な先生ですものね」

トイプードルも尻尾を振って三世にうっとりしているようだった。

「いえいえ」

「お二人の邪魔してごめんなさいね」

飼い主さんとトイプードルがご主人の待つ席に戻って行く。

三世とさくらは手を振り軽く会釈をする。

三世さんはやっぱり動物のお医者さんが向いているかも。

それにしても三世さんの超イケメン情報。噂は既に広まっていそうな感じね。

心のどこかで少し不安になってきた…。

三世さん、私なんかと一緒にいて釣り合ってる?顔も頭も良くて、絵も上手で優しくて…。

「さくらが一番だよ」

あっ!またもや口走ってしまった…。

「え?」

もしかして…心の中、読んだ?

「こ、今度、クリスさんも連れて来よう」

どうしよう…。完全に怪しまれてるよな…。

「そ、そうですね。愛犬と一緒のお客さんばかりだし」

気にしない。気にしない。また会う約束ができたし。

ぎこちない会話のラリーは一回で終了。

三世が少し冷めてしまったコーヒーを一気に飲む。

さくらは三世の不審な行動に思わず目が行く。

──あれ?

三世さんの右眼がいつもの琥珀色に戻ってる。

いつの間にコンタクト入れたんだろう。

元々の色は緑っぽいのかな?でも一度だけ赤いのを見たような…。

クォーター?アイルランドとか北欧系?

何でわざわざ褐色系の琥珀色に?緑というか翡翠の色もかっこいいのに…。更にイケメン度が増しそうだけど。

三世さんのことを知るのは焦らなくても大丈夫。

きっと…ずっと側にいてくれるから…。

だから次に会った時に聞いてみよう。

今、嬉しくて、それどころじゃないもの!

『さくらが一番だよ…さくらが一番だよ…』

リピートしてしまった…。

待って。

よく考えたら、

これって…まさかの告白?

「あっ!」

三世が突然何か思い出したようだ。

「どうしたんですか?」

「確かキッシュ、テイクアウトできたよね」

「えぇ」

「美味しそうだったから、お土産に買っていこうかな」

「お姉さんの分ですか?」

「それと一応兄の分も」

なるほど。お兄さんにも「一応」が付くんだ。

「お兄さんもいたんですか?」

「あぁ。上に1人」

てことは三世さんを入れると四人兄弟か。

三世さんって兄弟とすごく仲が良さそう。私は一人っ子だからチョット羨ましいな。

「お兄さんも見てみたいです。お父さん素敵だし。お姉さんも()綺麗だし。きっと…」

「細マッチョだぞ」

「はい?」

「でもって、料理上手な刑事デカ

──どう想像したらいいんだろう…。


読んでいただきありがとうございます。

小説の中に登場する菊芋を道の駅で購入しました。

注意書きに、食べ過ぎるとお腹が緩くなりますと書かれてました。

案の定 今日緩いです…。

触感は少しシャキッとしてて味は少し根菜系?ゴボウ?風味。

クセはありません。

美味しいんだけどな…。


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