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5.一日弟子

「魔力操作も問題なさそうだし、そこまで基礎がしっかりしてるなら私が教えられることなんてないと思うなぁ」


 紛れもない本心だったが、ビビアンはブンブンと首を横に振る。


「いっぱいあるよ! 僕、まだジゼルのガラスみたいに透明度が高くて綺麗な色の作れないもん。あと、美味しい飴も! お土産に持たせてもらったの、すっごく美味しかった! みんなで分けたからちょっとしかなかったけど……。だから母ちゃんのお手伝いして貯めたお小遣いいっぱい持ってきたんだ〜」

「ジゼルのあめ、すっごいおいしいよねぇ〜。たーちゃん、あかいのすきぃ」


 ビビアンとたーちゃんは揃って頬を押さえる。今日会ったばかりなのに息ピッタリである。緑は疲労回復効果のある錬金飴なのだが、まだ幼いビビアンには効果を感じられなかったのだろう。


 飴として楽しむだけなら錬金飴はかなり割高だ。正直オススメしない。

 だがビビアンの目は錬金ランプとガラスを褒める時よりもイキイキしている。


「僕は緑のしか食べたことないけど、あんなに美味しい飴食べたの生まれて初めてだよ。母ちゃんもじいちゃんの部屋にあった赤と青の飴舐めて感動してた」

「今まで独り占めしてたのがバレて、じいちゃんこってり絞られてたけどな。……俺だって他の色の飴も食べたかったのに母ちゃんが全部持ってっちゃうんだもんなぁ」


 落ち込むフェリックス。彼も錬金飴を気に入ってくれたようだ。

 錬金飴を大瓶にいっぱい作っておいて正解だった。


 彼らの様子を見ていると、ビビアンがジゼルのどこに憧れてくれたのかが見えてきた。


 ビビアンはとても真っ直ぐなのだ。

 錬金術師を始めたばかりで、初めて見た物や珍しい物全てがキラキラしているように見えている。いわば様々なものから知識を吸収している状態。


 ジゼルも同じ道を通ってきた。

 だからこそ少しだけでも力になりたいと思えた。


「錬金飴の方はまだ教えてあげられないけど、錬金ランプ――ガラスなら弟子にならなくても……ううん、一日弟子になってくれたら教えてあげる」


 錬金飴は食品であり、薬のような一面もある。

 基礎となる回復ポーションを学んでいる最中のビビアンに、基礎から外れたことを覚えさせるべきではない。


 応用編は基礎をしっかりと押さえてから。

 ビビアンが作れるアイテムが需要や材料、分類ごとではなく、基礎的なものに固まっていたことから、ビビアンの母もジゼルと同じ方針だと思われる。


 だが日常的にポーション瓶などを作っている彼なら、ジゼルのガラスでも簡単に作れることだろう。それこそ一日でできるくらいに。


 そこにほんの少しだけ、いつもとは違うことを加えてみようと思う。


「一日弟子?」

「どうかな?」

「一日じゃ足りないよ! 僕はもっとジゼルと一緒に!」

「そうは言うけどなぁ、ビビアン。俺達、明日には家に帰るんだぞ?」

「しばらくいるんじゃないの!?」


 目を丸くするビビアン。ジゼルは事前に聞かされていたのだが、彼は知らなかったようだ。


 なんでなんで! と兄の肩を揺り始める。


「ちゃんと話聞いてなかったのか? 今日はじいちゃんがお城から呼ばれたのにくっついてきただけで、飛んで帰るにしても夜は暗くて危ないから一泊するんだ。着替えだって一日分しか持ってきてないだろ?」


 フェリックスはビビアンに見せつけるように小さな鞄を持ち上げた。そこでようやくビビアンは状況を理解したらしい。


 元気な様子から一転、しおしおと萎んでいく。


「服は母ちゃんが用意してくれたから……」

「あのなぁ、ビビアン。誰かの弟子になりたいならまず、自分のことは自分でできるようになれ。それにジゼルさんだって他の人にいっぱい飴届けなきゃなのに、一日弟子にしてくれるって言うんだぞ。憧れてる人を困らせるようなこと言うな」

「ううっ……ワガママ言ってごめんなさい。ジゼル、僕を一日弟子にしてくれる?」


 ビビアンは兄から叱られてすっかり落ち込んでしまっている。それでもちゃんと頭を下げて、潤んだ瞳で「弟子にして?」と頼むのだ。


 なんだか弟子というよりも弟ができたみたいだ。

 隣でドランも微笑ましそうに見守っている。


「もちろん! ガラス作りだけだとすぐ終わっちゃうから、色作りを重点的にやろうか。それなら錬金術を使わないからフェリックスさんとドランも一緒にできるし」

「俺もいいんですか!?」

「あ、もちろん買い物とか用事がなければ、だけど」


 フェリックスもビビアンの様子を見ているだけでは暇だろうと話を振ってしまったが、彼にも予定があったかもしれない。


 ビビアンならこちらで見ているからと、言葉の外に付け足したのだが、ビビアンとそっくりの、少し幼い笑顔が目の前に広がっていく。


「是非!」

「俺もいいのか?」

「たーちゃんもやるよぉ〜」

「みんなでやろうね。じゃあちょっと準備してくるから待ってて」


 今日は一日、客間を使用する許可をもらっている。

 材料は部屋にあるものを……と考えながら立ち上がる。遅れてドランも立ち上がった。


「ジゼル、手伝う」

「ありがとう」

「色作りって、色は鉱石で付けてるんじゃないの?」

「ジゼルのいろはねぇ、いしだけじゃないんだよ〜」


 たーちゃんはお客さんの相手をしてくれるようだ。今も得意げにビビアンの質問に答えている。ビビアンだけでなく、フェリックスも真剣に耳を傾ける。

 その間にちゃちゃっと用意してしまおう。


あけましておめでとうございます。

本年も『ジゼルの錬金飴』をどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)

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