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10.びびあんのおともだち

 小さな錬金術師を微笑ましく思っていると、ビビアンはむうっと頬を膨らませた。


「僕の、ジゼルが作ったのと全然違う……」

「ガラス玉の段階でもうこんなに透き通った色なのか……」

「ドランとたーちゃんの色作りと入れる量の調整が上手いんだよ」

「色そのものも綺麗だけど、混ぜた色の見え方もガラスの艶感も違う。こっちがジゼルさんの作ったガラスだって一目で分かる」

「材料はジゼルが用意してくれたのを使ってたし、工程だって違わないのに」


 兄弟で並んでジゼルの作ったガラス玉を見つめている。

 そんな姿を、ドランとたーちゃんはジゼルよりも嬉しそうに見守っている。けれどしばらくすると、ドランが時計を気にし始めた。


「ジゼルのガラスに魅入る気持ちは分かるが、メインは貯金箱じゃなかったのか? そろそろ取り掛からないと夕食に間に合わなくなるぞ」

「あ、そうだった!」

「おともだちのたーちゃんがおてつだいしてあげるねぇ」

「やった〜。僕、友達と錬金術するの初めて!」


 ビビアンは声を弾ませ、二色のガラス玉を手に取った。それらをゆっくりと自分の錬金釜に沈めていく。木べらを手に取り、魔力を込めてぐるぐるとかき混ぜる。


 その横でたーちゃんはいつもと同じダンスを踊り出す。けれど歌は少し違う。今日はビビアン用の曲だ。


「ぽんぽこぽんぽこ~びびあんのおともだち〜」

「ぽんぽこぽんぽこ〜僕のお友達〜」

「ぽんぽこぽんぽこ〜げんきにたのしくあそぼうねぇ〜」

「ぽんぽこぽんぽこ〜毎日ベッドで一緒に寝ようね」

「たーちゃんとジゼルみたいになかよくたのしくぅ」

「一緒にいろんなとこ行こうね~」


 歌いながら、時折一人と一匹で楽しそうに顔を見合わせる。

 えへへ~と頬を緩ませる姿は今日会ったばかりとは思えない。すっかり仲良しである。


「あがってきたよ〜」

「ゆっくりゆっくり引き上げないと」

「ビビアン、フェリックス。おじいちゃんが帰ってきたぞ〜。なっ!」

「なんでジゼルの精霊が違う錬金術師に力を貸してるんだよ!?」


 ビビアンが完成した貯金箱を引き上げると同時に、聞き覚えのある声が耳に届いた。


 一人はオーレル。城から戻って来たらしい。けれどもう一人は……。


「リュカ!?」

 オーレルの横でわなわなと震えているのはリュカ。『精霊の釜』所属の最年少錬金術師である。


 いや、ギルドが活動休止となったタイミングでもう辞めてしまっているかもしれないけれど。


 優秀な錬金術師であると同時に貴族でもあるリュカは多忙で、同じギルドに所属していても顔を合わせる機会はほとんどなかった。


 すっかり背が伸びた彼を前に、思わず頬が緩んでしまう。

 ジゼルからしてみれば、親戚の子供と久々に会った感覚だ。


 けれど初対面の少年の登場にドランは一瞬で緊張の糸を張り巡らせる。ジゼルの前に立ち、ギロリと睨みを利かせる。


「君はオーレルさんの知り合いか?」

「少し前までオーレルさんのギルドに所属していた。今は王宮錬金術師として働いている」

「『精霊の釜』の元メンバーだと? ジゼルを追い出した奴が今さら何の用だ!」

「『精霊の釜』に所属していたことは事実だが、僕にジゼルを追い出す意思はなかった。……信じるも信じないも勝手だがな。それよりこれはどういうことだ、ジゼル。彼はジゼルの契約精霊だろう」

「お友達の力になりたかったみたい」


 短く告げると、リュカの眉にギュギュっと皺が寄る。


 難しい依頼にあたってしまった時などにする、彼の癖だ。

 少し考えるような素振りを見せたが、やはり答えが見つからなかったようだ。


「それはどういう……」

「あ!」


 ジゼルへの問いかけはビビアンの叫びによりかき消された。


「どうしたの?」

「お金入れる穴、作り忘れた……」


 アヒルの貯金箱を抱え、しょんぼりと肩を落とすビビアン。

 けれどたーちゃんはこてんと首を傾げた。


「ごはんはおくちからたべるんだよぉ?」


 何を言っているのだとでも言いたげだ。けれどビビアンだけではなく、ジゼルもまたたーちゃんの言いたいことが分からない。


 なにせアヒルのくちばしはしっかりと閉まっている。

 ここにお金を入れることはできない。この場にいる人のほとんどが考え込む中で、最初に動いたのはリュカだった。


「よければこれを使ってくれ」

「うん!」


 財布から金貨を取り出し、たーちゃんに渡す。

 するとお金を受け取ったたーちゃんは「ここにおいてぇ」と机の上に貯金箱を載せるように指示を出す。


「おおきくなってねぇ〜」

 たーちゃんがアヒルのくちばしに金貨を近づけると、スッと消えてしまった。遅れて取り出し用に開けた穴から同じ硬貨が出てくる。


 どうやらくちばしが硬貨の投入口になっているらしい。

 たーちゃんはお話に出てきた、ご飯をあげるシーンが印象的だったのかもしれない。


 その意識がアイテムにも反映された、と。



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