9.ドランも一緒に
「できた〜」
結局、ビビアンはフェリックスの手を借りながらも、全てを任せるようなことはしなかった。納得のいく色が作れたようで、すり鉢を大事そうに抱えている。
「できた色はこの瓶に入れて、使う分だけ釜に入れていこうね。鉱物とは色味が違って、量の見極めも大事になってくるんだけど、こっちもやりながら調整していくのがいいからいくつか作ってみようか」
「ガラス玉なら得意だよ!」
「俺はここまでしかできないからな。ビビアン、あとは任せた」
「任された!」
ビビアンはドンっと胸を叩く。
机を整理し、先ほど材料と一緒に持ってきた秤を机に置く。
「秤はこれを使ってね。とりあえずこのくらいとこのくらいのガラス玉をそれぞれ五回作る計算で材料を量って、足りなくなったら後でまた計るようにしよう」
両手を使って大体の大きさを伝える。
一つ目は貯金箱のボディとなるガラス玉。
錬金釜のサイズを考慮し、ジゼルが両手の指先をくっつけて作った丸よりもやや大きめの想定だ。
二つ目はくちばし部分に使うガラス玉。
こちらはあまり量を使わないので、親指と人差し指で作った丸よりもやや大きめくらいを想定している。
「分かった!」
ジゼルとビビアンは揃って錬金術の準備をする。
魔力水を温めている間にガラス玉の材料を量っていく。ビビアンはいつも母の手伝いをしているだけあって手際がいい。
ビビアンが計り終えたらジゼルも材料を量る。それを錬金釜に投入し、様子を見ながら染料を入れていく。
「ジゼル、このくらい?」
「一回目は入れた量だけ覚えておいて、それをベースに調整していけばいいよ。貯金箱にする時にガラスが伸びるから、色は少し濃いめがいいかも」
ビビアンはコクコクと頷く。出来上がったガラス玉を錬金釜から引き上げ、乾かしながらよく観察する。
「色はもう少し薄めで、まだらが気になる。白いのとったのに……」
「釜をかき混ぜるスピードがちょっと速かったのかも。いろんなものを混ぜているから、慎重に混ぜないと色が揺らいじゃうんだ」
材料ごとの親和性もあるが、ジゼルの作る色は鉱物のみを使った色を使う時よりも繊細さが要求される。
だがこれも口頭でうまく説明することはできず、ビビアン自身が実際に回数を重ねて感覚を掴んでいくしかないのだ。
「そっかぁ……。あ、じゃあいくつも色を用意して早く混ぜればマーブル模様できる?」
「綺麗なマーブル模様が作りたい時は、別々にガラス玉を作ってから混ぜた方がいいかな。でもあえてランダムな模様を作りたい時は、ビビアン君が言ったみたいにいくつも色を入れて早く混ぜたり、逆にすごくゆっくり混ぜたりするといいよ。かき混ぜ方を変えてみるといつもとは違う柄ができるからオススメ。再現性は低いからそこだけ注意しないとだけど」
「そっか。おうち帰ったら作ってみようかな〜」
そう言いながら兄の顔色を窺う。
フェリックスはそんなビビアンに溜め息を吐きつつも、手伝ってあげる気満々だ。今回使わなかった材料や残った材料を確認している。
「材料はよく乾燥させて、水気を飛ばすのを忘れずにね」
「うん!」
「じゃあ、次はドラン。今ビビアン君がしていたみたいに、様子を見ながら私の釜に染料を入れて」
ビビアンの一日弟子がメインとはいえ、折角錬金術に触れているのだ。
本当にちょっとしたことではあるが、普段は体験しないことを試してほしかった。ドランは意外そうに目を丸くする。
「いいのか?」
「たーちゃんはいつもみてるから、きょうはドランにおさきゆずってあげるぅ」
「いや、そうじゃなくて。俺、錬金術使えないから邪魔になるかもしれない」
「ドランの兄ちゃん、心配しすぎだよ〜。僕だってジゼルの色使うの初めてだけどちゃんとできたもん。ジゼルと協力すれば絶対大丈夫!」
グッと拳を固め、ドランを後押しするビビアン。その言葉に反応したのは、今まで材料の確認をしていたフェリックスだった。
「なら後で兄ちゃんもくちばしの色入れていいか?」
「いいよ〜。兄ちゃんも一緒にやろう」
ペアになり、それぞれのガラス玉を作る。納得いくまで何度も何度もガラス玉を作っていく。だがこれらのガラスも無駄ではない。
途中でできたガラス玉は持ち帰り、今後の参考にするそうだ。
ドランとたーちゃんと話し合い、二人が作った染料を使った試作分も持って行っていいよと伝えると、とても喜んでくれた。
ビビアンはこれからも錬金術師として、母や兄に支えられながら成長していくことだろう。オーレルもあの様子なら孫にいいところを見せようと奮闘するに違いない。
もちろんジゼルも力になるつもりだ。
といってもオーレル達に比べたら微々たるものなのだが。一日しか師匠になれずとも、やはり弟子の成長は嬉しいものである。




